関西の専門医が語るドクター's コラム
橋本病の診断と治療法
病気・症状と予防
2013年04月01日掲載
橋本病の診断
橋本病は、甲状腺組織の一部を取って検査をしないと正確な診断が難しい病気です。しかし、組織を取らずに甲状腺の腫れ方と血液検査で診断できるよう、診断基準というものを作っています。甲状腺に対する自己免疫の有無を診るために抗体検査をするのです。甲状腺に対する抗体検査には、サイロイドテスト、マイクロゾームテスト、TgAb、TPOAbがありますが、そのうち一つでも陽性であれば橋本病と診断できます。ただし、その時にバセドウ病がある場合は、バセドウ病と診断されます。
橋本病の治療
橋本病は甲状腺の慢性の炎症で、その炎症は自己免疫によって起きますが、その原因である自己免疫からこの病気を治すことはできません。治療は、炎症によって起こってくる甲状腺の腫れと甲状腺機能の異常に対して行われます。治療は甲状腺の機能状態によって分けて考えることになりますので、ご自身の検査結果、FT4値※とTSH値※を確認してください。
※FT4値…甲状腺ホルモン(遊離チロキシン)
※TSH値…甲状腺刺激ホルモン
1.甲状腺が腫れているが機能が正常な場合(FT4正常、TSH正常)
甲状腺機能が正常であれば、甲状腺が元ある形のままで大きくなっているだけで、悪性のものではないため、ほとんどの場合、体には何の異常も出てきません。喉に違和感があったり、見た目で甲状腺の腫れが気になったりする患者さんには、甲状腺ホルモンを投与して縮小を図ることもありますが、通常、治療の必要はありません。ただし、経過は観察しなければいけません。なぜなら甲状腺機能低下症になる可能性のある病気だからです。
2.軽度であるが、甲状腺機能が低下している場合(FT4正常、TSH高値)
血液中の甲状腺ホルモンは正常の範囲だが、下垂体から分泌されるTSHが少し高くなっている軽い甲状腺機能低下症のことを「潜在性甲状腺機能低下症」と呼んでいます。
この、潜在性甲状腺機能低下症に対しては、以下に該当する場合、甲状腺ホルモン投与などが行われます。
- 血液中のTSH値が10μU/ml以上ある
- TSH値が10μU/mlより低くても、動脈硬化症を促進する疾患(脂質代謝異常、糖尿病、喫煙、高血圧)がある
- 妊娠している
このほか
- 抗甲状腺抗体が陽性
- 排卵異常を伴う不妊患者
- 甲状腺機能低下症と一致する症状がある
- 甲状腺腫が大きい
といった場合も治療を考慮します。
3.甲状腺機能が明らかに低下している場合(FT4低値、TSH高値)
血液中のTSH値の上昇だけでなく、甲状腺ホルモン値も低下している状態で、「寒がり」「むくみ」などの甲状腺機能低下症の症状が出て来ます。この場合は、体にさまざまな悪影響が出て来ますので、不足している甲状腺ホルモンを補充する必要があります。
治療には、合成サイロキシン(T4)という薬を少量から服用し、少しずつ量を増やしていきます。甲状腺ホルモンにはT4※とT3※がありますが、T4だけの投与であっても、体内でT3に変化するので問題ありません。
※T3…トリヨードサイロニン
※T4…サイロキシン
《甲状腺ホルモン剤には副作用はないか》
甲状腺機能が低下していても、薬は飲みたくないと言う患者さんがいますが、T4製剤は体の中にある甲状腺ホルモンと同じものですので副作用はありません。しかし、投与量は適正でないといけません。ほんの少しでも投与量が過剰な状態が続きますと骨量が減少してきたり、心房細動などの不整脈の発症率が上がる可能性があります。高齢の患者さんはとくに注意が必要です。逆に軽度であっても甲状腺ホルモンが不足した状態が続くのも、精神機能の低下や動脈硬化が進展しやすいという点で良くありません。甲状腺ホルモンの適正投与量は、血中のTSH濃度が正常範囲に入る量です。「自覚症状がなければ良い」のではなく、時々検査を受けて、ホルモン量が適切かどうかのチェックを受けておく必要があります。
ドクターズメモ
食事や日常生活の注意
海藻類を過剰に摂取したり、うがい薬を続けて使用したりすると、甲状腺の機能が低下する可能性がありますので注意しましょう。
妊娠する可能性のある女性は
妊娠中はごく軽度の甲状腺機能低下症であっても、生まれてくる子どもの知能が低くなるという報告があります。妊娠が分かったらすぐに甲状腺機能を調べておくと良いでしょう。
ドクター's コラム「橋本病」
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