温泉で体が良くなるのは本当?温泉療法医に聞く湯治の効果
病気・症状と予防
2021年03月04日掲載
「温泉に入ると肌が綺麗になる」「肩こりや腰痛が良くなる」「疲れがとれる」温泉に関してこういったイメージを持っている方は多いと思います。
そんな温泉への入浴を療養行為とし、その効能で病気の症状を改善させ療養するのが「湯治」です。そこで今回は、温泉療法専門医の早坂信哉先生に、湯治の効果や具体的なやり方・湯治場の選び方について教えていただきました。
早坂信哉
温泉療法専門医
1968年生まれ。宮城県出身。1993年、自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。2002年、自治医科大学大学院医学研究科修了後、同大学医学部総合診療部、浜松医科大学医学部准教授などを経て、現在、東京都市大学人間科学部教授。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。日本温泉気候物理医学会理事、博士(医学)、温泉療法専門医。
湯治とは?
●湯治とは
湯治とは、温泉施設に長期間滞在して温泉の効能で病気の症状改善や療養を行うことを指します。湯治の歴史は古く、奈良時代にはすでに湯治の習慣があったとされており、日本書紀や風土記にも温泉での療養に関する記述が記されています。
●湯治に必要な期間は?
湯治による健康効果を得るには、最低でも1週間、もしくは3週間程度が理想的です。これは、人の体のリズムが約1週間単位で変化していくからです。とはいえ、現代のライフスタイルにおいて数週間温泉地に滞在するのはなかなかできることではありません。そこで近年では、現代人に合った湯治のスタイルとして「新・湯治」というものが提唱されています。(新湯治については後述します)
●湯治ができる湯治宿と普通の温泉宿との違いは?
湯治ができる温泉施設は、「湯治宿」と呼ばれています。湯治宿では、長期滞在ができるように宿泊料金が安めに設定されていたり、食事も健康を考えたヘルシーでシンプルな献立になっていたり、自炊ができるようキッチンが備わっていたりします。施設によっては看護師が常駐していることもあります。
●湯治の効果が期待できる病気・病態
1週間以上の湯治は、慢性的な疾患(痛み・アトピー・疲れやストレス・不安が強い・うつなど)の症状改善・療養に適しています。これらはいずれも異常が数値として現れにくく、現代医学だけでは完治しにくいものです。また、がんの術後の体力回復など療養などにも湯治が取り入れられることがあります。
湯治の効果とは
●自然治癒力を高める効果
現代医学では治しにくい慢性疾患の症状改善や療養に湯治が用いられるのは、自然治癒力の向上によって「疾患が自然に治る」働きが期待できるからです。現代医学の薬は、狙った病状に直接効果を発揮しますが、その病状にしか効果がありません。例えば、降圧剤には血圧を下げる効果がありますが、逆に言えばそれ以外の効果はないのです。一方、湯治によって自然治癒力が高まると、血圧の高い人は血圧が下がる・血圧の低い人は血圧が上がるなど、体内の状態を正常に戻す働きが見込まれます。
●転地効果
湯治に限らず、旅には「転地効果」というものがあります。日常生活を離れて、違った土地で違ったリズムで生活することで、リフレッシュやストレス解消ができるというわけです。いつもとは違う気候・景色・食べ物・人……場所が変わることが体と心にとって良い刺激になり、自然治癒力も高まると考えられます。
日帰り・1泊でもOK!現代版の「新・湯治」とは
忙しい現代人にとって1週間以上の湯治はハードルが高いものです。そこで近年提唱されているのが、現代版の「新・湯治」。これは、平成30年から環境省主導で行われている、現代のライフスタイルにあった温泉の楽しみ方を推進する取り組みです。
従来の湯治は、温泉に浸かり、その効能で病気の治療や療養を行うものでしたが、「新・湯治」は、周辺観光や食べ歩き・自然散策・陶芸などいったアクティビティと湯治を組み合わせます。観光と湯治を合わせることで転地効果が高まり、心身ともにプラスの影響が期待できます。実際に環境省が行ったアンケート調査では、日帰りや1泊の湯治でも、多くの人がストレス解消や安眠効果・疲労回復・美肌効果・肩こりや腰痛・冷え・憂鬱な気分・むくみの改善効果を感じています。
湯治のやり方・温泉に入る前後に注意すべきポイント
温泉に入った後に疲れや湯当たりをした経験がある方は多いかもしれません。温泉には健康促進効果がありますが、正しい入り方をしないと体に負担をかける恐れがあります。以下のポイントに留意してください。
●入浴前に注意すべきポイント
温泉に入る前に、水分補給をしておきましょう。入浴中は体が脱水状態になりやすく、41度のお湯に15分間浸かると約800mlの水分が失われます。脱水防止のためには、入浴後だけでなく先に水分を補給しておくことが大事です。
また、急に熱いお湯に入ると血圧が上がってしまうので、先に掛け湯で体を慣らしましょう。温度が高い場合は、ぬるめの場所に入るようにしましょう。
●入浴中の過ごし方
・1回の入浴時間と1日の入浴回数は?
温泉は、長時間浸かったり連続して入ったりすると体への刺激が大きくなります。最初のうちは1回の入浴は5分程度に、1日に1回にするのが望ましいでしょう。その後も、1回の入浴時間は額にじっくり汗をかくくらい(5~10分程度)に。1日に入浴する回数は最大3回程度に留めてください。なお、湯治を始めてから4〜5日すると、食欲減退や食欲増進、だるさなどの変化が現れることがあります。そういった場合は、回数を減らしてください。
・入浴中はリラックスするのが一番
温泉に浸かっているときは、何もせずにぼんやりしているだけでも構いません。心も体もリラックスさせることが大事なので、深呼吸をして景色やお湯を楽しみましょう。深呼吸をしてしっかり湯気を吸い込むと、鼻の粘膜や気管も潤います。また、筋肉がほぐれて体が柔らかくなっているので、足を回したり軽いストレッチをしたりするのも良いでしょう。
●入浴後に注意すべきポイント
・泉質によっては上がり湯が必要
上がり湯が必要かどうかは温泉の泉質によって異なります。酸性・アルカリ性に分類される温泉の場合は、上がり湯をしないと皮膚が傷む恐れも。上がりの必要性については、浴場内に注意書きがあると思いますので、それに従ってください。
・肌の乾燥を防ぐために保湿剤を使おう
温泉の泉質によっては肌の皮脂を奪い、乾燥させることがあります。お風呂から上がったら、保湿剤をぬって保湿を。特にイオウ成分が含まれた温泉は皮脂を奪いやすい傾向がありますので、しっかり保湿をした方が良いでしょう。
・湯冷めを防ぐ
入浴後は湯冷めにも気をつけましょう。体を拭いた後は、体が冷えないうちに服を着ましょう。そうすることで入浴によって上がった血行や体温が低下するのを防ぎ、温泉効果を持続しやすくなります。なお、汗がだらだら出るほど暑いときは、汗がひくまで涼しいところで休憩を。熱中症を防ぐために水分補給もしましょう。
●湯治期間中の過ごし方
湯治において一番大事なのは、体と心をゆっくり休めること。無理をせずにのんびりと過ごしましょう。体力に余裕のある方は、温泉地周辺で買い物や食事をしたり、軽めのアクティビティを取り入れたりするのもおすすめです。
また、転地効果やリラックス効果を高めるためには、日常に近いものはなるべく持ちこまない方が良いでしょう。なお、施設によっては独自の湯治プログラムを持っているところもあります。入浴の合間に勉強会などがあることも。興味のある方はぜひ参加してみてください。
●湯治を避けた方がいいタイミングもある
温泉に浸かるのは、それなりに体力を使います。体調が悪いとき・体力が低下しているときは避けてください。慢性的な疾患をお持ちの方も、症状がある程度安定しているときを選んだ方が良いでしょう。
温泉地・湯治場の選び方
全国にはたくさん温泉地や湯治場があります。選び方のポイントをご紹介します。
●日々の疲れをとりたい・温泉でゆっくりして気分転換したい方の場合
特定の疾患治療が目的ではない方(日々の疲れをとりたい・温泉でゆっくりして気分転換したいといった方)は、どこの温泉でも問題ありません。自分が行きたい温泉地を選びましょう。
●病後の療養をする方・体力がない方の場合
病後の療養を目的としている方や体力がない方の場合は、体に負担のかかりにくい平地や森・海沿いの温泉がおすすめです。山間部の温泉、特に標高1000m以上の高地は、体への負担が大きくなるので避けた方が良いでしょう。環境大臣が指定する「国民保養温泉地」も療養に向き、お勧めです。泉質については、匂いのきつくない温泉・色のついていない温泉の方が体に優しいことが多いです。温泉の種類で言うと、単純温泉や塩化物泉・硫酸塩泉・炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉がおすすめです。
●皮膚疾患の治療を目的とするなら、温泉療法専門医に相談しよう
皮膚系の疾患の治療を目的としている方の場合、どこの湯治場が良いのかを自分で判断するのは難しいと言えます。温泉療法専門医に相談することをおすすめします。
※温泉療法専門医とは
温泉療法専門医とは、日本温泉気候物理医学会の認定した温泉の専門的な医学的知識を持つ医師のこと(学会ホームページで検索可能)。患者の症状から、最適な湯治場を案内することが可能です。また、これらの医師に受診して指示書を出してもうことで、湯治の際の交通費や利用費が医療費控除の対象となる「温泉利用型健康増進施設」という制度も利用できます。
●特定の疾患療養に特化した湯治場も
湯治場の中には、特定の疾患の症状緩和や療養のために利用者が多く集まる温泉もあります。有名なのは、アトピーや乾癬の療養で知られる北海道・稚内近くの「豊富温泉」や、がんの療養で知られる秋田県にある「玉川温泉」などです。
まとめ
自然治癒力を高め、転地効果によって心身の健康を促進する湯治。病気の治療には病院でしっかり検査、治療をするのが先決ですが、現代医学だけでは好転しない病状に悩んでいる方は、一度温泉療法専門医に相談してみてはいかがでしょうか。また、「湯治をやってみたいけれど、長期滞在はむずかしい」「日々の疲れやストレスを解消したい」という方は、現代版の新・湯治を取り入れてみましょう。
温泉療法専門医 早坂信哉
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。