関西の専門医が語る ドクター's コラム
十二指腸潰瘍とピロリ菌
病気・症状と予防
2014年04月01日掲載
村野実之 むらのクリニック 院長
十二指腸潰瘍とは
“指12本分を並べた長さがある”ということに由来する十二指腸は、胃と小腸をつなぐ消化管です。胃から送られてきた食物は、十二指腸で胆汁やすい液などの消化液とまざりあってさらに消化され、小腸の一部となる空腸へ送られます。この十二指腸の粘膜を自身の胃酸で傷つけてしまった状態が、十二指腸潰瘍です。十二指腸は球部(きゅうぶ)、下行部(かこうぶ)、水平部(すいへいぶ)の3つに分けられますが、潰瘍がもっともできやすいのは、胃酸の影響を受けやすい入り口部分である球部です。潰瘍が進行すると、出血したり穴が開いたりする場合もあります。
30~40代の若い世代が十二指腸潰瘍になりやすいと言われていますが、10代から高齢の方まで幅広い世代に見られる疾患です。
十二指腸潰瘍の原因のほとんどはピロリ菌
十二指腸潰瘍の原因の約95%がピロリ菌だと考えられており、ピロリ菌が胃全体に感染していれば胃潰瘍に、胃の出口付近に感染していれば十二指腸潰瘍になりやすいという報告があります。
ピロリ菌の正式名称はヘリコバクター・ピロリ。ピロリ菌が胃の中に生息していることは、1982年、オーストラリアの研究者によって発見され、それ以降、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療は大きく様変わりしました。
ピロリ菌は、おもに5歳以下の乳幼児期に、川の水や井戸水など衛生環境の良くない水を摂取したことや、母子感染が主な感染経路だと考えられています。したがって、衛生環境の悪い時代に子どもであった高齢者ほど感染率が高く、50歳以上の日本人の6~8割はピロリ菌に感染しているといわれています。逆に、衛生環境が整い、食べ物の口移しなど母子感染にも注意を払うようになっている若い世代ほど感染率は低く、20代では20%以下とされています。
ピロリ菌は一度感染すると、除菌するまで胃の中で生き続けます。
長期間、ピロリ菌に感染していると、ピロリ菌が作り出す様々な物質が胃の粘膜を傷つけ、胃酸の刺激を受け続けることによって、胃潰瘍につながります。そして胃酸の分泌が高い場合は、十二指腸に胃の粘膜がくっつき、さらに胃酸が流れ込むことによって、十二指腸潰瘍になると考えられています。さらに、ピロリ菌に感染している状態では、ストレスも潰瘍を引き起こす原因になるとされています。
ただし、感染している人のほぼ100%が軽い胃炎を発症しますが、必ずしも胃潰瘍や十二指腸潰瘍になるわけではありません。ピロリ菌に感染していてもほとんどの人が自覚症状なく過ごしていますが、ピロリ菌による胃炎の一部は胃がんに進行することもあるため、注意が必要です。
ピロリ菌以外の原因
ピロリ菌以外の十二指腸潰瘍の原因としては、解熱鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)による炎症があります。ピロリ菌による潰瘍に比べ症状が出にくいため、吐血や下血などの症状が突然現れ、急性十二指腸潰瘍となることが多くあります。
ドクターズメモ
ピロリ菌はなぜ生きられる?
ピロリ菌が生息する胃には非常に強い酸(胃酸)が分泌されているにも関わらず、なぜピロリ菌は生きることができるのでしょうか。
ピロリ菌はウレアーゼという酵素をもっており、ピロリ菌の周りをアルカリ性にすることができます。そのため菌の周りを中和することができ、強い酸から身を守ることができるのです。
またピロリ菌の端には複数のべん毛があり、べん毛の先には袋のような膜がついています。ピロリ菌はべん毛によって素早く移動でき、さらに胃の中でも酸の弱そうなところを探して生息していると言われています。
主な症状
十二指腸潰瘍の症状でもっとも多いのは空腹時の痛みです。夜間や早朝などにみぞおちのあたりに痛みを感じます。胃酸過多になることから胸焼けや吐き気を感じたり、食欲不振になったりする場合もあります。
重症になると背部痛や、潰瘍からの出血で吐血、黒色便といった症状が現れることもあります。
ドクター's コラム「十二指腸潰瘍とピロリ菌」
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