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関西の専門医が語る ドクター's コラム

摂食障害(過食症・拒食症)

永田利彦

執筆:なんば・ながたメンタルクリニック 院長

大阪府出身。大阪市立大学医学部卒、同大学院医学研究科修了(医学博士)。大阪市立大学助手、講師、大学院医学研究科(神経精神医学)准教授を経て開院。関西一円の先生と「摂食障害懇話会」を定期開催している。

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執筆:永田利彦 なんば・ながたメンタルクリニック 院長

摂食障害(過食症・拒食症)とは

摂食障害(過食症・拒食症)とは

摂食障害とは、一般的に過食症、拒食症という名前で知られており、過食、拒食といった異常な摂食行動を示す精神障害です。肥満を極度に恐怖し、明らかに体重が低すぎる場合でも、健康な体重に戻ることを拒否します。患者の9割は高校生ぐらいの若い女性ですが、近年では患者の増加とともに小学生から30歳代、40歳代、さらに男性へと広がっています。

過食症と拒食症は相反する疾患のようにみえますが、拒食症から過食症へと移行することも多くあり、両者はひと続きの障害だと考えられています。したがって過食症と拒食症の区別は、正常な体重の範囲内であるかどうかで判断されます。ただし、古典的な拒食だけのタイプは今では少数派です。

どんなにやせ細っても、本人の危機意識はない

摂食障害では絶食に近い過激なダイエットを行うことも多く、独特な食事法と過剰な運動を行うという特徴があります。食事では米飯を拒否し、たとえ食べたとしても野菜やこんにゃく、海藻など、決まった食べ物しか口にせず、食材を細かく切り刻んで食べるという場合もあります。運動では何時間も歩き回るというような過剰な運動を毎日のように行います。その結果、体はやせ細り、生理が止まったり、心身ともに健康な状態を維持できなくなりますが、本人にはまったく危機意識がありません。
一方で、菓子パン10個などのような明らかに大量の食物を、短時間のうちに食べるというケースもあります。しかし、自ら吐いたり、規定量より多くの下剤を飲んだりして、体重が増えないようにコントロールします。
摂食障害の患者さんには、学校や会社といった社会生活への支障をきたし、学校を休んだり、辞めたりということが少なくありません。さらに、どんなにやせ細っても自分では自覚がないために、体重をさらに減らし、飢餓によって死に至る場合もあります。精神障害の中で最も死亡率が高いのが摂食障害です。

摂食障害の原因

摂食障害のきっかけは「ダイエット」

なぜ摂食障害になるのか、その原因は複数の要因が複雑に絡み合っており、何か一つの原因で説明することは非常に困難ですが、摂食障害に陥るきっかけは、多くの場合「ダイエット」だといえます。
ダイエットはなかなか成功しないものですが、いったん成功すると、元の太った体に戻りたくないと考えるのは普通のことです。とはいえリバウンドする人も多く、このとき健康な人の場合は「まぁいいか」というような考えになります。
一方で、摂食障害に陥る人は、リバウンドすることが“恐怖”と感じてしまいます。その結果、さらに過激なダイエットを行うようになるのです。リバウンドを“恐怖”と感じるその背景として、「こころの葛藤」や「人間関係・将来像への不安」を抱えていることが考えられます。特に高校生ぐらいの年齢では、感情が不安定であったり、友だちや親との関係に悩んでいたり、社会人として生きる将来について不安を抱えることは多くあります。思春期の時期に摂食障害に陥ることが多いのは、このためです。

ダイエットに固執する理由

健康な人では途中で挫折することの多いダイエットですが、摂食障害に陥る人はダイエットに固執します。その理由として、挙げられるのが“自己評価の低さ”です。ダイエットに成功し、周囲から「きれいになった」「かわいくなった」などの言葉を聞いたり自分自身を評価したりすることによって、「私はやせてさえいれば、人生がうまくいく」と思い込んでしまうのです。つまり、ダイエットの成功体験が自己評価の低さを代償し、さらに過剰なダイエットにはまっていくのです。

ダイエットに固執する理由

摂食障害になりやすい人

摂食障害患者の約9割は女性

摂食障害の患者数は年々増加しており、一般的には9割以上が女性の患者さんだといわれています。主に思春期の時期に発症しますが、小学生や、30~60代の患者さんもおり、思春期の摂食障害に比べ治りにくいという特徴があります。
なぜ女性に多いのか、それは「かわいい・きれい」であることが、多くの女性の価値観のなかで上位にある、ということがあります。「かわいい・きれい=やせていること」という考えが、摂食障害の背景にある一つの要因なのです。
かつて、摂食障害はまじめで成績優秀な優等生タイプの女性が多くかかる病気でした。現在では、上記で説明したような「こころの葛藤」や「人間関係・将来像への不安」を抱えている人、発達障害を抱えている人など、さまざまなタイプの人がかかる病気となっています。
また、「摂食障害になるのは、両親の育て方が悪い」という見方をすることがありますが、これはよくありません。子どもへの対応に疲れ切った両親を、さらに追い詰めるだけだといえます。一方で、摂食障害を回復させるためには、両親が子どもへの正しい接し方を学ぶことは、非常に重要なプロセスです。

ドクター's コラム「摂食障害(過食症・拒食症)」

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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