犬や猫などの動物に噛まれたら。注意したい感染症は?病院は何科に行くべき?
病気・症状と予防
2019年03月20日掲載
犬や猫に強く噛まれたり血が出るほど引っかかれたりしたとき、どのように対処すべきかご存知ですか?
今回は、犬・猫などの動物に噛まれたときに注意したい感染症・応急処置法・病院は何科に行くべきなのかなどを、医師の城田哲哉先生に教えていただきました。
動物が持っているウイルスの種類やワクチン接種の有無次第で、死に至る病気に感染する可能性もゼロではありません。ペットを飼っている方・これから飼おうと思っている方は、是非ご覧ください。
城田 哲哉
やお城田クリニック 院長
外科医として急性腹症を専門としつつ、小児から高齢者、また内科疾患から外科疾患まで、多岐にわたる診察・治療を経験。現在は、外科的処置も可能な内科医としてクリニックにて診療している。
INDEX
ペットから感染することも。動物に噛まれてかかる主な感染症
【破傷風】
● 破傷風とは
破傷風とは、土の中に存在する「破傷風菌」に感染することで発症する病気です。例えば犬が散歩中に土をなめたとします。その土の中に破傷風菌があると、犬の舌に破傷風菌がつきます。犬がその口で飼い主の手などをガブっと噛むと、噛まれた人が破傷風に感染する恐れがあります。
● 注意したい動物
犬や猫・ヘビ・モグラ・ハムスターなど、土に触れる可能性のある動物すべて。
● 破傷風の症状
- 噛まれた箇所が赤くなる
- 全身のひきつけ
● 破傷風の治療方法
動物に噛まれた患者に対して、多くの医師は破傷風のワクチンを打つ対処をします。
実は日本人は幼少期に破傷風のワクチン接種をしているので、たとえ動物に噛まれたとしても破傷風を発症する可能性はほぼありません。しかし、ワクチンの効果は年齢とともに弱まります。だから「念のため」という意味を込めて、破傷風のワクチンを投与する医師が多いのです。なお、破傷風のワクチンは保険がききます。自己負担3割程度であれば、単体で約200円~300円でワクチン接種が受けられます。
【狂犬病】
● 狂犬病とは
狂犬病とは、狂犬病ウイルスに感染することで発症する病気です。その名前から「犬に噛まれると感染する」というイメージがついていますが、犬以外の動物も狂犬病ウイルスを持っているので、様々な動物が感染源になる可能性を持っています。
狂犬病は人間が感染すると100%死に至る恐ろしい病気です。しかし近年の日本で、狂犬病で亡くなった方の報告はありません。
● 注意したい動物
狂犬病ウイルスに感染した犬やその他の動物すべて。
● 狂犬病の症状
感染から1カ月ほどの潜伏期間を経て、以下のような症状が出ます。
[初期症状]
- 発熱
- 頭痛
- 倦怠感
- 悪寒
- 食欲不振
- 嘔吐
[進行症状]
- 意識障害
- 意識の錯乱
- 幻覚症状
- 全身ひきつけ
- 全身麻痺 (まひ)
- 臓器不全
● 日本の犬は安心?
狂犬病予防を目的に、日本は飼い犬のワクチン接種を国民に義務付けています。そのおかげか、日本の犬は狂犬病のワクチン接種率が非常に高いと言われています。日本で狂犬病患者が確認されていない理由は、このような背景にあると考えられます。
ただし、ワクチン接種をしていないであろう野良犬・野良猫には注意が必要です。また、日本国内にもワクチン接種率が低い地域も存在します。さらに海外の犬や猫はワクチン接種率が低い可能性もあるので、気をつけるようにしましょう。
● 狂犬病の治療方法
噛んできた動物が狂犬病ワクチンを打っているかどうか分からないのであれば、噛まれた人はワクチン接種を受けると安心でしょう。ただし、これは理論上の話です。「近年、国内で狂犬病患者が発生していない」という背景があるため、日本の医療現場でワクチン接種をする処置は基本的にしていません。もしも狂犬病感染が疑われる場合は、医師と相談をして対処法を決めてください。
なお、狂犬病のワクチンを人間が接種する場合、自費で約14,000円かかります。
【パスツレラ症】
● パスツレラ症とは
パスツレラ症は、パスツレラ菌に感染することで起きる病気です。パスツレラ菌は口腔内常在菌のひとつで、猫は70~90%、犬は20~50%保有しています。保有率が高い猫を介した感染が多い傾向があります。
● 注意したい動物
パスツレラ菌を持つ猫や犬。
● パスツレラ症の症状
パスツレラ菌は人体に入っても、無症状で済むことがあります。しかし免疫力が落ちているときは、以下のような症状が現れやすくなります。
- 感染してから30分~1時間後に激痛を伴う腫れ
- 皮膚の炎症
重症になると壊死(えし)性筋膜炎・骨髄炎・けんしょう炎・化のう性関節炎・呼吸器感染症に発展することもあります。特に糖尿病の患者さんやお年寄りは重症化しやすい傾向があるため、注意が必要です。
● ペットとの過剰なスキンシップが原因になることも
パスツレラ症はワクチンがないことも手伝ってか、発症例の多い病気です。ペットとキスをするなどの過剰なスキンシップはできるだけ避けて予防をしましょう。
【バルトネラ症 (通称:猫ひっかき病)】
● バルトネラ症とは
バルトネラ症とは、バルトネラヘンセレという菌が原因で起きる感染症です。バルトネラヘンセレは、猫ノミの一種に生息しています。感染経路としては、まず猫ノミに吸血された猫や犬がバルトネラヘンセレに感染します。そして、その感染した動物が人間を噛んだりひっかいたりすることで、二次感染が起きます。
猫を介するケースが多いため「猫ひっかき病」とも呼ばれていますが、猫だけではなく犬から感染することもあります。
● 注意したい動物
バルトネラヘンセレに感染している猫や犬。
●バルトネラ症の症状
- 湿疹が出る
- 脇や足の付け根などのリンパ節が腫れる
● バルトネラ症の予防にはノミの駆除が有効
バルトネラ症の予防法としては、飼い猫や飼い犬のノミ駆除を定期的に行うことが効果的です。
動物に噛まれた直後は何をすべき?噛まれたときの応急処置
動物に噛まれたら、とにかく水をかけて洗い流すことが大事です。水道水を出しっぱなしにして、患部に流水を5分以上かけてください。
血が出ている場合も、まずは5分流水をかけます。それでも血が出てくるようであれば、患部の圧迫を。清潔なガーゼやタオルを使って、患部をグッと抑えて止血します。それから病院へ行きましょう。消毒はしなくても構いません。
病院に行くなら何科?すぐに受診が必要なケースは?
● 病院に行くべきかどうかの判断は?
結論から言うと、動物に噛まれたら病院に行くべきでしょう。特に野良犬や野良猫は、どんなウイルスを持っているかわかりません。前項の応急処置をした後、病院で診察を受けましょう。
● 何科に行くべき?
動物に噛まれたら、基本的には救急外来 (ER, emergency room) を受診しましょう。日本の救急外来には内科系・外科系など専門の異なる医師がいますので、外科系の医師がいるかどうかを確認して受診すると良いでしょう。
● すぐに病院に行くべき?
痛みやかゆみといった症状が局所 (噛まれたところ) だけでなく全身に出ている場合や、ひきつけ・息苦しさなどの全身症状が出ている場合は、一刻も早く病院へ行ってください。
● 免疫が弱っている人は病院へ!?
免疫力が低下すると、ウイルスと戦う力が弱くなって重症化しやすくなります。お年寄りや糖尿病にかかっている人・ステロイドを使用している人などは免疫が低下しているため、動物に噛まれた際は念のために病院に行きましょう。
ハムスターやヘビに噛まれたらどうすべき?
● ハムスターに噛まれるとアナフィラキシーショックになる!?
あまり知られていませんがハムスターの唾液が体内に入ったことが原因で、急激なアレルギー反応を起こしたという症例が報告されています。
ハムスターの唾液が、「呼吸がしづらい」「手足がひきつけを起こす」「意識がもうろうとする」といったアナフィラキシーショックを引き起こすのです。ハムスターに噛まれた後、このような症状が出たらすぐに病院へ。一刻を争うので、救急車を呼ぶことも視野に入れてください。
● ヘビに噛まれたら毒に注意
ペット用のヘビは毒の心配はほぼありませんが、野生のヘビの中には毒を持つ種類もいます。野生のヘビに噛まれた場合は、すぐに病院に行きましょう。
妊婦さんが気をつけたい「トキソプラズマ症」って?
● トキソプラズマ症とは
トキソプラズマと呼ばれる原虫が寄生することで感染する病気です。感染経路は、トキソプラズマに感染した動物の生肉を食べる・感染している猫の糞尿が口に入るといった「経口感染」です。
重症化すると脳や神経系に影響を与え、ときとして死に至らせる怖い感染症なのですが、実は世界の人口3分の1の人間が既に感染していると推測されています。日本人も成人は既に感染している可能性が多いと予測されています。しかし感染しても無症状、もしくは軽度の風邪のような症状にとどまることがほとんどです。
ただし、免疫力の弱い方は重症化することがあります。また妊婦が初めて感染すると、胎児に影響を与えてしまう可能性もあります。ワクチンがない感染症なので、妊娠中は生肉を食べない・土いじりはあまりしない・猫との付き合い方を考えるといった予防策をとりましょう。
まとめ
近年のペットブームで犬や猫を飼っている方は増えています。ペットは可愛い存在ですが、人間が感染すると重症化してしまうウイルスを持っていることもあります。
大切なペットがどんなウイルスを持っているのか・それにはどんなリスクがあるのかをきちんと理解し、もしもに備えて対処法を知っておきましょう。
やお城田クリニック院長 城田 哲哉
やお城田クリニック URL:http://yaoshirotaclinic.com
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。