関西の専門医が語るドクター's コラム
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
病気・症状と予防
2013年04月01日掲載
小川 達司
執筆:小川クリニック 院長
消化器一般外科、呼吸器外科を中心に大阪府下の病院で外科医として勤務し、1998年には大阪府立病院の消化器一般外科医長となる。2004年には小川クリニックを開院し、『わかりやすく、親切、丁寧な診療』をモットーに地域に根ざした診察を行っている。
人間の体にとって有害な粒子やガスを吸い込んでしまうことで、肺や気管支が炎症を起こし、それがもとになって進行性の気流制限(呼吸が上手くできなくなること)が現れる病気を、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」と言います。
以前は、慢性閉塞性肺疾患を引き起こす原因疾患として「肺気腫」と「慢性気管支炎」に厳密に分類されていました。しかし現在では、両者とも喫煙が原因である場合がほとんどで、また両疾患が合併することが多いことから、この二つの疾患による閉塞性肺疾患を合わせて慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ぶようになりました。
※一般的に、肺気腫は病理学的用語で、慢性気管支炎は症状・診断として使われることもあります。
世界で年間300万人が命を落とすCOPD
WHO(世界保健機関)の試算では、1990年に全世界の死亡原因の第6位だったCOPDですが、2005年には世界中で年間300万人が命を落としたとされ、死亡原因の第4位に上昇しました。COPDによる死者は、今後10年間でさらに30%増加すると予測され、2020年には死亡原因の第3位になると推定されています。また、厚生労働省の統計によると、日本では2007年に14,907人(全死亡数の1.3%)がCOPDにより死亡し、死亡原因の第10位、男性に限ると第8位となっています。
COPDの原因
COPDの最大の原因は「喫煙」です。COPD患者の実に90%が喫煙者で、喫煙者がCOPDを発症する確率は、非喫煙者に比べて6倍にもなるというデータも存在しています。
喫煙以外でCOPDの原因として挙げられるのは、粉塵や化学物質によるもので、職業上それらを扱う人も発症する可能性が高くなります。また、日本人には少ないですが、ある酵素が欠損することによって遺伝する場合(α1-アンチトリプシン欠損症)もあり、また、加齢も原因の一つです。
肺は人間の生命維持に必要となる酸素を空気中から取り込み、不要な二酸化炭素を体外に排出する役割を担う器官です。呼吸をするための空気の通り道は、太い気管から気管支、細気管支へと枝分かれしていき、さらに終末細気管支、呼吸気管支、肺胞管となり肺胞嚢(はいほうのう)へ連なり、肺胞に達します。肺胞では酸素と二酸化炭素とのガス交換がおこなわれますが、COPDはこの酸素を取り込む肺胞の壁が破壊されていく病気です。
それでは、次にCOPDの原因となる二つの病気について説明しましょう。
【肺気腫とは】
肺の容積の実に85%を占める、小さな袋状の組織が肺胞です。肺胞は、血液中に酸素を取り入れ、不要になった二酸化炭素を放出する役割を果たしています。肺気腫とは、タバコの煙や有害な物質を長期間に渡って吸い込むことで、肺胞の壁が徐々に壊れたり、肺胞壁が拡大したりして、次第に肺全体の機能が低下する病気です。肺気腫になると、息を充分に吐き出せなくなり、肺が過膨張(膨らみきった風船の状態)となって、さらに酸素と二酸化炭素の入れ替えが上手くできなくなるため、階段の上がる程度の軽い運動でも、すぐに息切れをするような状態になってしまいます。
【慢性気管支炎とは】
気管支が炎症を起こしている状態を気管支炎といいますが、それが慢性的に続くと慢性気管支炎となります。具体的には、痰(たん)の量と咳の回数が異常に増えるだけでなく、痰を伴う咳が1年間に3カ月以上も続くような状態が、2年以上みられる場合が慢性気管支炎にあたります。ただし、肺結核や気管支ぜんそく、気管支拡張症などが原因で起こる症状は除きます。気管支の炎症が慢性的になれば、気管支の粘膜の分泌線が肥大して、気管支の壁である気管支壁が壊れていきます。それが原因で多量の痰を伴う咳が続き、呼吸困難や“ばち指※”、チアノーゼといった症状が現れ、さらに心不全も併発すると浮腫(むくみ)が出てきます。
※ばち指とは
手足の指先が幅広く膨らんだようになり、爪の付け根の部分の角度がなくなった状態です。
COPDの診断基準
息切れや、過度の咳、多量の痰といった症状を持つ喫煙者はCOPDの可能性があります。COPDの診断には、吐き出す息の量と、息を吐き出す時間を測定する「スパイロメトリー検査」が用いられます。この検査を受けることで、さまざまな肺機能の指標を測定できます。
COPDの診断には、この検査によって測定された、いくつかの項目に注目することになりますが、もっとも注目すべき項目が「1秒率」です。この「1秒率」とは、最初の1秒間に吐き出す息の量が、吐き出す息の全量の何%を占めるかを表す数値となります。
検査の結果、1秒率が「70%未満」であった場合、気管支拡張薬(β2刺激薬)を吸入させ、もう一度スパイロメトリー検査を行います。再検査をしても、1秒率が70%未満であった場合には、COPDが強く疑われます。気管支拡張薬吸入で気道の可逆性が見られれば(つまり、1秒量が大きく改善すれば)、COPDではなく、気管支喘息の可能性が高くなります。
検査方法
胸部X線検査、CT検査等で肺腫瘍やびまん性汎細気管支炎など、他の疾患を除外します。CT検査によって気腫化病変が認められた場合、気腫優位型のCOPDの可能性が高くなります。
ドクター's コラム「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。