関西の専門医が語るドクター's コラム
突発性難聴とは
病気・症状と予防
2013年04月01日掲載
瀬尾 達
執筆:医療法人瀬尾記念会 瀬尾クリニック 理事長院長
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
大正時代からの耳鼻科の家系で、祖父、父、兄弟、叔父、従兄弟すべて耳鼻科医。
昭和37年生。大阪星光学院高校、兵庫医科大学卒業後、兵庫医科大学医員、助手、医長、講師を経て、瀬尾クリニック開業。現在も、診療のほかに、大学講師、看護学校講師を兼任。
突発性難聴とは、ある日突然、何の前触れもなく、耳が聴こえなくなる病気で、原因や病態は未だに不明です。この突発性難聴のタイプは感音難聴といいます。
一般的に感音難聴は治療困難ですが、この突発性難聴は、正確な診断と一刻も早い適切な治療をすることによって治すことが可能です。
ドクターズメモ
伝音難聴と感音難聴
耳は、大きく、「外耳」「中耳」「内耳」の3つに分けられます。
伝音難聴とは、「外耳」「中耳」の病気で、「内耳」は正常な状態です。代表的なものに、耳垢栓塞、外耳円、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎などがあります。
感音難聴とは、「外耳」「中耳」は正常な状態で、「内耳」の病気です。代表的なものに、突発性難聴、老人性難聴、職業性難聴、メニエール病などがあります。
一年間にどれくらいの人がなる?
2001年の調査では、おおよそ全国で年間35,000人(人口100万人に対して275人)。かつての統計では40歳代から50歳代の女性に多く見られましたが、最近では10代から20代の若い方、また男性も増加傾向にあり、年齢や性別においての偏差は見られなくなってきています。また、最近は病気の認知度の上昇につれ、患者も明らかに増える傾向にあります。
突発性難聴は、厚生労働省の123ある特定疾患のひとつに指定されているいわゆる難病のひとつですが、いつ誰かなるかわからない病気ですので、病気に対する十分な理解が必要でしょう。
突発性難聴の原因
突発性難聴の原因は、内耳に障害が生じる感音難聴と考えられていますが、現在のところ確実な原因は不明です。どうして内耳に障害が起きるかは、現在研究段階にあり、以下の説があります。
1.毛細血管の血流が妨げられ内耳に血液が十分届かずに機能不全を引き起こすという内耳循環障害説
2.感染症に対して抗炎症作用を持つステロイド剤が有効であることや、地域・時期により流行性があることからウイルス感染が原因という説
同じ感音難聴である老人性難聴のように、特に家族傾向や遺伝傾向の要素は見つかっていません。
突発性難聴の診断方法
突発性難聴の診断方法は、問診を詳細に行い、「ある瞬間からはっきりした突然の難聴」があれば診断は容易です。耳鼻咽喉科で行われる耳の視診検査(耳鏡検査)で、次のような場合は突発性難聴が疑われます。
- 外耳道に閉塞がない
- 鼓膜にまったく異常が認められない
- 聴力検査室で左右それぞれも聞こえの検査を行い、片方の耳の感音難聴が特定できる
前述の随伴症状としての耳鳴りやめまいの有無もチェックすることが大切です。めまいがひどい場合は、眼振(めまいに伴う、眼球の不随意的な規則正しい往復性の回転運動)を認めることもあります。その場合、眼振を観察するには、専用の眼振めがねを用います。
なお一般的には「突発性難聴は再発しない」と言われており、1度治療してから2度3度繰り返すものは突発性難聴とは言わずに、「低音障害型感音難聴」や「蝸牛型メニエール病」 と考えられています。
ドクターズメモ
低音障害型感音難聴
いわゆる突発性難聴の1種で、特に若年の女性に多い病気です。最初は、突発性難聴と同様に突然発症しますが、繰り返し起きます(この点が突発性難聴と異なります)。自覚症状は、難聴より、耳鳴り・耳閉感が多く見られます。症状のある急性期と症状のない慢性期とを繰り返し、自覚症状は日によっても違い、急性期は数分から数日までさまざまです。めまいを繰り返す前庭型メニエール病に対して、難聴や耳鳴りなど蝸牛症状を繰り返すので、蝸牛型メニエール病とも言われます。睡眠不足、過労、ストレスを除去するのも大事です。最近、注目されている病気で、内耳浮腫が関係していると考えられています。
突発性難聴と似た疾患では、両耳に発症かつ進行する難聴である特発性両側性感音難聴(特発性難聴)や、場合によっては非常に良く似た症状、経過をたどる外リンパ瘻(ろう)という病気も注目されています。
ただ、特に注意が必要で、何より心配なのは「聴神経腫瘍」という病気で、これは聴神経にできる良性腫瘍ですが、症状は突発性難聴のように、急に難聴やめまいをきたす場合が少なくありません。「聴神経腫瘍」の確定診断には、MRI検査が不可欠で、突発性難聴と診断された方は、念のためMRI検査を施行されることをおすすめします。
つまり突発性難聴の診断は容易なようで、症状や病態が類似している病気もあり、充分な問診を行った上で診断は慎重に行う必要があります。耳鼻咽喉科専門医は、厚生労働省の「突発性難聴の診断基準(※)」にのっとり、診断します。
※突発性難聴の診断基準
厚生労働省では突発性難聴の診断基準を以下のように定めています
【主症状】
1.突然の難聴。文字通り即時的な難聴、または朝、眼が覚めて気付くような難聴。ただし、難聴が発生した時「就寝中」や「作業中」など、自分がその時何をしていたかを明言できるもの。
2.高度な感音難聴
3.原因が不明、または不確実
【副症状】
1.耳鳴り
2.めまい、および吐き気、嘔吐
【診断の基準】
確実例 : 主症状、副症状の全事項をみたすもの
疑い例 : 主症状の1.および2.の事項をみたすもの
治療には入院が必要ですか?
必ずしも入院は必要ありません。ただ突発性難聴を治すためには、早期治療が重要です。治療するうえで最も大切なことは、何よりまず一刻でも早く治療を開始することです。統計によれば、発症してから、つまり耳が聞こえなくなった瞬間から、48時間以内に適切な治療を開始できた場合は治癒できる方が多く、遅くとも1週間以内に治療しなければなりません。一般には、発症して、約1カ月で聴力は固定すると考えられており、それ以降の場合、聴力改善は困難と考えられています。
ドクター's コラム「突発性難聴」
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