関西の専門医が語るドクター's コラム
バセドウ病の治療法
病気・症状と予防
2013年04月01日掲載
バセドウ病の治療
甲状腺ホルモンの過剰な分泌を引き起こすのは、前述した「TSH受容体抗体」という物質です。したがって、バセドウ病を治療するには、TSH受容体抗体を減らせば良いのですが、現在のところその方法はありません。その代わり、甲状腺ホルモンの過剰な分泌を抑える薬(抗甲状腺薬:メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を使って、甲状腺ホルモンを正常にする治療を行います。
抗甲状腺薬を開始すると、1~2カ月くらいで甲状腺ホルモンは正常になり、体も楽になります。抗甲状腺薬は副作用の多い薬で、発疹、肝障害などに加え、「無顆粒球症」という血液中の白血球が減少する症状を発症することがあります。そのため、治療初期は2週間ごとに、副作用が出ていないかどうかをチェックしながら治療する必要があります。
抗甲状腺薬で甲状腺ホルモンが正常になると、支障なく日常生活を送れるようになりますが、病気が治ったわけではありません。TSH受容体抗体はすぐには無くなりませんので、この時点で薬をやめると、甲状腺ホルモンはまた高くなって元の状態に戻ってしまいます。
それでは、一生薬を飲み続けるのかと心配されるかもしれませんが、甲状腺機能を正常に保っていると、TSH受容体抗体は低下し、2年くらいで約半数の方が治ります。それでも、なかなか薬をやめることができない場合があります。そのような場合は、放射線治療(アイソトープ治療)や、手術するといった方法もあります。薬をやめるのが難しい場合、そのまま抗甲状腺薬を続けるか、アイソトープ治療または手術をするかについては、患者さんの病状、社会的・経済的負担を考慮しながら、相談のうえで決定します。
バセドウ病かどうかをチェックする方法
ご自身がバセドウ病ではないかと心配になった方のために、セルフチェックの方法をご紹介しておきます。
【1】「甲状腺機能亢進症」の症状はありませんか?
バセドウ病に見られる症状としては、多量の汗をかく、疲れやすい、動悸がする、手が震える、暑さに弱い、しっかり食べているのに体重が減少する(太らない)といったものです。まずはこれらの症状がないかをみてください。ただし、これらの症状は、ほかの疾患でも現れることがあります。また、精神的に不安定な時期に現れることがあります。したがって、それらの症状が現われたからといって、バセドウ病を発症しているというわけではありません。しかし、これらの症状に心当たりがあるようなら、甲状腺ホルモンのチェックを受けてみると良いでしょう。
【2】甲状腺が腫れていませんか?
甲状腺が腫れていると、甲状腺の病気である可能性が高いので、一度ご自身でチェックしてみてください。ただし、甲状腺が腫れているからといって、必ずしもバセドウ病を発症しているとは限りません。甲状腺は、のど仏の骨の下で、蝶が羽を広げたような形で気管の上に乗っています。のど仏の骨の下にある気管(押さえると苦しい箇所)の両側に、親指と人差し指を軽く添えて、唾液を飲み込んでみてください。その際、甲状腺が正常であれば指に何かが触れるような感触はありません。気管のそばに腫れたものがあったり、唾液を飲み込んだときに指の裏側で何か動くものが触れたりすれば、甲状腺が腫れている可能性があります。
【3】過去の血液検査で「コレステロールが低い」、あるいは「ALPが高い」などの指摘を受けていませんか?
甲状腺以外の血液検査からバセドウ病が見つかることがあります。これまでに健康診断などで受けた血液検査の結果をお持ちでしたら、内容を確認してみましょう。バセドウ病では代謝が活発になりますので、コレステロールが低くなります。また骨の代謝も活発になりますので「ALP」という数値が高くなります。そのほかに、食後に血糖が高くなって尿に糖が出たり、肝機能に異常が出たりすることもあります。コレステロール低値、ALP高値、AST高値、ALT高値、尿糖陽性などが見つかったのに、その原因が明らかでない場合は、バセドウ病について調べてもらったほうが良いでしょう。ただし、これらの検査では、かなり重いバセドウ病でないと発見できないことがあります。したがって、これらの検査に異常がないからといって、バセドウ病の疑いを否定することはできません。
バセドウ病でないか、簡単にチェックしたいときは
それほど心配していなくても、「バセドウ病かどうかを、一度チェックして欲しい」とお考えの方もいらっしゃると思います。ところが、「大きな病院に行って、あれこれと検査を受けなければ…」などと考えるうちに、「時間的にも、お金の面でも大変だなぁ」と消極的になってしまいます。しかし、もうその心配は要りません。バセドウ病を簡単にふるい分ける方法があるのです。血液検査で「TSH」という数値を測定してもらえば良いのです。TSHとは、脳下垂体から分泌されているホルモンで、甲状腺の働きを調節する役割を果たしています。下垂体というのは、甲状腺ホルモンが正常かどうかをチェックしているセンサーのようなもので、甲状腺ホルモンがごく軽度でも過剰になっていれば、TSHの数値は低くなります。つまり、TSHの数値が正常かどうかを調べれば、バセドウ病で甲状腺ホルモンが過剰になっているかどうかが分かるのです。TSHの数値は近くの診療所でも測ってもらえますので、心配な方は医師に相談してみると良いでしょう。
ドクター's コラム「バセドウ病」
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