海猫沢めろんインタビュー「自意識という病から脱け出して、ゆるく生きるために」
健康とくらし
2017年03月16日掲載
病名がつくと気持ちがラクになることもある
――めろんさんは、作家になる前にサラリーマンの経験がありますよね?
20代の頃は、3年ほどサラリーマンをやっていました。でも毎日遅刻していましたね。僕は過敏性腸症候群だったんですが、前の日から「明日9時に会社行かないと」って思うと、お腹が痛くなるんです。家を出ても駅で電車を待ってる間に腹痛になって、トイレに行くと電車を逃すでしょ。電車に乗れたとしても、次の駅で降りてトイレに行きたくなるという悪循環で、遅刻せずに会社に行ったことは1回もありませんでした。
――腹痛の原因は仕事のストレスだったんですか?
そうじゃないんです。決められた時間に決められた場所に行くっていうこと自体がもう嫌なんです。その頃はそういう病気があることも知らなかったので、病院にも行きませんでした。20代で健康を気にする人ってあまりいないですよね、きっと。病名がついたほうがメンタル的にはラクになることもあるから、もうちょっと気をつかっていたら違ったのかもしれないです。
心と体の健康のためにボクシングを始める
――めろんさんは運動はされてますか?
僕は以前うつになった後に、一番嫌なことやろうと思ってボクシングを始めました。これが意外と僕に合ってました。体が疲れると考える必要もなくなりますから、極限までやったほうがいいかもしれないですね。実は8年くらいやってなかったんですが、去年の夏から、またボクシングを始めました。
――なぜ再開したんですか?
僕の執筆スタイルって、手しか動かないような状態なんです。しかも僕はすごくお菓子が大好きなので、手のとどく範囲にポテトチップスとジュースがある(笑)。そんな状態が何年も続いていたんで、これは運動しないとやばいぞって思い始めて。ストレスで体調は悪くなるし、メンタルも不安定になるし、体を使っていないから筋肉も落ちてくるし。
近所でボクシングできるところを探して始めたら、難聴はましになりましたよ。頻尿は足の冷えが原因だと気付いて、100均の温かい靴下をはいて寝たら翌朝に治りました!効果テキメンすぎてびっくりしたくらい。
運動をしたほうが、僕はメンタルの状態がよくなるし、運動はやったほうがいいと思いますね。
「だめな自分」がアイデンティティになってしまわないように
――先ほどめろんさんのサラリーマン時代のお話がありました。その頃、めろんさんはうつになったんですよね。
そうですね。僕は、うつになりやすい人は自尊心や、自己肯定感が低い人が多いと思っています。常に心の中で「自分は世界一だめな人間だ」と思い続けている人が多い。自分がだめだと思うことがクセになっていて、それ以外の選択肢がないんです。だめな自分がアイデンティティになってしまっているんでしょうね。
自分も昔はそうだったんですが、「自分は世界一だめな人間だ」って言い続けている人は、実は自分が一番かわいいんだと思うんです。だって、たとえだめだとしても「世界一」って言えるのはすごいことですよ。普通の人は言えませんから。「世界一だめだ」っていうのは認知の歪みで、「世界一自分はかわいい」って言ってるのと同じなんですよ。そして、自分が一番大事なら、自分オリジナルの生き方や考え方をするべきなんだと思います。
――めろんさんの著書『頑張って生きるのが嫌な人のための本』では友人のKさんが23歳で自ら命を絶ったことが綴られています。自由を求めていながら、1つの考えに縛られるのは自由でない、とも。
そうですね。彼は「人生において追求したいことは死ぬこと」と考えていた人でした。僕は高校生のときにロックスターにあこがれていたので、17歳で死のうと思ってました。あと、1999年、ノストラダムスの大予言によれば世界が滅びるので、そのときに死のうと思ってました。でも、僕もKも、生まれたときからそう思っていたはずはないから、その考えはきっとどこかでインストールされた思考なんですよね。その時点でオリジナルでも自由でもなく、何かに支配されている。だから、そこから自由になるのが、まず重要だと思います。
実家に戻って広い風景を見たことがラクになったきっかけの1つ
――ご自身はうつになったとき、どんな対処をされたんですか?
実家に戻ったことでラクになったというのはありますね。1人暮らしだと、仕事のことに加えて食事・掃除・洗濯などやらなきゃいけないタスクが多いけど、実家ではそれが少なくなります。仕事以外のことを考えなくなったのがよかったのかもしれません。
あと、意外と「景色」が重要だったんじゃないかなと思うんです。実家は田舎で、家からは雄大な山が見えていました。すごく広い景色を見たとき、「意識」は自分の体から離れて、雄大な景色のほうにありますよね。実はそういう感覚が大切で、「視線」と「意識」には関係があるのかもしれないと感じました。
――『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』にもありましたが、体と脳はチグハグなところもあれば、つながっているところもある。目という器官を動かすことで、物理的な心の問題が解決することもあるのかもしれないと?
そう思います。具体的には、眼球運動でPTSD(注2)などを和らげるEMDR(注3)という治療法もありますし。体と心は完全に一致しているものではなくて、体が先に動いているかもしれないし、意思でプログラミングしたものを体に指示しているのかもしれない。健康な状態では体と心の乖離は意識されることはありませんが、バランスが崩れるとチグハグになってしまうんじゃないかと思います。
注2:心的外傷後ストレス障害
注3:眼球運動による脱感作と再処理法
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