記憶力を高める方法は?記憶力低下の原因と予防方法
健康とくらし
2022年03月03日掲載
「記憶力が低下してきた」「思い出せないことが増えてきた」年齢を重ねるにつれて、そんな悩みを感じるようになってきた方は多いのではないでしょうか?また、最近では20代などの若い世代でも記憶力の低下に悩む人が増えているといいます。そこで今回は、記憶力が低下する理由や記憶力を高める方法について、認知症専門医で医学博士の長谷川嘉哉先生に教えていただきました。
長谷川 嘉哉
医療法人ブレイングループ理事長 認知症専門医 医学博士
1966年、名古屋市生まれ。名古屋市立大学医学部卒業。認知症専門医、医学博士、日本神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年病学会専門医。祖父が認知症になった経験から医師の道を志し、病気だけでなく生活、家族も診るライフドクターとして医療、介護、社会保障サービスから民間保険の有効利用にまで及ぶ。在宅医療では開業以来、50,000件以上の訪問診療、500人以上の在宅看取りを実践している。主な著書に『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?』(かんき出版)などがある。
そもそも「記憶力」とは?
記憶にはいくつかのプロセスがある
脳が情報を記憶として保存するにはいくつかのプロセスがあります。例えば、電話番号を覚えるーーーこのような極めて短時間の記憶は「即時記憶」と呼ばれ、すぐに忘れてしまいます。
一方で、家の電話番号のように重要な情報となると、脳は覚えておこうとします。すると、この情報は脳の「海馬」と呼ばれる部分に保存されます。この段階にある記憶のことを「短期記憶」と呼び、数日〜数年にわたって留まる(覚えておける)ようになります。さらに、この短期記憶を海馬が重要と判断すると、脳の大脳皮質に移します。この段階にある記憶のことを「長期記憶」と呼び、より長期的もしくは恒久的に留めておける(覚えておける)ようになります。
覚えていられない・忘れてしまう理由
聞いたり見たりしたことをすぐに忘れてしまうのは、それが長期記憶に変換されず、即時記憶・短期記憶のままだからと考えられます。また、長期記憶化されていても長い間使わない(思い出さない)と、うまく思い出せなくなっていきます。しかし実はこれは、記憶が失われてしまったわけではありません。よく使う記憶を引き出しやすいように、あまり使わない記憶は奥の方にしまいこんでいるのです。
記憶力を上げるには、長期記憶に変換することが大事
記憶力を高めるには、情報を即時記憶や短期記憶から長期記憶に変換することが重要です。つまり、「記憶力がいい人」というのは、「長期記憶化が優れている人」ということになります。逆に言えば、記憶が定着しない・すぐに忘れてしまうのは、長期記憶化しづらくなっているからと考えられます。
記憶力を高めるために。記憶するときのコツ
記憶力を高めるには、情報を覚えるときにいくつかのコツがあります。
覚えるときに思考を使う
目で見るだけで覚えようとする・耳だけで覚えようとするだけでは、長期記憶になりにくく、すぐに忘れてしまう傾向があります。反対に、自分の頭で考えながら整理して覚えた情報は、長期記憶になりやすいといわれています。新しい物事を覚えるときに、すでにある知識と関連づけて覚えるのが効果的です。
例:歴史の勉強をするとき、参考書で年号を丸暗記するだけでは記憶として定着しづらい。他の出来事や人物などと関連づけて覚えると、定着しやすくなる。
紙に書いて覚える(記憶をアウトプットする)
今は情報過多の時代。日々生活しているだけでも膨大な情報が脳にインプットされています。しかし、インプットされただけでは記憶として長く定着はしません。重要なのは、情報をアウトプットすること。「紙に書く」というのはまさにアウトプットの行為です。学生時代のように、紙に書いて覚えることを意識してみましょう。
日頃から、「覚えようとする」を意識する
今はほとんどの人がスマホを持っているので、日常生活の中で何かを覚えようとする機会が激減しています。
友達の電話番号・この前行ったレストランの名前や住所など、「スマホを見ればわかるけど覚えてはいない」ことが非常に多いと思います。日頃から「覚えようとする」ことを意識すると、脳の記憶に関わる部位が活性化しやすくなります。
覚えるときに知的好奇心を持つ
強い興味や関心を持っている情報は、覚えやすいものです。ただ淡々と知識を頭に入れようとするよりも、「へ〜そうなんだ!(驚き)」「なるほどな〜(興味)」「え〜そうだったんだ!(意外性)」と知的好奇心をともなったほうが、記憶として定着しやすいといわれています。
定期的に思い出す・復習する
脳は、よく使う記憶をすぐに取り出せるように、普段あまり使わない記憶を奥のほうにしまっておく性質があります。そのため、長期記憶化された記憶も、長らく使わないと「検索不可能」になってしまいがち。定期的に思い出し、復習することで、より記憶を取り出しやすく(思い出しやすく)なります。
記憶力を高めるために。日頃から意識したい対策
日常生活の中でも、記憶力を高めるためにできることはいろいろあります。
睡眠不足を改善する
記憶は眠っている間に定着すると考えられています。睡眠時間が足りなかったり、睡眠の質が良くなかったりすると、記憶は定着しにくくなってしまいます。十分な睡眠をとることが大切です。
精神的なストレスを減らす
記憶を司る海馬は、ストレスを感じることでダメージを受けやすいと言われています。ストレスは海馬を萎縮させ、記憶力低下の原因になると考えられています。ストレスを溜め込まないよう、自分なりの発散方法を見つけましょう。
好奇心や興味・関心を向上させる
好奇心や興味・関心のない状態で何かを覚えようとしても、なかなか難しいところがあります。年齢とともに好奇心が低下している・抑えてしまっている人もいると思いますが、「おもしろそう」と感じたことや「やってみたい」と思ったことを素直に実行し、行動していくことが大事です。
10分程度の軽い運動を
最近の研究で、10分程度の軽い運動をすると、長期記憶の一種である「エピソード記憶(自分自身が体験した出来事に関する記憶)」が改善することがわかっています。軽い運動として具体的におすすめされているのは、ウォーキングやヨガ・簡単な体操やダンスなど。体を動かすことでストレス解消効果にもつながるので、ぜひ取り入れてみてください。なお、短期記憶との関連性についてはこの実験では言及されていません。
関連記事:ピラティスの効果とは?美容・健康への影響とおすすめの取り入れ方
関連記事:朝ヨガの効果とは?初心者におすすめの呼吸法とポーズを解説
まとめ
記憶力の低下にお悩みの方は、まずは今回ご紹介した「記憶するときのコツ」を試してみてください。また、日頃から「覚えようとする」ことも大事です。ついついスマホに「自分の脳の代わり」を任せてしまいがちですが、記憶力を高めるには「自分で覚えること」「記憶しようとすること」がとても大事です。
なお、「言葉が思い出せない」「自身の年齢を答えられない」といった深刻な記憶力の低下が見られる場合、アルツハイマーや脳梗塞などの疾患が原因であるケースも考えられます。不安がある方は、一度神経内科を受診してみても良いかもしれません。
監修者
医療法人ブレイングループ理事長 認知症専門医 医学博士 長谷川嘉哉
URL:https://brain-gr.com/tokinaika_clinic/blog/
著書:『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?』はこちら
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。