痔の治療に薬や手術は必要?原因・予防改善のポイント【肛門専門医監修】/予防法や治療法編
病気・症状と予防
2019年09月26日掲載
実は、多くの人が悩んでいる「痔」。死につながるような病気ではありませんが、悪化すると強い腫れや痛みで生活や仕事に支障をきたす恐れも。ただし、「なんとなく恥ずかしい」という理由で病院に行かない方は多いかもしれません。痔には複数の症状があり、治療方法も注意点もさまざま。痔によく似た肛門の病気もあります。まずは正しい知識を身につけて、ご自身の症状と向き合うことが大切です。
今回は、痔の種類や症状・原因・治療法・予防方法などを肛門専門医の佐々木みのり先生に教えていただきました。
痔と呼ばれる3つの良性疾患のそれぞれの症状や原因をご紹介した「症状や原因編」に引き続き、「予防法や治療法編」では痔の予防法や病院での治療法についてご紹介します。
佐々木みのり
大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医
日本でも20名余りしかいない数少ない女性の大腸肛門病専門医・指導医。大阪医科大学卒業。大阪大学皮膚科に入局。4年間皮膚科医としての経験を経て肛門科医に転身。元皮膚科医という異色の経歴を持つ。創業明治45年の老舗肛門科である大阪肛門科診療所の副院長。約20年間に10万人近くの患者さんを診察。痔の原因となった出口の便秘を治すことによって多くの痔疾患を手術せずに治療している。全国各地や海外から患者さんが訪れている。
痔の予防は排便習慣の改善
●正しい排便のポイント
「症状や原因編」でご説明したように、痔を引き起こす根本要因は肛門付近に残った「出残り便」です。出残り便をすっきり出すには、以下の排便習慣を意識してください。
- 排便時は軽く力を入れていきむ
- 便意を我慢しない。便意を感じたらすぐトイレに入る。
- 5分便座に座って出なければ諦める。
排便は、腹圧をかけて出すのではなく排便反射で出すものです。便意を感じたらすぐにトイレに行き、スルっと出すのが理想。トイレにスマホなどを持ち込んで便が出るまで長時間座っている方は多いかと思いますが、この習慣はよくありません。5分以内に出なければ、機会を改めましょう。
●良い排便のために実践したい3つのポイント【生活編】
生活の中で以下のポイントを意識しましょう。
- 水分をしっかりとる
- 体を適度に動かし、腸の動きを活発化させる
- 便は寝ている間につくられるので、睡眠をしっかりとる
●良い排便のために実践したい3つポイント【食事面】
食事面では以下のポイントを意識しましょう。
- 栄養バランスの取れた食事をとる
- 飲酒は控える、またはやめる
- 刺激物(辛いもの)はほどほどに
お酒を飲むと下痢をしやすくなります。また、飲酒によってうっ血すると、痔の症状が悪化し痛みや腫れが強くなります。刺激物については必ずしも悪いわけではありませんが、裂肛の方が刺激物を摂取すると傷がヒリヒリするため、注意が必要です。
・慢性的な下痢には、グルテンフリー・ガゼインフリーも有効
「おなかにガスが溜まって張っている」「常に下痢気味である」という方には、小麦製品と乳製品を抜く食事方法(グルテンフリー・ガゼインフリー)がおすすめです。小麦と乳製品を抜くことで腸内環境を整え、排便習慣の改善が期待できます。
「関連:まずは7日間。グルテンを摂りすぎない健やかで美味しい生活のヒント https://health.eonet.jp/life/2017-0706.html」
●市販の下剤・温水洗浄便座の使用はなるべく避ける
・温水洗浄便座の使用は極力避けて!
排便後に必ず温水洗浄する方は多いと思いますが、避けたほうがよい習慣です。温水洗浄便座の過剰使用は皮膚のバリア機能を低下させるので、皮膚免疫が低下します。痔になりやすい土壌をつくってしまうので、使用はできるだけ避けてください。
・市販のアントラキノン系便秘薬の使用は極力避けて!
市販の便秘薬の使用は極力避けましょう。特に危険なのは、アントラキノン系の成分が入っている下剤です。成分表記にセンナ・ゴールデンキャンドル・大黄・アロエなどが含まれているものがそれに該当します。これらの下剤を長期間使用すると、大腸が黒くなる「大腸メラノーシス」を引き起こします。毎日飲めば4カ月程度、たまの服用でも9カ月程度で、大腸メラノーシスの症状が出ることが分かっています。また、依存性が高いため、服用し続けると自力での排便が困難になります。
痔と間違われやすい症状
肛門に痛みや腫れ・違和感・かゆみがあると「痔ではないか?」と考えがちですが、決してそうとは限りません。痔と間違われやすい症状と注意点をご紹介します。
●血栓性外痔核(けっせんせいがいじかく)
痔核と間違われやすいのが、血栓性外痔核です。血栓性外痔核は痔核と違い、肛門付近の静脈に血栓ができて血管が詰まることで起こります。2~3日は激しい痛みがありますが、1カ月程度で腫れは引き、投薬や手術をしなくても完治します。しかし、痔核と似ているために間違った治療や対処をしてしまうケースも。血栓性外痔核では以下の点に注意しましょう。
・押し込まないで
飛び出した痔核を押し込んで戻すことがありますが、血栓性外痔核の場合押し込もうとするのは厳禁です。そもそも血栓性外痔核は肛門の外側にできているので、押しても中には入りません。かえって腫れ上がって炎症を起こしたり痛みが増したりするので、触らないようにそっとしておきましょう。
・冷やさないで
痔核の場合は腫れたら冷やすのが有効です。しかし、血栓性外痔核は冷やすよりも温めるのが正解。温めて血行を良くすると血栓が溶けやすくなるので、痛みや腫れも楽に、治りも早くなります。お風呂にゆっくり浸かったりカイロで温めたりするのがおすすめです。
●肛門そう痒症(こうもんそうようしょう)
肛門そう痒症は、肛門がかゆくなる病気の総称です。かゆみの主な原因は便。肛門付近に溜まっている便の刺激によってかゆみが引き起こされます。掻いてしまうと湿疹が形成され、湿疹からは「かゆみ物質」が分泌されてさらにかゆみが増す悪循環に。肛門そう痒症の治療の基本は、排便の管理です。湿疹がひどい場合にはステロイド外用剤漸減療法を行います。同時に、正しいお尻のお手入れも重要。肛門そう痒症では以下の点に注意しましょう。
・こすらないで
肛門にかゆみや違和感があると、トイレットペーパーでゴシゴシこすってしまいがちです。しかし、こすると刺激で皮膚が荒れ余計にかゆみが増します。同様に、お風呂でタオルを使って直接こすり洗いするのもやめましょう。
・温水洗浄便座を使わないで
温水洗浄便座で洗いすぎると皮膚のバリア機能が低下し、かゆみを感じやすくなってしまいます。
●尖圭コンジローマ(せんけいこんじろーま)
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルスが原因で起きる病気です。性行為を介して感染することもありますが、温水洗浄便座や温泉などでうつることもあります。尖圭コンジローマにかかると、肛門付近に小さなイボのようなブツブツができます。また、炎症がひどくなると痛みやかゆみも伴うこともあります。
気になる症状があれば「肛門専門医」へ
●ガンでないことを確認する意味でも病院へ
痔は生死にかかわる病気ではありませんが、痛みや腫れがひどくなると生活の質を大きく下げかねません。痔にはさまざまな種類があり、症状は千差万別。また、前項でご紹介したような痔以外の病気の可能性もあります。さらには、「切れ痔の出血かと思っていたら直腸ガンだった」というようなケースも。気になる症状がある方は、ぜひ病院での検査や診察を受けてください。
●「恥ずかしくて病院には行きたくない」という方は?
・「診察時の体勢」を確認
肛門の診察の体勢は、病院によって異なります。横向きに寝転んでパンツを下ろすところもあれば、産婦人科の検診のように仰向けで両足を開くところもあります。診察の姿勢によっても、恥ずかしさは変わるかもしれません。病院のホームページで診察方法を確認してみてください。
・大腸内視鏡検査を受ける
それでも「恥ずかしい」という気持ちがあってなかなか診察に行けない方は、大腸内視鏡検査を受けるとよいでしょう。痔の診察よりも気持ちの面で受けやすいのではないでしょうか。
●肛門専門医を選ぶべき理由
病院選びの際は、肛門専門施設でのき研修や勤務経験がある医師を選ぶことをおすすめします。専門医の見地から述べると、痔の多くは切らなくても排便習慣の改善や薬の処方によって対処できます。しかし現状の痔の治療は、手術が数多く行われています。また、痔をはじめとする肛門の病気は似た症状も多く専門的な知見が必要です。不要な手術、過剰診断や誤診を避けるためにも、肛門を専門とする医師に受診を。
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大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医 佐々木みのり
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