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痔の治療に薬や手術は必要?原因・予防改善のポイント【肛門専門医監修】/症状や原因編

実は、多くの人が悩んでいる「痔」。死につながるような病気ではありませんが、悪化すると強い腫れや痛みで生活や仕事に支障をきたす恐れも。ただし、「なんとなく恥ずかしい」という理由で病院に行かない方は多いかもしれません。痔には複数の症状があり、治療方法も注意点もさまざま。痔によく似た肛門の病気もあります。まずは正しい知識を身につけて、ご自身の症状と向き合うことが大切です。

今回は、痔の種類や症状・原因・治療法・予防方法などを肛門専門医の佐々木みのり先生に教えていただきました。

「症状や原因編」では痔と呼ばれる3つの良性疾患のそれぞれの症状や原因、「予防法や治療法編」では痔の予防法や病院での治療法についてご紹介します。

佐々木みのり

大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医

日本でも20名余りしかいない数少ない女性の大腸肛門病専門医・指導医。大阪医科大学卒業。大阪大学皮膚科に入局。4年間皮膚科医としての経験を経て肛門科医に転身。元皮膚科医という異色の経歴を持つ。創業明治45年の老舗肛門科である大阪肛門科診療所の副院長。約20年間に10万人近くの患者さんを診察。痔の原因となった出口の便秘を治すことによって多くの痔疾患を手術せずに治療している。全国各地や海外から患者さんが訪れている。

「痔」とは、肛門の3大良性疾患の総称。それぞれの症状と原因

痔とは、肛門に起こる3つの良性疾患の総称です。症状の特徴はそれぞれ大きく異なります。

1. 痔核/ぢかく(いぼ痔)

●痔核の定義
痔核(ぢかく)とは、直腸肛門部の血管や結合組織の一部がコブのように膨れ上がった状態(※1)を指します。通称「いぼ痔」と呼ばれているため誤解している方もいるかもしれませんが、肛門にイボができるわけではありません。
※1 専門的には静脈瘤(じょうみゃくりゅう)と言います。

●痔核の種類
痔核には、肛門の中にできる「内痔核」と、肛門の外側やふちにできる「外痔核」があります。

●痔核の原因
痔核は、長年の便秘が原因であることがほとんどです。便秘といっても、腸に便がたまっている「おなかの便秘」ではありません。痔核を引き起こすのは、肛門付近に便が残っている状態、つまり「出口の便秘」です。肛門付近に便がたまっていると、いわば肛門に重石が乗っているような状態になります。すると肛門がうっ血して腫れ、痔核になるのです。

●痔核の判断
痔核の判断は医師によって異なることがあります。というのも、肛門付近が通常時より膨らむことは誰でも体調次第でありうるからです。例えば、過労や寝不足などで便が固くなっているときは、排便時にいきみがちになります。すると肛門に負担がかかり、ふくらみが大きくなるのです。

また、肛門の膨らみ状態は一日のうちでも変化します。夕方になると足がむくむのと同じように、肛門の膨らみも夕方になるとうっ血によって症状が悪化します。さらに、便をする前と後でも状態が変わることがあります。排便前は便の重みで膨らみが大きくなっていて、排便後はスッと小さくなるのです。

このように、肛門の状態は体調や日内変動でたやすく変化します。そのため、肛門に膨らみがあるからといって、必ずしも病的な異常とは限らないのです。例えば、大腸の内視鏡検査をすると肛門の中や外に微小な膨らみが発見され、専門医への受診を促されるケースがあります。しかし、その微小な膨らみは必ずしも痔核と呼べるほどの症状とは言えません。内視鏡検査では「異常」を発見するのが重要なので、少しの膨らみでも見逃さないようにする傾向があるからです。そういった意味で、内視鏡検査で痔を指摘されても痔ではないことも多いので注意が必要です。

2. 裂肛/れっこう(切れ痔)

●裂肛の定義と症状
裂肛(れっこう)とは肛門内部に傷ができ、それが慢性化した状態です。一般的には切れ痔とも呼ばれています。排便時や排便後に痛むのが特徴で、出血を伴うことも多くあります。

●裂肛の原因
裂肛になる主な原因は、便秘や下痢です。硬い便や下痢で肛門の粘膜が荒れたり切れたりすると、肛門内部に炎症が起こります。本来傷は自然に治るものですが、何度も繰り返すと治りにくくなってしまいます。また、傷が深くなるとその溝に便が残るようになり、さらに傷が腫れて炎症がひどくなります。

●他の病気に発展することも
傷が便に汚染されて炎症がすすむと傷の両端に腫れが出来て「見張りイボ」や「肛門ポリープ」に発展する恐れがあります。見張りイボは肛門の外側に、肛門ポリープは肛門の内側に向かって腫れるものです。なお、見張りイボは痔核と間違われることがありますが、ただの皮膚のかたまりであって、これ自体は痔ではありません。また肛門ポリープも切れ痔の炎症の結果出来た上皮の腫れなので腸に出来るポリープとは別物です。

このほか、炎症のせいで肛門の筋肉や皮膚が硬くなって肛門が狭くなってしまう「肛門狭窄(こうもんきょうさく)」に発展するケースも。このような状態になると、細い便しか出なくなったり、排便時に冷や汗が出るほどの激しい痛みを伴います。

3. 痔瘻/ぢろう(あな痔)

●痔瘻の定義と症状
痔の中でも最もやっかいなのが、痔瘻(ぢろう)です。通称では、「あな痔」とも呼ばれています。痔瘻の前段階には、「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」という病気があります。

【肛門周囲膿瘍とは】

肛門から2cmほど内側に、肛門腺につながる「歯状線」という細い管があります。通常は、この管に便が入り込んでも肛門腺の分泌液によって押し出されます。しかし、体の免疫力が低下していると便がたまって周辺組織が化膿します。この状態が「肛門周囲膿瘍」です。ある日突然肛門付近が大きく腫れ、強い痛みとともに熱が出ることもあります。

【肛門周囲膿瘍の原因】
肛門周囲膿瘍の主な原因は、下痢だと考えられています。下痢は通常の便よりも水っぽいためくぼみに入り込みやすいからです。

なお、女性の痔瘻には下剤によって引き起こされた下痢によるものが結構あるのです。便秘を治そうとして下剤を飲み、慢性的な下痢になり、肛門周囲膿瘍から痔瘻へと発展するケースが多く見られます。

【肛門周囲膿瘍から痔瘻になるメカニズム】
肛門周囲膿瘍になると膿瘍がどんどん広がるので、膿を排出するために切開手術が必要です。切開後は、膿瘍から膿が抜け、膿瘍の内部組織が盛り上がって傷を治そうとします。しかし、70~80%の割合で痔瘻に移行します。痔瘻になると、膿が出てベタベタしたり、また腫れて痛みや熱が出たりします。重症化すると歩けないほどの痛みが出るケースも。

●痔瘻の治療
痔瘻を根本的に治すには手術が必要です。まれに、長期間放置すると「痔瘻ガン」に発展するケースもあります。

痔の最大要因は悪しき排便習慣

●痔の原因は「出口の便秘」

痔の根本的な原因は、良くない排便習慣です。長年の便秘は痔核を、繰り返す便秘や下痢は裂肛を、慢性的な下痢は痔瘻を引き起こします。たとえ手術で痔を治しても、排便習慣が悪ければ再発の恐れが高くなります。

特に注意が必要なのが、出しきれなかった便が肛門にたまる「出口の便秘」です。たまった便はどんどん硬くなり、重みを増し、排出時に周辺組織を傷つけます。

●「出口の便秘」のセルフチェック

以下の項目に当てはまる方は、肛門付近に便が残留している可能性があります。毎日お通じがあって一見便秘ではない人でも、出口の便秘になっているケースは少なくありません。

  • □残便感がある
  • □排便後、3回ふいてもトイレットペーパーに便がつく
  • □食事をするたびに排便がある
  • □くさいオナラが出る
  • □肛門がむずがゆいことがある

●妊婦は痔になりやすい!

妊婦が痔になりやすいのは、ホルモンバランスの変化や子宮の肥大化などの影響で排便習慣が乱れやすいからです。なお、妊娠中に痔になっても、多くの場合は出産後に自然に治ります。急いで手術するのはおすすめできません。痛みや腫れがひどいときは薬などで対処し、出産後半年は様子を見るようにしてください。

「痔の治療に薬や手術は必要?原因・予防改善のポイント【肛門専門医監修】/痔の予防法や治療法編」

大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医 佐々木みのり

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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