寝付けない・夜中に目が覚める。不眠症の原因と改善ポイント
病気・症状と予防
2019年08月15日掲載
日々を元気に・健康に過ごすためには、量・質ともに十分な睡眠を規則正しくとることが大切です。しかし、「寝つきに時間がかかる」「眠りが浅くて夜中に何度も目が覚める」「たくさん寝てもスッキリしない」など、不眠症の症状に悩んでいる方は少なくありません。
そこで今回は、睡眠専門医の京谷先生に、不眠症の症状や原因・理想的な睡眠をとるためのポイントなどを教えてもらいました。
京谷京子
京谷クリニック睡眠医療センター 院長
京都大学医学部卒業。天心会小阪病院・大阪警察病院神経科等を経て、平成14年に京谷クリニック開業。
睡眠時無呼吸症候群の検査および治療を中心に睡眠障害に対する医療を提供すべく、カウンセリングや睡眠ポリグラフ検査などを行っている。
睡眠障害のひとつ「不眠症」。その定義・症状とは
不眠症とは、睡眠の悪化により生活や活動に支障をきたしている状態のことで、睡眠不足とは異なります。例えば、仕事が忙しく毎日4~5時間しか寝ていなくても、ぐっすりと眠れていて翌日にだるさや眠さが残っていなければ「不眠症」とは言いません。反対に1日8時間寝ていても、寝付くまでに長くかかったり夜中に何度も目が覚めたりして日常生活への悪影響があれば不眠症の疑いがあります。
具体的には以下のような症状を不眠症と定義しています。
【不眠症の症状】
- 入眠障害:布団に入っても30分以上寝付けないことが週のうち半分以上ある
- 中途覚醒:いったん寝ついても夜中に2回以上目が覚める
- 早朝覚醒:起床時間より2時間以上早く目が覚める
- 熟眠障害:起きたときにぐっすり眠った感じがせず、眠気やだるさが強い
また、このような状態が慢性化すると、日常生活や仕事に支障をきたしやすくなります。
【不眠症がおよぼす日常生活への影響】
- 日中の強い眠気
- 注意力や記憶力・集中力の低下
- 作業効率の低下
- 仕事のミスや事故の増加
- イライラ感や気分障害
- 体のだるさ
- 頭痛や胃腸の不調などの身体症状
不眠症を引き起こす8つの原因
不眠症に悩んでいる方は少なくありませんが、その原因は人によってさまざまです。改善のために、まずはご自身の“眠りづらさ”の原因を知りましょう。
1. ストレスやプレッシャー
悩みや大きなプレッシャーなど、精神的なストレスを抱えていると睡眠に支障をきたしやすくなります。「布団に入ると考えごとが止まらなくなって、頭が冴えてきてしまう」「仕事のプレッシャーで、寝ようとしてもそわそわと落ち着かない」……このような状態にあるとき、体の中では交感神経が活発化しています。交感神経は「闘争の神経」とも呼ばれており、活発化すると体は緊張状態になります。そのため眠りにくかったり、眠りについてもすぐに目覚めたりしてしまうのです。
2. アルコールやカフェイン
アルコールは寝つきを良くしてくれますが、一方で睡眠の質を低下させます。特に、寝る直前にお酒をたくさん飲んで血中のアルコール濃度が高い状態のまま入眠すると、睡眠が浅くなったり夜中に目が覚めたりしやすくなります。
カフェインの摂取も睡眠の質に影響を与えます。ただし、カフェインの覚醒作用の出方は人それぞれです。床に就く6時間前のコーヒーで眠れなくなる人もいます。
3. むずむず足症候群など、体の痛みや違和感
体の痛みやかゆみ・違和感があると、入眠が妨げられます。眠りかけのときに脚を無性に動かしたくなる衝動や虫がはうような感覚がある「むずむず脚症候群」が、そのひとつ。
このほか、「アトピーで体がかゆい」「リウマチで体が痛い」なども入眠を妨げる原因になります。
「関連:むずむず脚症候群 https://health.eonet.jp/prevention/4103153.html」
4. 睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まる状態が繰り返される病気のこと。呼吸が抑制されることで、眠りが浅くなります。すると、夜中に何度も目が覚めたり、早朝に目が覚めたりと睡眠の質の低下につながるのです。
5. 生活習慣・睡眠リズムの乱れ
不規則な生活で就寝時間と起床時間が毎日バラバラだと、体はいつ眠ったらいいのか・いつ目覚めたらいいのか分からなくなります。すると、睡眠リズムが乱れ、入眠しづらい・すぐに目が覚めるといった状態に陥りやすくなります。
なお、近年では大人だけでなく子供の不眠症も増えています。スマートフォンが普及し、SNSやゲームのために夜遅くまでスマホをさわる子供が増え、睡眠時間が短くなる傾向にあります。さらにスマホの強い光によって交感神経が刺激されるため、寝付きが悪く眠りも浅くなってしまいます。
「関連:メラトニン・リズム https://health.eonet.jp/life/2017-0530.html」
6. 睡眠環境
良い睡眠をとるためには、睡眠環境も重要です。部屋が明るい・騒音が激しい・暑い・寒いなどの理由で睡眠の質が低下し、不眠症になることがあります。
7. 加齢
睡眠時間や睡眠のパターンは年齢によって変化します。高齢になると早寝早起きになったり睡眠時間が短くなったりするのはこのためです。加齢による睡眠の変化自体は、異常なことではありません。ただし、そのせいで翌日に体調不良や強い眠気が出るようであれば治療が必要となります。
8. 精神疾患
不眠症の原因に精神疾患が関連していることもあります。例えばうつ病の患者の場合、ほとんどの方が不眠症状や過眠症状を併発していると考えられています。
理想的な睡眠のとり方は「量・リズム・質」
不眠症を放っておくと、仕事のミスや重大な事故につながったりする可能性があります。「まだ若いから寝ていなくても大丈夫」「そのうちに治るだろう」などと軽視するのは危険です。
不眠症を改善するためのポイントは、「睡眠の量・リズム・質」です。では、どのくらいの時間・どのようなタイミングで・どのような睡眠をとればいいのでしょうか。
●【睡眠の量】理想は7~9時間
・5時間以下、10時間以上はNG
成人の理想的な睡眠時間は、7時間から9時間です。6時間だと少し短めですが、ギリギリセーフ。10時間は、少し長めですが許容範囲内です。しかし、6時間未満や10時間を超えた睡眠はあまり良いとは言えません。
・「平日だけショートスリーパー」の人は赤信号! 体が無理をしている恐れ
「睡眠時間が3~4時間でも大丈夫」といった、いわゆるショートスリーパーの方がたまにいます。こういった方は、日中の体調不良や眠気がなくパフォーマンスにも影響がないのであれば特に問題ありません。ただし、「平日はショートスリーパーで、休日は12時間以上寝る」といったリズムになっているなら要注意。体が無理をしている証拠です。
●【睡眠のリズム】眠くなったときに寝る
理想的な就寝タイミングは、「眠くなったとき」です。例えば、眠くなってもついついテレビを見るのを優先して頑張って起きたり、「まだ22時だから」と寝るのをためらったりすることがあるかと思います。しかし質のいい睡眠には、「眠い」と感じたときに睡眠を優先させることが大事です。「あまり早く寝過ぎたら睡眠のリズムが崩れるのでは?」と心配される方もいるかもしれませんが、普段の就寝時間からマイナス2時間程度であれば翌日からの睡眠に響かず、日頃の睡眠不足を解消できます。
・よく言われる「1.5の倍数時間寝るのがいい」は間違い
「睡眠は浅い眠りの『レム睡眠』と深い眠りの『ノンレム睡眠』の2種類があり、レム睡眠とノンレム睡眠は約1.5時間ごとに繰り返される。そのため、起床時間から逆算して1.5時間の倍数時間寝ればレム睡眠のターンですっきりと起きられる」
これはよく聞く話ですが、正しいとは言えません。なぜなら、レム睡眠とノンレム睡眠の周期は個人差が大きく、体調によっても異なるからです。そのため、1.5時間の倍数で睡眠時間を計算しても、必ずしもレム睡眠時に起床できるとは限りません。
無理に1.5の倍数時間で寝ようとするよりも、眠気を感じたときに就寝することが質のいい睡眠につながると言えます。そして、朝は決まった時間に起きましょう。
●【睡眠の質】 理想は「寝付きが良い・朝までぐっすり・すっきり目覚める」
「ベッドに入ってから30分以内に入眠し、途中で目が覚めることなくぐっすり眠る。そして起床時間にすっきりと目が覚める」
これが理想的な質の睡眠です。毎日このような睡眠がとれていれば、日中にだるさや眠気を感じることなく十分なパフォーマンスを発揮できるでしょう。
理想の睡眠をとるための4つのポイント
最後に、睡眠の量・リズム・質を高め、不眠症を改善するためのポイントをご紹介します。
1. 就寝時間・起床時間を一定に
睡眠リズムを整えるために、就寝時間と起床時間は一定に保ちましょう。やむなく前後する場合は、プラスマイナス2時間を目安に。なお、お休みの日に長時間寝たい場合は、起床時間を遅らせるのではなく就寝時間を前倒ししてください。
2. 就寝前に深部体温を下げて体を休息モードに
睡眠と体温は密接な関係にあります。「眠くなってくると手のひらが温かくなる」と感じたことはありませんか。これは、皮膚表面から体の熱を放出しようとしているから。熱放出により体の深部体温は下がり、体は睡眠モードに入ります。
この一連の作用は、本来自然に行われています。しかし、手足が冷えていたり室温が高すぎたり低すぎたりすると皮膚表面からの熱放出がうまくいかず、深部体温は下がりにくくなります。深部体温が高いままでは体は休息モードに入れないため、なかなかスムーズに眠れません。就寝前はお風呂で体を温めて熱放出を促したり、室温を調整して体が冷えない工夫をしたりしましょう。
3. 寝る前にスマホやパソコン・テレビなどの強い光を見ない
スマホやパソコン・テレビなどの強い光は、脳を刺激し交感神経を活性化させます。また、明るい光の刺激が脳に届くと体が昼間と勘違いして、睡眠を促すためのホルモン「メラトニン」が分泌されにくくなります。 体を休息モードに切り替えるには、寝る1時間ほど前からスマホやパソコン・テレビなどは避けましょう。
4. 寝酒・夕方以降のカフェイン摂取を控える
睡眠の質を低下させるアルコール・脳を覚醒させる作用のあるカフェインの摂取は控えめに。特に、寝酒や夕方以降のカフェイン摂取は避けましょう
まとめ
ストレスが多く生活習慣も乱れやすい現代社会では、不眠症に悩む方が大勢います。「不眠症かもしれない」と不安な方は、一度医療機関に相談をしてみてはいかがでしょうか。不眠症の治療では、カウンセリングや必要なときには睡眠ポリグラフ検査を通じて、その人にとって最適な睡眠を考え、生活指導や投薬などを行います。睡眠は健康の源。睡眠の悩みを放置せず、積極的に改善していきましょう。
京谷クリニック睡眠医療センター 院長 京谷京子
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。