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「花粉症」と「果物・野菜アレルギー」との意外な関係
健康とくらし
2016年09月01日掲載
りんご、桃、キウイなどを食べて、唇や口やのどなどに、イガイガ感、かゆみや腫れなどを感じたことはありませんか?
それは口腔アレルギー症候群とよばれる病気の特徴的な症状です。口腔アレルギー症候群は花粉症患者に多く発症することが分かっています。花粉症に悩まされている人は、口腔アレルギー症候群についても知っておく必要があるでしょう。
花粉症患者の10人に1人は発症!? 口腔アレルギー症候群
今や国民病と呼ばれる花粉症は、日本人の3~4人に1人の割合でいると考えられ、年々その患者数は増えています。花粉症の症状だけでもつらいものですが、花粉症患者のなかには、特定の新鮮な生の果物や野菜を食べると、およそ15分以内に唇、口やのどにかゆみやイガイガするような症状を感じる人がいます。これは口腔アレルギー症候群とよばれ、花粉症患者のうちの10人に1人の割合で発症するといわれています。
口腔アレルギー症候群の主な症状としては、唇や口の中、のどの奥の刺激感、かゆみ、腫れや閉塞感などがあります。まれに鼻水や結膜の充血、咳や喘息、呼吸困難、腹痛、下痢、じんましんを引き起こす場合もあります。更に激しい場合には、急激に血圧が低下し意識がなくなるなどショック状態に陥る「アナフィラキシーショック」を起こすこともあるため、注意が必要です。
花粉症と口腔アレルギー症候群との関係
花粉症と口腔アレルギー症候群、この2つにはどんな関係があるのでしょうか。そのためにはまず、花粉症が発症する仕組みを知っておく必要があります。
特定の果物や野菜に含まれるアレルゲンの構造は、花粉のアレルゲンと構造がよく似ています。そのため特定の果物や野菜を食べると、花粉が侵入してきたと勘違いし、すでに体で作られているIgE抗体と反応、アレルギー症状を起こすのです。
一般的な食物アレルギーとの違いは?
一般的な食物アレルギーも口腔アレルギー症候群も、「特定の食物を食べると、アレルギーを発症する」という点では同じです。大きく異なるのは、その重症度です。一般的な食物アレルギーではじんましんや湿疹、下痢など全身に症状があらわれますが、口腔アレルギー症候群の多くは、口やのどで症状があらわれ、全身に症状があらわれることは多くありません。
この違いがでる理由は、それぞれのアレルゲンにあります。
食物アレルギーを引き起こす例としては、牛乳や卵、小麦などがあります。これらのアレルゲンは、熱や消化酵素に強いため、そのまま腸から吸収されます。一方、口腔アレルギー症候群の原因となるのは、果物や野菜です。これらのアレルゲンは消化酵素に弱く、胃や小腸といった消化器で容易に分解されてしまうため、口や喉の直接接触した部位だけで反応が起こります。また、熱に不安定で加熱によっても分解されるため、新鮮で生のもので症状が出やすく、加熱した果物や野菜では症状が出ないことも多くあります。
<食物アレルギーと口腔アレルギー症候群の違い>
食物アレルギー | 口腔アレルギー症候群 | |
---|---|---|
感作経路 | 食物が腸管から吸収されて感作 | 花粉の吸入により感作 |
代表的な原因となる食品 | 卵・牛乳・小麦・魚など | 花粉のアレルゲンタンパクと類似 したタンパクを含む果物・野菜 |
アレルゲンの特徴 | 熱や消化酵素に対して安定した タンパク質 |
熱に不安定で消化されやすい タンパク質 |
症状を誘発する箇所 | 消化管での吸収により発症 | 口腔粘膜で発症 |
症状 | 主に全身症状 | 口唇、口、のど |
花粉と関連があるとされる果物・野菜
花粉症を引き起こす花粉の種類によって、口腔アレルギー症候群を引き起こす果物・野菜は異なります。
花粉 | 花粉の 飛散時期 |
特徴 | 関連がある食べ物 |
---|---|---|---|
【カバノキ科】 ハンノキ属 ハンノキ・ オオバヤシャブシ |
ハンノキ:1~5月 オオバヤシャブシ:3~4月 |
日本全国に分布。水辺や湿地に自生するほか、公園などにも植えられている。 | リンゴ、モモ、ナシ、ビワ、サクランボ、イチゴ、メロン、スイカ、キュウリ、ダイズ(主に豆乳)、キウイ、オレンジ、ゴボウ、ヤマイモ、マンゴー、アボカド、ヘーゼルナッツ、ニンジン、セロリ、ジャガイモ、トマト |
【カバノキ科】 シラカンバ属 シラカンバ |
4~5月 | 北海道~本州中部に分布。一般的には「シラカバ」という名称で呼ばれる。 | リンゴ、モモ、ナシ、洋ナシ、スモモ、アンズ、サクランボ、イチゴ、ヘーゼルナッツ、アーモンド、クルミ、ピーナッツ、セロリ、ニンジン、ジャガイモ、キウイ、オレンジ、メロン、ライチ、マスタード |
【スギ科】 スギ・ヒノキ |
スギ:2~4月 ヒノキ:3~5月 |
日本全国に分布。スギ花粉とヒノキ花粉は構造が似ていて、スギ花粉に反応する人の7割はヒノキ花粉にも反応する | トマト |
【イネ科】 オオアワガエリ・カモガヤ |
5~10月 | 日本全国に分布。牧草として全国で広く栽培。雑草化して道端や河川敷などにも生えている。 | メロン、スイカ、トマト、ジャガイモ、タマネギ、オレンジ、セロリ、キウイ、米、小麦 |
【キク科】 ブタクサ |
8~10月 | 日本全国に分布。道端、河川敷、公園、畑地などに生えている。 | スイカ、メロン、ズッキーニ、キュウリ、バナナ |
【キク科】 ヨモギ |
8~10月 | 本州~沖縄に分布。お餅に混ぜたり、もぐさとして使われる。繁殖力が強い。 | ニンジン、セロリ、レタス、ピーナッツ、クリ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ(ハシバミ)、ヒマワリの種、ジャガイモ、トマト、キウイ、香辛料(マスタード・コリアンダー・クミン) |
口腔アレルギー症候群になった場合は
まずはアレルギーの原因となる食べ物をなるべく食べないことが大切です。息苦しい、意識がもうろうとするなど、症状が重い場合は、すぐに医師の診察を受けてください。
花粉症と同じく、完全に治すことはできませんが、その食べ物の摂取を控えることで、発症を抑えることは可能です。不安な場合は、食べる前にほんの少しだけ舌にのせて、もしピリピリとした刺激を感じるようなら食べるのをやめます。症状が軽いからといって食べ続けると重症化する危険もあります。
原因となる物質が分からない場合、病院でアレルギーの原因を特定する検査を受けるのもいいでしょう。検査には、血液検査や皮膚テストなどがありますが、血液検査では加熱した果物・野菜で検査するので陽性が出ない場合があります。そのときは花粉の面から検査を進めるのもいいでしょう。
口腔アレルギー症候群の検査としては、皮膚テストの一つであるプリックテストがおすすめです。これは腕の皮膚に、浅く傷をつけてアレルゲンエキスを落とすというもの。15分ほどで結果がでるうえに安価なため、気軽に受けることができます。生の果物・野菜を使ったプリックテストは感度がよく診断的にも価値が高くなります。
口腔アレルギー症候群は花粉症でない人も注意
また、口腔アレルギー症候群は花粉症でない人も起こります。ゴム手袋(ラテックス)過敏症のある人、即時型食物アレルギーの既往のある人、アトピー性皮膚炎やぜんそくのある人などにも起こる場合があるので、注意が必要です。
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監修
ふくずみアレルギー科 院長・医学博士 吹角隆之 先生
信州大学医学部卒業。大阪大学大学院博士課程修了。その後、大阪大学病院の皮膚科に入局。平成2~14年、大阪府立羽曳野病院(現 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター)にてアトピー性皮膚炎を中心としたアレルギー性皮膚疾患、食物アレルギー、化学物質過敏症の治療に注力する。平成15年、ふくずみアレルギー科を開院。患者の生活環境や食生活などからアレルギー原因をつきとめ、治療に当たっている。日本皮膚科学会皮膚科専門医、日本アレルギー学会認定専門医。
〒540-0012 大阪市中央区谷町1-5-6 サンユー天満橋ビル4F
TEL:06-6940-2702 公式サイト:http://fukuzumi-allergy.com/
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