海の恵みで心身を健康に。「海洋療法」タラソセラピーの効果とは?
健康とくらし
2022年05月26日掲載
「海に行くと心が安らぐ」「旅行に行くならやっぱり海辺のリゾートが好き」という方は多いのではないでしょうか。美しい海や爽やかな潮風は、心も体もリフレッシュさせてくれるものですね。そんな海やその周辺環境を活用し、心身のケアを行う治療法があります。それが「タラソセラピー」です。今回は、タラソセラピーの具体的な方法や効果・事例などについて、国立大学法人琉球大学の荒川雅志教授に解説していただきました。
荒川雅志
国立大学法人琉球大学 教授
国際地域創造学部/観光科学研究科教授 ウェルネス研究分野代表。1972年福島県生まれ。学習院大学卒、重量挙げ競技パワーリフティング56kg級全日本学生優勝、同競技アジア選手権代表。世界5大長寿地域“ブルーゾーン”沖縄100歳者ライフスタイル研究で福岡大学大学院医学研究科社会医学系疫学専修修了。医学博士。日本のウェルネス分野研究の第一人者として、星のや沖縄、ハレクラニ沖縄などのリゾートホテルウェルネス事業の監修や、沖縄県にとどまらず、日本各地、マレーシア、韓国・ソウル、中国・重慶、上海、香港などで国際会議や大学、講演会へ多数登壇。
タラソセラピーとは?
タラソセラピーとは
タラソセラピー(Thalassotherapy)とは、「海の恵み」を活用して心身を治療すること・健康増進をはかることを指します。この語源は、ギリシャ語のthalasso(海)とフランス語のtherapie(治療)から来ています。
ここでいう「海の恵み」とは、海そのものだけでなく、海周辺の暖かい気候や海藻や海泥などの海洋資源も含みます。そのため、タラソセラピーにはさまざまな手法・種類があります。
あとで詳しく解説しますが、海水の浮力や水圧を活かしたマッサージや水中運動、海藻や海泥を使った美容エステなどが有名です。タラソセラピーは、高齢者の日常生活体力機能向上・睡眠の質改善・メタボリック関連指標の改善・精神安定作用など、さまざまな効果があるとされています。
タラソセラピーって具体的に何をするの?
タラソセラピーの具体的な方法
タラソセラピーにはさまざまな方法があります。
海水入浴療法
海水の水圧や浮力・摩擦抵抗を生かして水中運動やマッサージを行います。また、海水に浸かることで海水に含まれるミネラル成分などの栄養素を皮膚から取り込むこともできるとされています。
海藻療法(アルゴセラピー)
海藻や海藻を加工したものをエステやマッサージに使用します。海藻に含まれるミネラルやヨードの働きにより、皮膚の老廃物除去や脂肪分解作用が期待でき、美肌効果や痩身効果があるとされています。
海泥療法(ファンゴセラピー)
海泥をエステやマッサージに使用します。ミネラルを豊富に含む海泥を顔や全身に塗ることで、皮膚の老廃物除去や鎮静・殺菌・保湿効果などが得られるとされています。
WATSU(ワッツ)
これは、指圧をルーツに水圧と手による施術を組み合わせたリラクゼーション法です。海洋プールに浮遊し、全身の力を抜いてセラピストに体を委ね、水流とストレッチによって肉体的な解放感と精神的な瞑想状態を導くことを目的としています。
地形療法
地形療法とは、避暑の山岳地帯や森林・海岸地形などを利用し、開発された散策道やトレッキングコースに沿って個人の身体状態に応じた歩行速度・時間を処方する歩行運動療法です。
海やその周辺地域で行う地形療法のメリットは、海洋気候の特徴的な要素である「冷気と風」を活用して、運動効果を向上させられる点です。海風(ミネラル成分を含んだ)を深呼吸して肺に取り入れながら歩くことで、街中を歩くよりも気持ちよくリラックスしながら運動効果が享受できます。
転地療法
転地療法とは、日常から環境の異なる土地に移動(転地)して、一定期間滞在しながら保養または治療することを目的とした療法です。転地先での地域資源や温泉・海・森・川・自然環境・気候・食などを活かした保養、療養プログラムが該当します。海やその周辺環境での転地療法の効果は、近年の研究でも検証されています。
ドルフィンセラピー
ドルフィンセラピーはアニマルセラピーの一つです。イルカと接したり一緒に泳いだりすることで心身のケアやリラックス作用を促します。
ウェルネスツーリズムと絡めた手法も
近年話題を集めている、ヘルスケアやアクティビティ・地域資源との交流を通して自己開発・自己実現を目指す「ウェルネスツーリズム」とタラソセラピーを絡めた方法もあります。
海洋地域に宿泊し、海岸沿いを歩くビーチウォークや素足で砂浜を歩くサンドウォーク・砂浜でのヨガレッスン・大地とのつながりを五感で感じる「アーシング」などを行います。また、現地の海の恵みをふんだんに使った食事を楽しむことで、体の内側から心身のケアを目指します。このほか、現地の文化・芸能の鑑賞や地域住民との交流なども含まれます。
タラソセラピーの効果とは?
心身の不調改善効果
これまでの研究では、タラソセラピーを行うことで、高齢者の日常生活体力(ADL)機能向上、睡眠の質的改善効果、メタボリック関連指標の改善効果、精神安定作用、ストレス軽減の効果、不定愁訴の改善に一定の成果が得られています。
リラックス効果
また、ただ海を眺めているだけでも、血圧の低下や脳活動が鎮静化する作用・リラックス作用がもたらされることもわかってきています。人間の心拍や脳波には揺ら気があるため、波の不定期な打ち寄せリズムや大地・風の揺らぎを感じることで揺らいでいる者同士のシンクロによる安らぎ効果がもたらされると考えられています。
転地効果
このほか、日常から離れて海洋環境下に身をおくことで、癒しやストレス解消・新たな自己発見といったプラスの効果も得られると考えられます。
タラソセラピーはどこで受けられる?
タラソセラピーを行うのに重要なポイントは、清浄で汚染されていない海洋環境下を活用することです。美しい海洋環境が広がる沖縄周辺地域を中心に、タラソセラピーが受けられる施設は全国に複数あります。
また、日本では昔から「潮湯治」と言って、海を温泉に見立てた治療が行われています。潮湯治では、「海に浸かる→上がって休憩する」を何度か繰り返す、つまり温泉に入るのと同じような浸かり方をします。潮湯治ができる施設も国内に20ヶ所近くあります。
まとめ
日本では海辺やビーチリゾートへの旅行が大変人気ですが、一方でタラソセラピーという概念はまだあまり知られていません。しかし、タラソセラピーは、今の時代にこそ求められている療法なのではないでしょうか。
コロナによって、私たちの多くは命が脅かされる不安にさらされ、同時に健康であることの大切さを実感し健康への欲求が強くなったはずです。「日々を健やかに過ごせるように、心身の調子を整えたい」「ストレスを解消して心身ともにリフレッシュしたい」といった思いがある方は、移動に関する規制も少しずつ緩和されている今、ぜひタラソセラピーを取り入れみてはいかがでしょうか。
国立大学法人琉球大学 教授 荒川雅志
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