ウェルネスを目指す旅。ウェルネスツーリズムのメリットと事例
健康とくらし
2021年12月09日掲載
近年、世界中で注目されている「ウェルネスツーリズム」。言葉だけは聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。でも、「そもそもウェルネスって何?」という方や、「具体的に何をすればいいのか、どんなメリットがあるのか、あまりイメージが沸かない」という方も多いかもしれませんね。そこで今回は、ウェルネスツーリズムのメリットや具体的な事例・トラベルプランについて、ウェルネスツーリズムの第一人者、荒川雅志教授に教えていただきました。
荒川雅志
国立大学法人琉球大学 教授
国際地域創造学部/観光科学研究科教授 ウェルネス研究分野代表。1972年福島県生まれ。学習院大学卒、重量挙げ競技パワーリフティング56kg級全日本学生優勝、同競技アジア選手権代表。世界5大長寿地域“ブルーゾーン”沖縄100歳者ライフスタイル研究で福岡大学大学院医学研究科社会医学系疫学専修修了。医学博士。日本のウェルネス分野研究の第一人者として、星のや沖縄、ハレクラニ沖縄などのリゾートホテルウェルネス事業の監修や、沖縄県にとどまらず、日本各地、マレーシア、韓国・ソウル、中国・重慶、上海、香港などで国際会議や大学、講演会へ多数登壇。
INDEX
ウェルネスツーリズムって何?
ウェルネスとは
ウェルネスツーリズムについてご紹介する前に、まずは「ウェルネス」という言葉についてご説明しておきましょう。「ウェルネス」とは、健康を体の側面だけでなく、より広義に総合的に捉えた概念です。1960年代にアメリカのハルバート・ダン医師が『ウェルネスとは、輝くように生き生きしている状態』と提唱したのが始まりです。
コロナ禍を通し、多くの方が「健康であることの大切さ」を再認識したかと思います。「健康」という基盤があって、その上でより良い暮らし・豊かな人生・自己実現を目指す……そのための行いや過程こそが「ウェルネス」なのです。ウィズコロナ・アフターコロナの時代においては、新しい生き方・働き方の中、そんな「ウェルネスライフスタイル」が定着していくのではないかと考えられます。
ウェルネスツーリズムとは
そんな「ウェルネス」を目的とした旅が、ウェルネスツーリズムです。ウェルネスツーリズムでは、旅先でのスパやヨガ・瞑想・フィットネス・ヘルシーな食事・レクリエーション・交流などを通して、心身の健康を促し、リフレッシュしながら新たな自己発見や自己開発を目指します。また、旅先の地域資源(自然や風土・文化・歴史・食・人など)に触れることも、これからのウェルネスツーリズムでは重要視されています。
ちなみに、ウェルネスツーリズムと似た言葉で「ヘルスツーリズム」というものもあります。これらの違いについては以下のように考えるとわかりやすいでしょう。
-
ヘルスツーリズム
温泉での療養など、ヘルスケアを目的とした旅。 -
ウェルネスツーリズム
ヘルスケア+アクティビティや地域資源との交流、つながりなどを通して自己開発・自己実現を目指す旅。
ウェルネスツーリズムの事例【海外と日本】
ウェルネスツーリズムの概念をご説明したところで、ここからは海外や日本におけるウェルネスツーリズムの事例をご紹介します。
海外では昔からスパリゾートでのウェルネスツーリズムが一般的
海外においては、スパリゾートを中心に昔からウェルネスツーリズムが一般的でした。ラグジュアリーなリゾートホテルで温泉に入ったりマッサージ・エステを受けたり、日の出や夕暮れにヨガや瞑想をしたり、ヘルシーな食事をとったりします。
聖地巡礼は、最古のウェルネスツーリズムと言える
古くから世界中で行われている聖地をめぐる「巡礼」は、まさにウェルネスツーリズムだと言えます。巡礼とは、聖なるものに接近することで魂の癒しを得る旅。イスラム教におけるメッカ巡礼や、日本にはお伊勢参り・熊野詣・四国八十八ケ所巡礼などがあります。このような「魂を癒す旅」は、ウェルネスツーリズムの起源とされています。
日本のウェルネスツーリズム=温泉?
温泉大国の日本は、湯治(※)に絡めたウェルネスツーリズムに最適な国といえます。みなさんの中にも、「ウェルネスツーリズム」という言葉を聞いて「温泉でのリラクゼーションのことかな?」と思った方が多いかもしれません。たしかに、日本のウェルネスツーリズムにおいて温泉は欠かせないキーワードです。しかし、「ウェルネスツーリズム=温泉」というのは正しくありません。上述したように、ウェルネスツーリズムとは「ヘルスケア+アクティビティや地域資源との交流などを通して自己開発・自己実現を目指す旅」のことであり、温泉に入ることだけを指すわけではないからです。近年では、温泉がない地域でもウェルネスツーリズムができるよう、各地でさまざまな取り組みが行われています。前述したお伊勢参りや熊野詣・四国八十八ケ所巡礼なども、温泉療養ではありませんがウェルネスツーリズムの理想形のひとつです。
(※)湯治
温泉施設に長期間滞在して温泉の効能で病気の症状改善や療養を行うこと。湯治の歴史は古く、奈良時代にはすでに湯治の習慣があったとされており、日本書紀や風土記にも温泉での療養に関する記述が記されている。
関連記事:温泉で体が良くなるのは本当?温泉療法医に聞く湯治の効果
ウェルネスツーリズムで得られること・メリット
ウェルネスツーリズムを行うことで、以下のようなメリットがあります。
日々のリセット、生き方のヒントや新しい自分に出会える
ウェルネスツーリズムを行うと、生きがいや生き方のヒントが見つかったり新しい自分に気づいたりと、多くの発見があるでしょう。また、ゆったりとした時間と空間の中、人生の過去・今・未来についてゆっくりと考えることもできます。そうすることで、これまでの日々をリセットして次のステージにチェンジするきっかけを作ることにもつながるはずです。本来の自分を取り戻し、原点回帰できる方もいるでしょう。
普段とは異なる人や文化との交流による刺激や自己開発
旅、特にウェルネスツーリズムにおける大きなメリットは、普段とは異なる人や文化との交流ができることです。新しいものに触れることで五感が刺激され、新たな自己発見・自己開発の機会が得られます。
転地効果によるリフレッシュ・ストレス解消
日常生活と異なる場所に行くことで、リフレッシュ効果が得られます。このような効果のことを「転地効果」と呼び、日々の疲れやストレスを癒すには最適です。
ウェルネスツーリズムをしてみたい!モデルプランを解説
では、「ウェルネスツーリズムをしてみたい!」という場合、具体的にはどんなプランが考えられるでしょうか。
海外になかなか行けない今だからこそ、日本型のウェルネスツーリズムを検討してみるのがおすすめです。日本型のウェルネスツーリズムには、四季折々の風情、世界無形文化遺産の和食、地域固有の食材・食文化、伝統、芸能、様式美、「道」を究める精神性、詫び寂びといったたくさんの魅力があります。これら和の要素を楽しむのも、日本型ウェルネスツーリズムの醍醐味です。
- プラン1
温泉宿に複数日宿泊して、宿内だけで完結させるのではなく、周辺を観光したり地域のアクティビティ・地域住民との交流体験に参加したりする。 - プラン2
ウェルネスツーリズムを実施しているホテルや旅館で、スパトリートメント体験、ヨガや座禅のプログラムに参加、ヘルシーな和食を楽しむ。 - プラン3
お伊勢参りや熊野詣・四国八十八ケ所巡礼など、古くからある巡礼路を巡りつつ、各地の自然、人、食、文化に触れる旅をする。
ウェルネスツーリズムの行き先の選び方のポイント
前項でウェルネスツーリズムのモデルプランをご提案しましたが、では「どこ」に行くのが良いのでしょうか。行き先を考えるときのポイントをご紹介します。
気候、自然、食、文化を軸に行く場所とアクティビティを考える
気候、自然、食、文化の4軸を目的地選びのポイントにしてみてはいかがでしょうか。日本には四季があり、それにともなう美しい自然があります。また、地域固有の食や文化もあります。4つのポイントを軸にご自身の旅の理想像を見つけ、それを実現できる目的地を選ぶとよいのではないでしょうか。
自分の「ウェルネスポイント」を考えてみる
自分自身でウェルネスポイントを考え、プランを組んでみるのもおすすめです。ウェルネスポイントとは、「心が開放される場所・風景」「心惹かれるアクティビティ」といった意味です。このようなウェルネスポイントは、一人ひとり異なるものです。自分自身に目を向けて、「自分が何をしたら気持ちよくなれるのか」「何を見たら気づきのきっかけを得られるのか」といったことをまずは考えてみましょう。この「考えること」、それ自体もウェルネスツーリズムの始まりと言えます。ぜひ、ご自身のウェルネスポイント、ご自身にぴったりなウェルネスツーリズムを見つけてみてください。
旅行会社・自治体が展開するプランに申し込む
近年は、旅行会社と各自治体が提携し、「ウェルネスツーリズムプラン」を販売していることがあります。こういったものを利用するのもひとつの選択肢と言えるでしょう。
まとめ
ヘルスケア目的のみならず、自身のライフスタイルの見直し・自己開発・自己実現をはかるための旅、自然、人、地域と“つながり”をつくる旅がウェルネスツーリズム。ウェルネスツーリズムは、生き方や働き方が大きく変化したウィズコロナ・アフターコロナ時代に最適な旅の形なのかもしれませんね。興味のある方は、ぜひあなたなりのウェルネスツーリズムを楽しんでみてください。なお、旅をする際は、マスクやアルコール消毒などの感染対策や三密回避・安全対策に配慮することも忘れずに。
国立大学法人琉球大学 教授 荒川雅志
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。
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