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【肛門科専門医監修】毎日出ていても便秘!?「おなかの便秘」と「出口の便秘」の症状と原因・解消法

便秘というと、一般的には大腸などおなかのトラブルによって便が体内に滞っている状態を指します。しかし便秘には、実はもうひとつのタイプがあります。それが、出口である肛門で便がうまく排出できなくなっている状態です。

「毎日お通じはあるけど、残便感がある・スッキリしない」
「便秘解消のために食物繊維をたくさん摂ったり、便秘解消に良いと言われるストレッチや運動をしたりしているのに、なかなか効果が得られない」

そんな方は、この「出口の便秘」である可能性があります。そこでこの記事では、肛門科専門医の佐々木みのり先生に、タイプ別の便秘の症状や原因・対処法について教えていただきました。

佐々木 みのり

大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医

日本でも20名余りしかいない数少ない女性の大腸肛門病専門医・指導医。大阪医科大学卒業。大阪大学皮膚科に入局。4年間皮膚科医としての経験を経て肛門科医に転身。元皮膚科医という異色の経歴を持つ。創業明治45年の老舗肛門科である大阪肛門科診療所の副院長。約20年間に10万人近くの患者さんを診察。痔の原因となった出口の便秘を治すことによって多くの痔疾患を手術せずに治療している。全国各地や海外から患者さんが訪れている。

大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医 佐々木みのり

便秘には、「おなかの便秘」と「出口の便秘」がある

便秘でお腹を抱える様子

便秘の改善にあたって一番大事なのは、自分の便秘のタイプを知ること。
おなかの便秘なのか、出口の便秘なのか、便秘のタイプによって症状や原因・対処法は全く異なります。

おなかの便秘とは

大腸は、便を作り出したり送り出したりする器官です。大腸に何らかの問題が生じて便をうまく作れなくなったり送り出せなくなったりすると、大腸で便が滞ってしまいます。

出口の便秘とは

肛門や直腸は便を体外に排出する器官です。大腸で便を正常に作って送り出せていても、肛門や直腸の排出力が低下していると便をうまく出せなくなり、出残り便が溜まってしまいます。このような状態が慢性化すると、直腸が出残り便に慣れて鈍感になり、便意を感じにくくなります。初めのうちは出し切れない不快感があったのに、だんだんと完全に排便できていないにもかかわらず「スッキリした」と感じてしまうのです。さらに悪いことに、出口に溜められる便の量は増えていってしまうため、ますます悪化していきます。

あなたは「おなかの便秘」?「出口の便秘」?それぞれの症状

便秘で憂鬱な様子

大腸で便が滞っているおなかの便秘と、肛門付近で便が滞っている出口の便秘では、起きる症状に違いがあります。

おなかの便秘で起きる症状
  • 3日以上排便がない
  • おなかが張る
  • おなかが痛くなる


排便のない状態が続き、溜まっている便の量が増えてくると、ゲップが増える・吐き気・食欲不振などの症状が出ることもあります。

出口の便秘で起きる症状
  • 残便感がある
  • 排便後、3回拭いてもまだ紙に便がつく
  • 食べる度に便が出る
  • 1日に何度も便が出る
  • 出始めの便が硬く、その硬い便が出るときに痛みや出血がある
  • 下着に便が付く
  • 肛門がかゆい
  • オナラがよくでる、オナラが臭い


ここで重要なのは、毎日便が出ていても、スッキリ出ずに便が肛門の中に残っていれば便秘であるという点です。「毎日出ているから私は快便」と思っていても、上記のような症状がある方は出口の便秘である可能性があります。

「1日に何度も便が出る・食べる度に便が出るのは便秘なの?」と思われる方いるかもしれませんが、正常な状態の排便は1日に1回〜2回程度。出口の便秘の場合、出口付近に便が常に残っている状態なので、食事による刺激によって残っていた便が排出されたり1日に何度も少しずつ出たりするのです。

また、肛門付近で溜まった便はどんどん硬くなり、重みも増すので、排出時に肛門の周辺組織を傷つけます。そのため、痛みや出血をともなうことも。このほか、便が残っていると、肛門のかゆみ・ヒリヒリなどの症状も出やすくなります。さらに、出口に便があるとオナラは臭くなります。

便秘の原因とは

便秘について相談する様子

おなかの便秘と出口の便秘では、それぞれ原因が異なります。

おなかの便秘の原因

おなかの便秘の原因は、大きく「器質性」と「機能性」に分けられます。

器質性

腸の病気や形態によって便秘が起きることがあります。例えば、大腸がんやクローン病・虚血性大腸炎などの疾患によって腸の内腔がせまくなり、そのせいで腸の中を便が通過しにくくなっている状態が考えられます。また、巨大結腸・直腸瘤・直腸重積などの疾患にともなう腸そのものの形態によって、便秘が起こることもあります。

機能性

腸の病気や形態が原因ではなく、腸の機能が低下することによって引き起こされることもあります。腸の動きが悪く、腸に便が停滞しやすくなってしまった状態です。この原因はさまざまで、ストレスや運動不足・睡眠不足・不規則な生活などが考えられます。また、水分摂取不足やダイエットで食事量が減少した場合にも起こります。このほか、薬の副作用で便秘になることもよく知られています。例えば、風邪のときに出される咳止めの薬や、うつ病やパニック障害の方が飲んでいる向精神薬や抗うつ剤、また鎮痛目的で投与する麻薬も便秘を引き起こします。

出口の便秘の原因

対して出口の便秘の原因は、「行きたいときにトイレに行かず、便意を我慢すること」です。便意があるということは、便がすぐそこまで降りてきているということです。そこで便意を我慢すると、便は出口に詰まったままになり、やがて便意は消失します。便意がなくなったからといって、便がなくなったわけではないのです。

これを繰り返していると、肛門は便意に対して鈍感になっていきます。便が降りてきていても少しくらいであれば便意を感じなくなり、どんどん肛門付近に便が溜まってしまうのです。

便秘がもたらす体調不良とは

便秘によるトラブルのイメージ

肌トラブルや口臭の原因に

おなかの便秘も出口の便秘でも起こりやすいのは、肌荒れやニキビです。特に口のまわりのニキビは便秘と関連が深いと言われています。皮膚科で治療してもなかなか治らないといった場合、便秘に原因があるケースも少なくありません。このほか、口臭なども起きやすくなります。

出口の便秘は、痔の原因になる

出口の便秘とそれにともなう出残り便は、切れ痔やいぼ痔・痔ろうの原因となります。また、肛門そう痒症を引き起こすこともあります。

▶︎出口の便秘が痔の原因となるプロセスなどについては、こちらの記事で詳しく解説しています
痔の治療に薬や手術は必要?原因・予防改善のポイント【肛門専門医監修】/症状や原因編

出口の便秘は直腸がんとも関連性が疑われる

直腸がんの患者さんのほとんどは、出口の便秘の傾向があります。医学的な根拠は証明されていないものの、関連性はゼロではないと考えられます。

うつ病などの精神疾患との関連も

便秘は、うつ病などの精神疾患との関連性も疑われます。うつ病などの精神疾患は、セロトニンという物質が十分に分泌されないことがひとつの要因だと言われています。セロトニンのほとんどは脳ではなく腸から分泌されるため、便秘によって腸内環境が悪化していると分泌が阻害され、うつなどの精神疾患の誘因となると考えられます。

おなかの便秘は、食事・睡眠・運動で解消しよう

便秘に良い献立

おなかの便秘解消の基本は、食事・睡眠・運動の3点です。なお、これらは出口の便秘には直接的には効きません。出口の便秘の改善方法については後の項目で解説します。

食事

最初にお伝えしたいのは、「〇〇を食べれば便秘が解消する!」と一概に言える食品や食材はないということです。腸内環境は人それぞれ異なり、また体質によっても合う・合わないがあるからです。便秘解消のためには、さまざまな方法の中から自分に合った食材や食事方法を見つける必要があります。

食物繊維を積極的に摂取する

一般的に、便秘解消には食物繊維をたくさん摂るのが良いとされています。食物繊維を多く含むのは、バナナやプルーン・いちじく・りんご・さつまいも・かぼちゃ・ごぼう・大根・ごまなど。

しかし、誰でも食物繊維を摂れば便秘解消に繋がるというわけではないので注意が必要です。腸の潤いや働きが低下している高齢者や虚弱体質の方・手術直後の患者さんなどは、食物繊維を摂りすぎるとおなかが張ったり、かえって便秘になったりすることがあります。

食物繊維でおなかが張る方は、腸をうるおすケアを

食物繊維をたくさん摂るとおなかが張る方や高齢者の方などは、食物繊維は控えめにし、オリーブオイルなど腸を潤す食材を摂りましょう。お蕎麦やアボカド・しいたけ・ハチミツ・らっきょう・切り干し大根・黒きくらげ・黒すりごまなどもおすすめです。

ミネラルウォーターをこまめに飲んで水分補給

体が水分不足になっていると、便を作ったり送ったり排出する機能が低下しやすくなります。喉が乾いてからではなく、こまめに水分を摂りましょう。また、一度に大量に飲むと下痢になることがあるので、少量ずつ飲むことも大切です。なお、浄水器のお水ではなくミネラル成分がしっかり入ったミネラルウォーターがおすすめです。

小麦と乳製品を2週間抜いてみるのも有効

ぜひ試してみてほしいのが、小麦と乳製品を2週間完全に抜く方法です。小麦に含まれるグルテンというタンパク質、乳製品に含まれるガゼインというタンパク質は、腸を荒らし細かい穴を開けてしまうことがわかっています。こういった症状をリーキーガッド症候群と言い、便秘のほか下痢や軟便などの症状が出ます。すべての方で小麦と乳製品を抜いて便秘が解消するわけではありませんが、便秘に悩んでいる方は試してみても良いのではないでしょうか。

便秘が解消されてスッキリする様子

睡眠

便秘解消のためには、睡眠習慣の見直しも行いましょう。日付が変わるまでに就寝するのが理想です。24時前に眠ることで、副交感神経にスイッチが入り、腸の動きが正常に働きやすくなります。睡眠時間は、最低6時間、できれば7時間確保しましょう。

運動

腸を正常に機能させるためには、体を動かすことも重要です。日常的にスポーツができない方は、歩くだけでもOKです。出勤時に1駅分歩く・エスカレーターとエレベーターは使わないなどを心がけてみてください。

プラスアルファで試したい、おなかの便秘改善方法

飲んでも害がない、あるいは便秘に直接的な効果はなくても腸内環境を改善してくれる乳酸菌の摂取がおすすめです。市販の乳酸菌サプリメントや整腸剤などを利用してみてください。

このほか、発酵食品の摂取も便秘改善に効果的です。納豆や発酵味噌・ドライ発酵フルーツなどが良いでしょう。ただし体質的に発酵食品が合わない方もいます。食べてみて、かえっておなかが張る・ゴロゴロする・軟便になるなどの症状があれば控えましょう。

出口の便秘解消には、排便習慣の改善が大切

排便習慣を見直してお腹をいたわる様子

出口の便秘解消には排便習慣を見直しが必要です。

出口の便秘予防には、「便意を我慢しないこと」が重要

前述したように、出口の便秘の原因は便意を我慢すること。便意を感じたらすぐにトイレに入って排便をするよう心がけてください。タイミングを逃すと、便が出なくなる・あるいはスッキリ出しきれず残ってしまいます。食事や睡眠・運動などで良い便をつくって出口まで運んでも、送り届けられた便を出すところで我慢したら便秘になってしまいます。

出口の便秘予防のために。正しい排便のためのポイント

出口の便秘を防ぐためには、正しい排便習慣を身に付けましょう。以下のポイントに留意してみてください。

  • 便意を感じたらすぐにトイレに入る
  • いきむのは30秒以内に
  • 5分便座に座っても出なければ、いったんトレイから出て体を動かして再チャレンジを
  • 温水洗浄便座の使用は避ける

 

浣腸や坐剤は効果的だが、初回は病院で

出口の便秘に対するプラスアルファのケアとしては、浣腸や炭酸ガスの坐剤を使用します。ただし、正しく使用しないと効果が得られないどころか、誤った使用方法で直腸を傷つけてしまう恐れもあります。浣腸の場合、走神経反射という自律神経の反射が起こり、吐き気や動悸・めまい・脂汗などの症状が出現し、気分が悪くなったり、ひどい場合だと意識消失して倒れる恐れも。初めて行う場合は、必ず医療機関で行ってもらうことをおすすめします。

便秘を悪化させることも!市販の便秘薬の使用は極力避けて!

市販の便秘薬

便秘が続くとき、市販の便秘薬を使用する方もいるかと思いますが、市販薬の使用はおすすめしません。特に避けてほしいのは、アントラキノン系の成分が入っている下剤です。成分表記にセンナ(ゴールデンキャンドル・キャンドルブッシュ)・大黄・アロエなどが含まれているものがそれに該当します。これらを長期にわたって使用すると、大腸が黒くなる大腸メラノーシスという病気を引き起こします。また、依存性が高いため、服用を続けると自力での排便がむずかしくなります。またそれだけでなくポリープや大腸癌の発生リスクが高まるため常用は避けましょう。

まとめ

便秘の解消のためには、まずはご自身の便秘のタイプを知ることが大事です。おなかの便秘なのか、出口の便秘なのか、それとも両方なのか。ご自身のタイプを知った上で、適切な改善策を行ってみましょう。それでも改善しない場合は、一度専門医に診てもらうと良いでしょう。

大阪肛門科診療所 肛門科専門医・指導医 佐々木 みのり

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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