始めるなら今!スギ花粉症を根本から治療する「舌下免疫療法」とは
病気・症状と予防
2020年05月28日掲載
スギ花粉症にお悩みの方は、「舌下免疫療法」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。舌下免疫療法は、スギ花粉症やダニアレルギーに対する有効な根本治療法。
しかし、「大変な治療なのでは?」「手間がかかりそう」と思っている人が多いのではないでしょうか。そこで今回は、舌下免疫療法の治療方法や効果などについて、耳鼻咽喉科医の中野友明先生に教えてもらいました。
中野友明
淀川キリスト教病院 耳鼻科・小児耳鼻科部長
平成3年3月に大阪市立大学医学部を卒業後、大阪市立総合医療センター小児耳鼻科部長を経て平成30年4月から淀川キリスト教病院 耳鼻科・小児耳鼻科部長を務める。小児の耳鼻科系奇形疾患手術から鼻・副鼻腔手術、咽喉頭手術、耳科手術、頭頸部良性腫瘍・悪性腫瘍手術まで幅広く対応しています。
INDEX
舌下免疫療法は、スギ花粉症・ダニアレルギーを根本から治療
●舌下免疫療法とは
舌下免疫療法は、スギ花粉症やダニアレルギーに対する根本的な治療方法です。アレルゲン物質を含む治療薬を毎日少量ずつ投与することで、アレルゲンに体を少しずつ慣らし、アレルギー症状を根本的に改善していきます。
【舌下免疫療法のやり方】
1日1回、治療薬を舌の下に置き、1分間そのままにした後に飲み込みます。服用後しばらくは食を控え、激しい運動を避けます。
初めての服用は医療機関で医師の監督の元に行いますが、その後は自宅で服用します。服用期間の目安は3年〜5年程度です。
舌下免疫療法は、日本では2014年10月から健康保険適用の治療になりました。現在では多くのスギ花粉症・ダニアレルギー患者が治療を受けています。
●舌下免疫療法の開始時期
スギ花粉治療の場合、スギ花粉が飛散していない時期に治療を開始します。地域によって多少異なりますが、5月から12月が目安です。
なお、花粉シーズン中には治療を開始できません。花粉の飛散時期は体がアレルゲンに対して敏感になっているため、口内の腫れや喘息症状・アナフィラキシーショックなどの副作用が出やすいからです。
一方、ダニアレルギーには季節性がなく、1年を通して発症します。そのため、治療はいつからでも開始できます。
スギ花粉症への舌下免疫療法の効果
花粉が飛散していないシーズンから服用を始めると、翌年の花粉シーズンには何らかの症状改善が期待できます。そして長期的にお薬の服用を続けることで、アレルギー体質そのものを治していきます。スギ花粉症患者で舌下免疫療法を受けている方を対象とした調査では、4年ほどの服用で鼻詰まりや鼻水といった症状がなくなった方が40%前後、残りの60%近くも症状が緩和しているとの結果が出ています。
なお、舌下免疫療法は、抗アレルギー剤のように服用後すぐにアレルギー症状が抑えられるわけではありません。治療開始から日が浅く、アレルギー症状が出ている間は、抗アレルギー剤と併用することもあります。
舌下免疫療法を受けられる人・受けられない人
舌下免疫療法は、時間がかかっても根本的にスギ花粉症やダニアレルギーを治したいという方におすすめの治療法です。しかし、中には受けられない方・治療にあたって注意が必要な方もいらっしゃいます。
●舌下免疫療法を受けられる人
- スギ花粉症の確定診断を受けている方
- ダニアレルギーの確定診断を受けている方
※確定診断……自覚症状、身体所見等から医師が原因疾患として判断を下すこと。
●舌下免疫療法を受けられない人
- ダニアレルギー・スギ花粉以外の花粉症の方
- 今までに舌下免疫療法を受け、アナフィラキシーショックを起こしたことがある方
- 重篤な気管支炎がある方
●治療を受けるにあたって注意が必要な人
- スギ花粉が含まれる食品でアレルギー反応を起こしたことがある方
- トマトアレルギーがある方(トマトとスギ花粉のアレルギー物質は部分的に重なりがあるため)
- 喘息を持っている方
- 悪性腫瘍がある方
- 自己免疫疾患がある方
- 高血圧の薬を服用している方
- 抗うつ薬を服用している方
- ステロイド薬を服用している方
- 65歳以上の高齢者の方
- 妊娠中・授乳中の方
また、治療を開始したものの翌年の飛散時期にあまり効果が見られない方も、続ける意味があるかどうか担当医と相談した方がいいでしょう。
※花粉症と果物・野菜アレルギーの関係はこちらの記事からもご確認いただけます。
https://health.eonet.jp/life/health92.html
他の花粉症治療との違いは?舌下免疫療法が優れている点は?
●花粉症・アレルギー治療、3つの選択肢
スギ花粉症をはじめとするアレルギー治療には、様々な方法があります。
1.抗アレルギー剤の投与
病院で受けられるアレルギー治療として最も一般的なのは、抗アレルギー薬の投与です。お薬によって、鼻のつまりやムズムズ・目のかゆみなどといったアレルギー症状を抑えられます。しかし、あくまで対症療法であるため、根本的にアレルギーが治るわけではありません。
2.外科手術
鼻の粘膜をレーザーで焼いて収縮させ、鼻水やムズムズ・鼻詰まりといった症状が出ないようにする方法もあります。また、自律神経を切断して鼻水の分泌を抑える後鼻神経(こうびしんけい)切断術という手術も行われています。ただし、これらはあくまで鼻に現れる症状を抑えるための処置です。目のかゆみや喉の痛みといった鼻以外の部位に出る症状には効果はありません。
3.免疫療法
そしてもうひとつが、今回ご紹介している舌下免疫療法を含む「免疫療法」。免疫療法はアレルギーに対する有効な治療です。舌下免疫療法の他には、皮下免疫療法(ひかめんえきりょうほう)という治療法があります。これは、皮下にアレルゲンを含む治療薬を注射するもの。舌下免疫療法が保険適用になった2014年以前はスタンダードな治療法でしたが、近年では舌下免疫療法が選択される機会の方が多くなっています。
●舌下免疫療法が優れているポイント
舌下免疫療法が優れている1番の理由は、完治が可能だという点です。抗アレルギー剤は、即効性はあるものの対症療法であるため、アレルギーを治せるわけではありません。また、手術は鼻の症状にしか効果がありません。その点、舌下免疫療法は3年から5年の治療でアレルギーの発症そのものを抑えられます。
なお、皮下免疫療法にも同様の効果がありますが、1週間に1度程度通院して注射を受ける必要がある・副作用として注射箇所にかゆみが出やすいといったデメリットが。自宅での服薬が基本の舌下免疫療法の方が、手軽で取り入れやすいと言えるでしょう。
舌下免疫療法にかかる費用
舌下免疫療法の治療には、健康保険が適用されます。一般的に使われているお薬の場合、1か月にかかるお薬代は、国民健康保険で3割負担の方の場合、約1,350円。単純計算すると、1年で16,200円。これを3年から5年続けます。
舌下免疫療法はどこで始められる?治療の流れは?
●舌下免疫療法は、登録済みの医療機関で受けられる
花粉症やアレルギーの治療といえば、耳鼻咽喉科やアレルギー科で受けるのが一般的です。しかし、舌下免疫療法は、どこの耳鼻科・アレルギー科でも受けられる治療ではありません。この治療を行えるのは、規定の講習を受け、登録を済ませた医療機関のみです。治療を受けたい方は、お近くの医療機関に問い合わせてみてください。
●具体的な治療の流れ
まずは、アレルギー検査を受けます。これは、スギ花粉症またはダニアレルギーの確定診断をするためです。
確定診断が出たら、初回は医療機関で医師の監督の元に薬の投与を行います。投与後は、口内の腫れや喘息症状・アナフィラキシーショックが出ないかどうかなど副作用の有無を観察し、問題がなければお薬を処方します。
その後は自宅で薬の服用をし、定期的に検査と薬の処方を受けてください。最初は少量から始めて様子を見つつお薬の量を一定量まで増やしていきます。副作用などの問題がなく、一定量の投与が可能になったら、最長3カ月分のお薬を出すことができます。(ただし、定期検査の頻度については担当医の指示に従ってください)
新規治療は5月から開始可能!気になる方は医療機関に相談
毎年やってくる辛いスギ花粉症。花粉の飛散が落ち着いてきた今こそ、翌年の花粉シーズンに症状を抑えるための治療開始タイミングです。気になる方は、ぜひ舌下免疫療法を扱う医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。
淀川キリスト教病院 耳鼻科・小児耳鼻科部長 中野友明
URL : http://www.ych.or.jp/
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。