泌尿器科医監修
血尿の原因はストレスじゃない?疑われる病気と病院に行く目安
病気・症状と予防
2019年01月10日掲載
健康診断で血尿が出ていると指摘されたり、自分の目で見て尿の色が赤かったりしたことはありませんか?実は血尿は健康な人でも出るものなのですが、やはり腎臓や膀胱などの重大な原因の場合もあります。
そこで今回は、正常な範囲内の血尿と危険な血尿の見分け方や、血尿が出ている場合に考えられる病気、血尿が出たらどうすればいいかなどについて、泌尿器科医の大西裕之先生に教えていただきました。
大西 裕之
大阪赤十字病院 第一泌尿器科部長
長崎大学医学部卒業。京都大学医学部泌尿器科入局、奈良社会保険病院(現JCHO大和郡山病院)部長、滋賀県立成人病センター(現滋賀県立総合病院)主任部長などのポストを経て2017年4月より大阪赤十字病院泌尿器科部長として勤務。がん拠点病院での豊富な診療経験を生かして多くの腹腔鏡手術を執刀し、最新の腹腔鏡支援ロボット「ダヴィンチ」による膀胱がんの全摘除術にも取り組んでいる。
血尿とは?
血尿とは、尿の中に赤血球が含まれている尿のことを指します。健康な人の正常な尿には、赤血球はほぼ(※1)含まれていません。
※1 健康な人の尿でも、顕微鏡で400倍に拡大した際に2~4個程度赤血球が見つかることはあります。この程度であれば、正常な範囲とみなされます。
●肉眼的血尿と顕微鏡的血尿
血尿は、「肉眼的血尿」と「顕微鏡的血尿」に分けられます。その違いは、含まれている血の量にあります。
・肉眼的血尿
肉眼でもわかるほどの量の血液が尿に混ざっている状態。尿の色は、ピンクあるいは番茶色。
・顕微鏡的血尿
肉眼ではわからないが、顕微鏡やテストテープで尿を調べると赤血球が5個以上確認できる状態。
肉眼的血尿と顕微鏡的血尿には、質的な意味での違いはありません。両者の違いは、目で見てわかるほどの血量が混ざっているか否かです。当然、肉眼的血尿の方が血尿の症状としては深刻で、重要な病気のサインとして捉えられます。肉眼的血尿が見られたら、早急に病院を受診することが大切です。また、顕微鏡的血尿の場合も、重要な病気の危険信号であるおそれがあります。
●尿に血が混ざる3つの要因
ではどこで尿に赤血球が混ざるのでしょうか。大きく分けて3つのパターンが考えられます。
1.尿をつくる腎臓で赤血球が混ざる
尿は、血液からろ過された水分や老廃物から成ります。通常、体に必要な赤血球はろ過されないのですが、何らかの理由でろ過機構が壊れると、赤血球が尿に混ざります。
ろ過機構が壊れる原因としては、糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)があります。その他に腎がん・腎動静脈奇形(じんどうじょうみゃくきけい)・腎損傷などが考えられます。
2.尿の通り道(腎盂~尿管・膀胱など)で赤血球が混ざる
尿の通り道である腎盂(じんう)や尿管・膀胱・前立腺といった器官の粘膜に出血があると、赤血球が尿に混ざります。この原因として考えられるのは、尿路結石や尿管がん・膀胱がん・膀胱炎などです。
3.腎臓の血流障害によって赤血球が混ざる
実は腎臓という臓器は固定されておらず、体・呼吸の動きにあわせて上下する性質を持っています。そのため長時間の立ち仕事やマラソンのような激しい上下運動をともなう活動をすると腎臓も揺さぶられ、血流障害が起きやすくなります。そうすると赤血球が尿中に染み出し、血尿が出る場合があります。なお、マラソンは足の裏で血液が破壊されるという現象があり、それも血尿の理由のひとつとされています。
こういった腎臓の血流障害は必ずしも病気が原因ではなく、健康体の人にも起こりえます。また、腎臓下垂(※2)の方にも起こりやすい傾向があります。
※2 腎臓下垂 痩せ型の女性や高齢者は、腎臓が下に下りやすい傾向があります。これを腎臓下垂(じんぞうかすい)または遊走腎(ゆうそうじん)と呼びます。
血尿が出ているとき疑われる病気は?
肉眼的血尿・顕微鏡的血尿ともに、血尿の原因はさまざまです。そのため、患者さんの症状や訴え・性別・年齢などをもとに検査と判断が進められます。なかでも多い病気は以下です。
1.膀胱炎(ぼうこうえん)
血尿の原因として多いのが膀胱炎です。大腸菌をはじめとする細菌感染によって、膀胱の粘膜が傷ついて出血し、尿に血が混ざります。膀胱炎は女性に多い症状であるため、患者が女性で、血尿のほかに排尿の最後に痛みを感じる・頻尿などの症状が見られる場合には、膀胱炎が疑われます。
2.尿路結石(にょうろけっせき)
尿路結石が原因で血尿が出ることもあります。腎臓で発生した結石が尿管を下るときに尿管の粘膜が傷ついて出血すると、尿に血が混ざります。血尿とともに側腹部の痛みがある場合には、尿路結石が疑われます。女性よりも、やや男性に多い症状です。
3.膀胱がん
膀胱がんが原因のケースも少なくありません。膀胱の粘膜にがんが生じて粘膜が傷つき出血、尿に赤血球が混ざります。目に見える量の血液が尿に混ざっており、また膀胱炎や尿路結石で見られるような痛みがなく頻尿でもない、さらに患者さんが50歳以上の方の場合は、膀胱がんが疑われます。
膀胱がんは無症状であることが多く、ステージが進行していても気づかないことがしばしば。血尿をきっかけにがんが発覚するケースは少なくありません。血尿は、膀胱がん発見のひとつのバロメーターだといえます。
4.糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)
糸球体腎炎は自己免疫疾患のひとつで、腎臓の組織に炎症が起きる病気です。糸球体とは、腎臓にある不純物をろ過する「ふるい」のようなもの。糸球体腎炎にかかると、いわばそのふるいが壊れている状態になるため、赤血球が尿に混入します。また、糸球体腎炎では血尿の症状とともに、たんぱく尿が出るという特長があります。
これら4つが血尿の4大病因といえます。ただし、血尿が出たからといって必ず背後に病気が隠れているというわけではありません。次項で解説するように、健康な人でも血尿が出ることがあります。
健康な人でも血尿が出ることはある。その原因は?
過度の肉体的ストレスは、血尿を引き起こすことがあります。例えば、激しい上下運動を伴うスポーツをした際や、腎臓下垂の方が長時間立ち仕事をした際などです。
また、肉体的ストレスによって起きる横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)も、血尿とよく似た症状を起こすことがあります。横紋筋融解症は、ボクシングなど体に直接的にダメージが加わるようなスポーツ、震災時の家屋の下敷きなどによって大量の筋肉が損壊することで起きる病気です。筋肉からミオグロビンという物質が流出して尿に流れ混み、赤褐色の尿を出します。
なお、精神的なストレスや寝不足・疲れなどが原因で血尿が出ると思っている方もいるようですが、これに関しては医学的な根拠はありません。
血尿が出たら、どうすればいい?
健康診断で血尿を指摘された場合は、まずは検診の担当医の意見を聞き、必要に応じて泌尿器科医を受診してください。明らかな症状を伴わない顕微鏡的血尿は、痩せ型で腎臓下垂の方や激しい運動をした後などでも見られることがあるため、必ずしも治療が必要だとは限りません。
一方、肉眼的血尿が見られる場合は、膀胱がんなどの病気が疑われますので、すぐに泌尿器科を受診することをおすすめします。
まとめ
血尿は、膀胱炎や膀胱がん・腎臓疾患のサイン。重大な疾患を見逃さないよう、日頃から尿の色をチェックする習慣をつけ、自分の体の異変や不調にしっかりと目を向けることが大切です。
また、気になる症状がある場合は、できるだけ早めに泌尿器科医に相談しましょう。
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。