隠れ貧血とは?症状のセルフチェックと原因・対策
健康とくらし
2022年07月21日掲載
皆さんは「隠れ貧血」という言葉を聞いたことがありますか?隠れ貧血とは、自分では気づきにくい貧血のことで、貧血予備軍の状態を指します。特に月経のある女性や、ダイエットや偏った食生活によって栄養摂取が十分でない方に起こりやすい症状です。そこで今回は、隠れ貧血とはどのような状態なのか、症状や原因・予防対策を内科医の荒牧竜太郎先生に教えていただきました。
荒牧竜太郎 内科・呼吸器内科医
1998年埼玉医科大学 卒業。1998年福岡大学病院 臨床研修。2000年福岡大学病院 呼吸器科入局。2012年荒牧内科開業。
隠れ貧血とは?
まずは「貧血」について知っておこう
貧血とは、血液中の赤血球に含まれる「ヘモグロビン」が不足している状態を指します。ヘモグロビンは、体内に貯蔵されている鉄分(血清鉄や貯蔵鉄)とタンパク質が結びついてつくられています。ヘモグロビンに酸素が結合することで、体に酸素を運んでいるため、ヘモグロビンが不足すると体内に酸素が十分に行き届かなくなってしまいます。
隠れ貧血とは、「貧血予備軍」のこと
今回ご紹介する「隠れ貧血」とは、自分では気がつきにくい貧血のこと。「潜在性鉄欠乏症」とも呼ばれており、わかりやすくいえば「貧血予備軍」というわけです。検査上は貧血として現れないものの、体に蓄えられている貯蔵鉄が不足する状態で、そのまま気が付かずに徐々に貧血が起こってくる病態を指します。
通常、血液中の鉄(血清鉄)が不足すると体に貯蔵されている貯蔵鉄から鉄を補いますが、貯蔵鉄が不足してしまっている場合は、血液中に補充できなくなり血液中の鉄も不足して貧血になることがあるのです。
隠れ貧血は健康診断ではわかりにくい
健康診断で貧血かどうかの判断基準とされるのは、ヘモグロビンの値です。貯蔵鉄が不足していても、ヘモグロビン値が異常でなければ貧血とは診断されません。ヘモグロビン値が正常範囲内でも体が鉄分不足になっている方は多く、「健康診断では異常はないけれど、実は隠れ貧血の状態にある」という方も多数いると考えられます。
隠れ貧血の原因
女性は月経があるため隠れ貧血になりやすい
月経のある女性は、毎月の月経時に赤血球やヘモグロビンを失っています。そのため、女性は男性に比べ鉄欠乏性の貧血になりやすいのです。特に月経量が多い女性は貧血になりやすくなります。
食事で十分な量の鉄分を摂れていない人が多い
食事が偏っていたり欠食したりなど、不摂生な食事をしていると鉄分不足の原因となります。また、鉄分はもともと食事からの吸収率が低い成分です。特に小松菜、ほうれん草、納豆などの植物性食品に含まれる鉄分の吸収率は2~5%ほどです。
隠れ貧血の症状
隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)の方には、以下のような症状が現れやすくなります。
- 肌荒れや皮膚トラブルが起きやすくなる
- 爪が割れたり薄くなったりする
- 舌や口内が荒れやすくなる
- イライラしやすくなる
- 食欲が低下する
- 集中力低下
- むずむず足
さらに、隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)が進んで貧血になると、以下のような症状が出やすくなります。
- ちょっと運動しただけで息切れする
- 全身のだるさ
- 疲れやすくなる
- めまいや耳鳴り
- 頭痛や肩こり
- 注意力の低下
- 気分の落ち込み
隠れ貧血の予防方法
バランスの良い食事を摂る
鉄分は、汗や尿・便・経血などによって少しずつ体内から失われていきます。3食しっかり栄養バランスの取れた食事をとって、鉄分不足にならないようにしましょう。また鉄分だけでなく、たんぱく質・ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸・銅・ビタミンCなども血液を構成する成分なので、それらもバランスよく摂取しましょう。
鉄分を含む食品を積極的に摂る
食品に含まれる鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、いずれもしっかり摂ることが大事です。ヘム鉄は、非ヘム鉄に比べて数倍腸管からの吸収が良いと言われています。ヘム鉄を含む赤みの肉や赤身の魚を積極的に食べましょう。また、非ヘム鉄を含む卵・豆類・緑黄色野菜も大切です。特に月経時や激しい運動をするときは、普段以上に鉄分をしっかりとることを意識してください。
鉄分の吸収をサポートする成分も摂る
パプリカやキウイなどに多く含まれるビタミンC、レモンなどの柑橘類や梅に多く含まれるクエン酸は、鉄分の吸収を促進させる成分です。鉄分を含む食品とこれらの食品をなるべく一緒に摂るようにしましょう。
また、非ヘム鉄(卵・豆類・緑黄色野菜に多く含まれる)は動物性たんぱくとの相性が良いといわれています。非ヘム鉄を含む食品と動物性たんぱく質を一緒に摂れるように献立を工夫してみましょう。たんぱく質や葉酸などは血液を作る上でも必要な栄養素なので、一緒に摂ることでさらに効率よく貧血予防ができます。
飲み物にも気を付けることで鉄分吸収のサポートを
緑茶やコーヒー、紅茶、ワインなどに含まれるタンニンは、鉄分の吸収を悪くすると言われています。鉄分の吸収を促す食品を一緒に摂っていても、タンニンがそれを邪魔してしまう可能性があるので注意しましょう。吸収効率を上げるためには、タンニンの少ない麦茶やほうじ茶などがおすすめです。飲み物にも気をつけて鉄分の吸収をサポートしてみましょう。
サプリメントや鉄剤も活用して
食事でしっかり鉄分を摂るのは大切ですが、食事から摂取する鉄分は体内で吸収されにくいという性質があります。吸収率の高いヘム鉄でさえ、含有量の15~25%しか体内に取り込めないと言われています。
不足しがちな分はサプリメントや鉄剤を活用するのもおすすめです。サプリメントや鉄剤を利用したい場合は、まずは病院で検査を受けて本当に血清鉄や貯蔵鉄が減少しているのかを確認しましょう。鉄分の過剰摂取はかえって健康を害することにも繋がりかねないからです。その上で必要であれば医師に処方してもらったり、サプリメントは薬局で相談したりするようにしましょう。
まとめ
月経のある女性やダイエット中で栄養摂取が十分でない方・栄養バランスが偏っている方が陥りやすい「隠れ貧血」。今回ご紹介したように、隠れ貧血は健康診断ではわからないことが多いので、気づかないうちに状態が悪化し、貧血に発展してしまうこともあります。「最近お肌や爪のトラブルが起きやすい」「イライラしやすい」「集中力が続かない」など、心身の不調を感じている方は、その原因が隠れ貧血にあるのかもしれません。まずは食事や生活習慣の見直しをして、それでも改善しない場合は病院で相談してみるようにしましょう。
荒牧竜太郎 内科・呼吸器内科医
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。