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音楽療法とは?音楽療法の目的・対象・効果を解説

皆さんは音楽療法という言葉を聞いたことはありますか?音楽療法とは、音楽のもつ特性を利用したプログラムを通して行われる療法のこと。認知症の方や発達障害の子どもなどを対象として実施されています。興味関心はあるけれど、具体的にどんなことをするのか知らないという方も多いかもしれません。そこで今回は、音楽療法はどんな症状に効果があるのか、なぜ効果があるのか、実際にどのように行うのかなどについて、音楽療法士の岩井佳子さんと鈴木暁子さんに教えていただきました。

岩井佳子

音楽療法士 ピアニスト

大阪音楽大学音楽学部卒業(ピアノ専攻) 聖徳大学大学院児童学研究科博士前期課程修了(児童学専攻)。梅花女子大学・大阪信愛学院大学非常勤講師 障がいのある成人・児童の施設および自身のカルチャ―スタジオで音楽療法を実施。

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音楽療法士 ピアニスト 岩井佳子

鈴木暁子

音楽療法士

同志社大学文学部文化学科卒業(心理学専攻)、東加古川病院音楽療法士。臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士。大阪保健医療大学・大阪リハビリテーション専門学校非常勤講師。

音楽療法士 鈴木暁子

音楽療法とは?

音楽療法とは、音楽の持つ特性を利用したプログラムを通して行う療法のこと。メンタルのケア・痛みの緩和・認知症の進行抑制・緩和ケアなどに取り入れられており、介護施設やデイサービス・教育現場などさまざまな場所で行われています。音楽療法を実施することができるのは、日本音楽療法学会や自治体が設ける認定制度などで資格を取得した音楽療法士です。全国に通算で約3575名が一般社団法人日本音楽療法学会の認定資格を取得しています。

音楽療法の効果とは?

音楽療法の効果とは?

音楽療法には、心身に与える効果(ストレス軽減・不安の緩和など)と人間関係に与える効果(コミュニケーションの促進など)があると言われています。具体的には以下のような効果が期待できます

心身のリラックス・ストレス軽減

皆さんの中にも、音楽を聴いて気持ちがリフレッシュしたり、嫌なことを忘れられたりした経験がある方は多いのではないでしょうか。音楽療法においても、音楽療法を実施する対象者の方がリラックスやストレス軽減を必要としている場合は、それを目標とするケースがあります。どんな音楽を用いるのかについては、対象者によって異なります。音楽療法を実施する前に面談などを通してご本人を理解し、最適な音楽を選びます。

痛みや不安の緩和

音楽療法では、痛みや不安の緩和効果が期待できます。とはいえ音楽には、医薬品のように体に化学的な反応を起こさせて痛みを取り去る効果があるわけではありません。

痛みや不安を抱えている方というのは、そのことばかりに意識がとらわれやすく、さらに痛みや不安が増幅していってしまうものです。そのような方が音楽を聴いたり音楽を演奏したり音楽に合わせて身体を動かしたりすることで、痛みや不安以外のことに気持ちが向くようになり、痛みや不安を抑えられるというわけです。

音楽療法の研究結果では、音楽に耳を傾けていると今まで痛みを10感じていたのが7〜8程度に軽減したという報告もあります。

体の運動機能の向上

音楽に合わせて体を動かすことで、運動機能の向上・維持に役立ちます。一人で黙って運動するのは難しくても、音楽に合わせることで楽しく自然に体を動かしやすくなるのです。

また、病気や怪我などで激しい運動ができない方・ご自身で積極的に体を動かせない方も、音楽にのって首や頭を軽く動かしたり、大きな声で歌ったりすることで運動の代わりになります。特に高齢の方の中には、若いころに社交ダンスを楽しんでいた方も多く、その当時の音楽を聴くことで自然に体が動くことがあります。

障害のある方への支援

発達障害や重度の知的障害・身体障害がある方に対しても、音楽療法が効果的に取り入れられています。発達障害のあるお子さんには、それぞれ苦手とする動作や嫌いな作業があるものです。しかし、障害の特性から対人関係の構築や言語的コミュニケーションが得意でないことが多いため、言葉かけによる指導だけではうまくいかないことも。

そのような苦手な動作・嫌いな作業に取り組む際に、好きな音楽を聴いたり好きな音楽に合わせたりしながら行うと、苦手なこと・嫌いなことが比較的容易に、楽しみながらクリアできるようになります。

認知症の周辺症状の緩和

近年の研究では、音楽療法の定期的な実施で認知症の周辺症状が緩和されることが分かっています。認知症の周辺症状とは、認知症の中核症状(認知機能の障害)に付随して起きる、さまざまな精神症状や行動障害のこと。攻撃的になる・抑うつ的になる・被害妄想・暴力的な行為・暴言などが含まれます。 

このような症状が、音楽に耳を傾けたり、歌を歌ったりして感情が穏やかになることによって緩和されるのです。普段は無表情だったり攻撃的だったりしても、音楽療法の時間とそれ以降しばらくの間はニコニコと穏やかに過ごす方が多いそうです。

コミュニケーション力の促進

音楽療法には、認知症の方や発達障害の子どものコミュニケーション力を促進する効果があります。

認知症の方の場合、症状が進むと、ご自身から何か語ることは少なくなっていきます。しかし、昔好きだった音楽や懐かしい心情や情景を思い起こされるような音楽を聴くことで、自分からその当時のことを語るようになる方が多いそうです。曲名を聞くだけではピンとこなくても、実際に曲が流れたり歌詞が聞こえたりすると、記憶が呼び覚まされるのだと考えられます。

発達障害の子どもの場合、コミュニケーションが苦手で、アイコンタクトも取りづらいことがよくあります。そういったお子さんに対しては、コミュニケーションの導入のような形で音楽療法が用いられています。楽器を一緒に演奏したり太鼓を叩きあったりしていると、もっと一緒に音楽を続けたいとお子さんの方から療法士さんを見てきたり、アイコンタクトをしてくることが多く見られるそうです。

このような視線のやりとりも一つの立派なコミュニケーションです。こういうことができるようになると、自ら言葉をかける回数も増えてきて、少しずつ言語によるコミュニケーションにつながっていきます。

音楽療法ってどうやるの?

音楽療法ってどうやるの?

音楽療法の種類

音楽療法は、大きく以下の2種類に分けることができます。

  • 受動的音楽療法(=音楽を聞く)
  • 能動的音楽療法(=楽器を鳴らす・歌う・音楽に合わせて体を動かす)

ただし、「音楽を聴くだけ」というのは現在の日本の音楽療法においてはあまり行われません。音楽を聴いて、それをきっかけとしてコミュニケーションを取るようにするのが一般的です。例えば、映画の主題歌を聴いて「あの女優さん素敵だったね」「あの街に行ったことがあるんだよ」などと話が膨らんだとき、「この映画はどなたとご覧になったのですか?」と尋ねて更に一緒に記憶を辿ることができます。

音楽療法に用いる音楽や楽器は対象者によってさまざま

音楽療法では対象者に合わせてさまざまな方法がとられるため、使用する音楽も楽器も多様です。高齢者や子どもの場合、一般的には扱いの難しい楽器はあまり使用しません。ミュージックベルやトーンチャイムのように、合図に合わせて順番に楽器を鳴らすものや太鼓など、簡単に取り組むことができるものをよく用いるそうです。また、対象者の方がかつて楽器の演奏をしていたのであれば、その楽器を使用することも。対象者がやりたい楽器がある場合は、それを選択することもあります。

グループまたは個人で行う

音楽療法は、グループ単位で行うケースと個人で行うケースがあります。グループの場合は、皆で歌ったり他の人と合わせながら楽器を演奏したり、順番に楽器を鳴らしたりします。高齢者施設や児童施設などでは、こういったグループ音楽療法が取り入れられていることが多くあります。

寝たきりの方やグループ活動への適応が難しい方の場合は、個人で受けることができます。音楽療法士が自宅やベッドサイドで楽器を演奏したり音楽をかけて聴かせたり、対象者と一緒に歌を歌ったりします。

まとめ

今回ご紹介したように、音楽療法には心身の健康促進・他者とのコミュニケーション促進など、さまざまな効果が認められています。音楽療法は現在、高齢者や発達障害の子どもへの実施が中心ですが、「音楽の力」そのものは若い世代にも通じます。

お二人によると、「自分で好きな曲を聞くだけでも、実は“軽いケア”になっています。介護予防や働いている世代のストレスケアにとっても音楽は有効な方法だと思います」とのこと。コロナ禍で働き方や生き方が大きく変化しメンタルヘルスケアの重要性がこれまで以上に高まっている今だからこそ、音楽の力を活用してみると良いのではないでしょうか。

なお、ご自身やご家族に音楽療法を利用してみたいと思う場合は、お近くのデイサービスや介護施設で音楽療法が受けられるか聞いてみると良いそうです。また、日本音楽療法学会の支部が各地にあるので、事務局に問い合わせれば、対応可能な場所・施設・療法士などを紹介してくれる場合もあるでしょう。興味がある方は、ぜひ調べてみてくださいね。

一般社団法人 日本音楽療法学会

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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