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回避性パーソナリティ障害の原因・治療法は?診断のポイントも解説

「回避性パーソナリティ障害」という言葉を聞いたことはありますか?回避性パーソナリティ障害とは、端的に言うと、拒絶や批判・傷つくこと・失敗・恥をかくことなどを恐れ、自分の可能性を活かせなくなっている状態を指します。パーソナリティ障害の第一人者である精神科医の岡田尊司先生によると、「回避性パーソナリティ障害はこの10年ほどで広く知られるようになり、悩んでいる人も増えている」とのこと。そこで今回は、岡田先生に回避性パーソナリティ障害の特徴や原因・治療法などについて詳しく教えていただきました。

岡田 尊司(おかだ たかし)

岡田クリニック 院長

心療内科クリニック「岡田クリニック」院長。1960年、香川県に生まれ。東京大学文学部哲学科に学ぶも、象牙の塔にこもることに疑問を抱き、医学を志す。ひきこもった時期や多くの迷いを経験する。京都大学医学部で学んだ後、京都大学医学部大学院精神医学教室などで研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。山形大学客員教授として、研究者の社会的スキルの改善やメンタルヘルスの問題にも取り組む。著作家や作家・小笠原慧としても活動している。

岡田クリニック 院長 岡田 尊司(おかだ たかし)

回避性パーソナリティ障害とは?

回避性パーソナリティ障害とは?

回避性パーソナリティ障害は、拒絶や批判・傷つくこと・失敗・恥をかくことなどを恐れ、自分の可能性を活かせないような状態を指します。

誰しも内気さや自信のなさ・孤立感といった感情は持っているものですが、回避性パーソナリティ障害はこの度合いが非常に強く、特に新たな人間関係や社会的関係が重要になる青年期〜成人期早期にかけて強くなる傾向があります。悪化すると仕事や日常生活に大きな支障をきたすため、症状によっては治療が必要です。

回避性パーソナリティ障害の特徴と診断のポイント

回避性パーソナリティ障害の特徴と診断のポイント

回避性パーソナリティ障害の診断

回避性パーソナリティ障害の特徴である「拒絶や批判・傷つくこと・失敗・恥をかくことなどを恐れ、自分の可能性を活かせないような状態」は、程度の差はあれど誰にでも当てはまる部分があるかと思います。では、回避性パーソナリティ障害と診断されるケースとは、どのようなケースなのでしょうか。

一つのポイントは、「生活への支障が顕著である」という点です。上記のような心理・行動傾向によって日常生活や仕事・恋愛などに支障をきたしている場合は「回避性パーソナリティ障害」と診断される可能性があります。

また、回避性パーソナリティ障害の傾向によって「本人がどれだけ困っているのか」という点も重要です。反対に、本人が困っていなくても周りが困っているケースもあります。「引きこもっている」「就職しようとしない」「相手はいるのにどうしても結婚しようとしない」などがそういったケースに当てはまると言えるでしょう。

このほか、回避性パーソナリティ障害の診断において重要なのは、「他人との親密な関係を避ける」傾向が強いことですが、そこでポイントとなるのは、親密な関係を本当は求めているのに、失敗して傷つくのが怖くて、そうした機会を避けているという点です。

診断については慎重な見極めが必要になります。例えば、恋人を作らない・結婚しないという人がいた場合、本人が自由なライフスタイルを選択しているのか、それとも本当はもっと積極的な人生を望んでいるが、拒絶や失敗が怖くてどうしても消極的になってしまい、チャンスや責任を避けてしまっているのか。回避性パーソナリティ障害の診断では、こういったポイントを本人と面談・カウンセリングをしながら見ていきます。

回避性パーソナリティ障害の原因

回避性パーソナリティ障害の原因

回避性パーソナリティ障害の原因は遺伝的要素と環境的要素の2つが半々くらいの割合で絡んでいると考えられています。

遺伝的要因

性格や気質は、遺伝する部分もあります。そのため、回避性パーソナリティ障害にも遺伝的要因が関連していると考えられています。しかし、活発だった子供があることをきっかけに回避性パーソナリティ障害になることもあり、環境的要因の関与も半分程度あります。

環境的要因

親や家庭・他人との関わりや社会的経験の影響もあると考えられています。典型的な例としては、親の過干渉やネグレクト・極端な批判や支配、学校でのいじめや教師からの強い叱責、人前で恥をかかせられた経験などです。また、ふたり兄弟の家庭で、兄は積極的なのに弟は引っ込み思案で「日陰的な存在」であり、それを周りからなんとなく指摘されながら成長……結果、弟が人との関わりに拒否反応を持つようになるといったケースも挙げられるでしょう。

このような、自分を否定される経験・自尊心を傷つけられる経験が一過性のものではなく、一つ一つの経験自体は軽くてもそれが持続的に行われているような場合に、回避性パーソナリティ障害が現れやすいと考えられています。

回避性パーソナリティ障害の治療

回避性パーソナリティ障害の治療

回避性パーソナリティ障害と診断された場合の治療は、心理社会的治療と薬物療法に分けられます。

心理社会的治療

心理社会的な治療では、カウンセリングが重要となります。回避性パーソナリティ障害の患者さんは、「自分の言うことはつまらない」「自分のことを言うのは恥ずかしい、意味がない」「話をしたところで興味を持ってもらえない」などと思い、自分のことを常に“脇役”と考える傾向があります。そこで、カウンセリングという患者さんにスポットライトが当たる場で自分について語ってもらい、“主人公”になってもらうのです。カウンセリングを受けるだけでも行動パターンを変えることができるというわけです。

しかし、カウンセリングだけでは十分とは言えません。回避性パーソナリティ障害の傾向は長年かけて作られた心理構造であり、患者さんは自分自身の感情に強く囚われています。それらを変えていくためには、さまざまな作業(ワーク)やトレーニングを取り入れる必要があります。例えば、自分の状況を自分なりに振り返っていく作業・自分のことを段階的に整理する作業を行い、「今の自分の心理傾向には、このきっかけが関係してたんだな」といったことを自覚してもらうのです。

また、恥ずかしいと感じる体験を積極的にやってもらうトレーニングもあります。回避性パーソナリティ障害の患者さんは、弱い部分や恥ずかしい部分を見せたくないという気構えを強く持っています。あえて恥ずかしい体験をしてもらうことで、「そういうこと言えたのはすごいことだよね」と自己肯定をさせ、「こういうことをしても大丈夫なんだ」「こういうことをしても受け入れてもらえるんだ」と、価値の逆転を起こしていきます。

薬物療法

このほか、必要に応じて薬物療法を取り入れることもあります。例えば、不安感が強い患者さんに対しては抗不安薬や抗うつ剤などの処方を行います。

まとめ

回避性パーソナリティ障害という言葉がこの10年で認知が広まったこともあり、「自分もそうなのではないか」と悩んで病院を訪れる方は増えているそうです。「本当はもっと積極的な人生を歩みたいのに、他人から批判や拒絶されたり、失敗して恥をかいたりするのが怖くて行動できない」……そんな悩みを持っている方は、一度精神科などに相談してみると解決への糸口が見えてくるかもしれません。

岡田クリニック院長 岡田 尊司(おかだ たかし)

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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