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部下を追いつめるダブルバインドとは?対処方法・予防方法を解説!

皆さんにはこんな経験はないでしょうか?
上司に「わからないことがあったらすぐに聞いて」と言われたので質問をしたら「それくらい自分で考えて」と言われ、どうしていいか混乱してしまった……このような2つの相反する命令や指示をすることを「ダブルバインド(二重拘束)」と言い、精神的に相手を追いつめます。
今回は、会社や社会生活で起こりうるダブルバインドについて、具体的な例やダブルバインドを受けた際の対処方法、自分がダブルバインドの加害者にならないための予防方法について解説します。

大野萌子

一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

ダブルバインドとは?

ダブルバインドは、「Double(二重)」と「Bind(束縛・拘束)」から成る造語。日本語にすると「二重拘束」を意味します。2つの矛盾したメッセージを受けた人が、どうしていいかわからず精神的に束縛された状態に陥ることを指します

ダブルバインドをする側は、自覚も悪気もないケースが珍しくありません。しかし、言われた方は「どっちが本音なの?」「どうすればいいの?」と困惑し、メンタル不調の原因になることも。特に、相手が目上の人だとそれ以上聞き返したり意見を言ったりすることもできず、状況が悪化してしまいます。

ダブルバインドの具体例

上司 :「わからないことがあったらすぐに聞いて」
部下 :質問をする
上司 :「それくらい自分で考えてくれよ!」

「わからないことがあったらすぐに聞いて」という第一のメッセージと、実際に質問をしたら「自分で考えろ」という第二のメッセージは矛盾していますね。聞いても聞かなくても怒られる、身動きの取れない状況が発生しています。


上司: 「どうしてこんなミスをしたのか、怒らないから理由を説明して」
部下: 説明する
上司: 「言い訳をするな」

理由を説明しろと言われたから説明したのに、さらに怒られてしまっています。これも、受け手を混乱させるダブルバインドの一例です。

リモートワークにより、ダブルバインドが起こりやすくなっている

リモートワークでは、よりダブルバインドが起こりやすくなります。対面での会話ではなくチャットなどテキストでのやり取りが多いため、内容がちゃんと伝わらなかったり捉え方の違いによってダブルバインドと感じたりすることがあるのです。

また、一緒に机を並べて仕事していればプロジェクトの進行や経過がわかるため、途中で指示が変わっても理解しやすいのですが、リモートワークでは途中経過を知らされず結果だけを見ることが増えます。指示を出す側にとっては物事の経過があった上での変更だったとしても、受け取る側からすると「最初に言っていたことと違う」と、ダブルバインドを感じやすくなることも。

また、経過がわからないと、指示も必要以上に強く、一方的に伝わってしまいます。一言だけの指示がきて、「急に言われた」「なんか怒られている?」と感じることも多いようです。

ダブルバインドはなぜ怖い?部下に与える影響は?

ダブルバインドは、受け手に強い精神的なストレスを与えます。長期的にダブルバインドの状態が続くと、「また怒られるのではないか」という恐れから、「相手に怒られないようにすること」に注力するようになっていきます。「良い結果を出すこと」「良いパフォーマンスをすること」が二の次になってしまうのです。

また、自分の判断や行動がすべて間違っているのではないかと考えるようになり、自信も喪失していきます。必要以上に相手の顔色を伺うようになるので、本来の自分らしさや主体性も失われてしまいます。さらに、何を信じていいかわからなくなるため、信頼関係も構築しにくくなってしまいます。

ダブルバインドの上司……対策方法・防衛策は?

上司などのダブルバインドで悩んでいる方には、まずは以下の防衛策・対策方法を提案します。

指示を受けたときに内容を復唱する

何か指示を受けた際に、内容を復唱するのは一つの有効な方法です。「わからないことがあったらすぐに聞いて」と言われた場合であれば、「では、わからないことがあったらすぐに聞きます」など。

チャットでのやり取りの場合も、指示に対して「はい」「分かりました」だけではなく、「〜〜ですね」「〜〜と承知しました」と、内容を繰り返しましょう互いに明確に意思疎通しておくと、誤認を防げます。

会話の前に一言前置きをおく

会話の際に、「先日何でも聞いて良いとおっしゃっていたので、お聞きしますが……」などと前置きを置くのも一つの手。いつもダブルバインドをする相手に対しては、このように先に予防線を張ってから会話を始めると良いでしょう。ただし、言い方や口調をマイルドにして、嫌味と受け取られないようにしましょう。

自分の返答・態度も振り返ってみましょう

相手のメッセージに対して適切に答えられているか、突っ込まれる隙を与えていないか、自分の返答を振り返ってみることも大事です。事例でもご紹介したこちらの例で見てみましょう。

上司: 「どうしてこんなミスをしたのか、怒らないから理由を説明して」
部下: 説明する
上司: 「言い訳をするな」

このときに、理由を説明しているようで説明できておらず、ただの言い訳に聞こえてしまっていることも考えられます。例えば「こうするつもりはなかったのですが……」「こうなることは想定外だったので……」といった、自分の気持ちを含む発言はNG。気持ちが入ってしまうと言い訳と捉えられやすいので、「こういう状況下にありました」などと、事実のみを報告するようにしましょう。事実を気持ちと切り分けて伝えることによって、言い訳ではなく説明とみなされやすくなります。特に仕事の場合は心掛けたい大切なポイントです。

社内外の相談窓口を頼るのも選択肢の一つ

2022年4月1日から、パワハラ防止法が全面施行されました。これによって「パワハラ対策」がすべての事業所で義務化され、安全配慮義務に基づいてパワハラの予防責任が追求されるようになりました。その流れでパワハラの相談窓口も増えてきています。ダブルバインドで悩んでいる場合は、社内や社外の窓口に相談するのも選択肢の一つです。

自分がダブルバインドをする側にならないために

気づかぬうちにダブルバインドをしていないか、振り返ってみましょう

相手にストレスを与えるダブルバインドですが、している側は自分では気づいていないことも。
2022年4月1日に全面施行された「パワハラ防止法」により、パワハラ対策が全ての事業所で義務化され、ダブルバインドはハラスメントと呼ばれかねない事項になりました。自分がダブルバインドをする側になってしまわないよう、自分自身の言動を振り返ってみることは大事です。

プロセスや経緯を伝えると、すれ違いが起きにくくなる

「相反するメッセージを発すること」自体に問題はありません。仕事では特に、状況が変わって指示が変更になることは何ら不思議ではないからです。しかし、その状況説明を飛ばして変更した指示だけをポンと伝えると、「前と言っていることが違う」「結局どっちが正しいの?」と困惑させてしまいます。これを防ぐには、指示を変えるときはプロセスや経緯を詳しく伝え、なぜ変わったのかをフォローすると良いでしょう。

曖昧な指示はNG!具体的で明確な指示を

ダブルバインドは、一つ目の指示が正しく伝わっていない場合にも起こりやすくなります。

例)
上司:「この資料もう少しどうにかならないの?」
部下:どこを直せばいいのかよくわからないが、自分なりに修正し再提出
上司:「そこを直せとは言ってない」「そういうことじゃない」

このような曖昧な指示では、グラフが見にくいのか・レイアウトが悪いのか・文章が良くないのかわかりません。受け手側は指示に応えようとしますが、「そういうことじゃない」と一蹴される……これでは精神的なストレスを与え、時間も無駄に浪費するだけです。ハラスメントになりかねません。

相手に自分の意向を伝えずに曖昧な指示を出すのはNG。どのページのどの部分にどのような修正をしてほしいのか自分のイメージを整理して、具体的な指示を出すように意識しましょう。

まとめ

相手に大きな精神的ストレスを与え、仕事のパフォーマンスや作業効率も低下させてしまうダブルバインド。上司によるダブルバインドに悩んでいる方は、今回ご紹介した防衛策を試してみてください。また、している本人も無自覚であることが、ダブルバインドの厄介で怖いところでもあります。ご自身がする側になってしまっていないかについても、今一度日頃の言動を振り返り、気をつけるようにしてくださいね。

監修

一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構 代表理事  大野萌子

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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