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【医学博士監修】低負荷トレーニングでも効果あり。筋トレで出る“ホルモン”の健康効果と初心者におすすめトレーニング

現代人の多くが抱える問題、慢性的な運動不足。

その解消のためにぜひ取り入れたいのが筋トレ…なのですが、「筋トレか……」と反射的に思う方は多いと思います。筋トレはある程度ハードにやらないと意味がないと思い込んでいる方もいるのではないでしょうか。

しかし、スポーツ医学に詳しい医学博士の木村先生によると、大切なのは「筋肉量を増やすこと」より「筋肉に刺激を与えること」だそう。筋肉に刺激を与えることで“マイオカイン”というホルモンが分泌され、それがダイエットはもちろん、さまざまな病気の抑制や認知症の予防改善・健康寿命の延長に役立つのです。

そこで今回は、筋トレの知られざる健康効果や筋トレの効果的なやり方・具体的なメニューをご紹介します。

木村 穣

関西医科大学 健康科学科教授 健康科学センター長

関西医科大学健康科学科教授、同附属病院健康科学センター長。医学博士、循環器、肥満、スポーツ医学、抗加齢医学専門医。生活習慣病や心臓病に対して運動、スポーツを病院だけではなくフィットネスクラブ、家庭など遠隔医療ネットワークとして構築。

※トレーニングプログラム監修
関西医科大学 附属病院 健康科学センター チーフトレーナー 宮内 拓史
健康運動指導士、心臓リハビリテーション指導士。主に心臓リハビリや肥満・糖尿病など生活習慣病に対する運動療法を担当。安全で効果的な運動療法を、楽しく続けられるようにサポートしている。

近年発見された筋トレのすごい効果とは?

筋トレをする様子

近年の研究で、筋トレの健康効果が少しずつ明らかになってきました。
その鍵となるのが、筋肉を刺激することによって分泌される“マイオカイン”というホルモンです。

筋肉から分泌されるホルモン“マイオカイン”の健康効果

マイオカインは、身体にさまざまな健康効果をもたらすいわば万能ホルモン。マイオカインが分泌されると、以下のような健康効果が得られると報告されています。

肥満の改善

マイオカインが分泌されることによって脂肪が効率的に熱エネルギーに変換されます。そのため、痩せやすい体作り・太りにくい体づくりが可能になり、肥満の改善が期待できます。

生活習慣病の予防改善

マイオカインには「血糖値を下げる・血圧を下げる・血管を柔らかくする」などの効果があります。そのため、マイオカインの分泌を促進することで、糖尿病・高血圧・動脈硬化といった生活習慣病の予防改善に役立ちます。

記憶力の向上、認知症の予防改善

マイオカインの分泌によって、脳機能や認知機能の改善にも効果があると分かっています。そのため、筋トレは認知症の予防改善対策として注目を集めており、最近では多くの高齢者施設で取り入れられています。また、マイオカインの分泌によって脳機能が改善するため、学習や記憶力の向上効果も期待できます。

マイオカインは、筋肉を刺激することで分泌される!

マイオカインの分泌を促すためには、筋トレによって筋肉に刺激を与えることが重要です。「ハードなトレーニングが必要なのでは?」と思っている方は多いかもしれませんが、簡単なトレーニングでも筋肉に刺激を与えることでマイオカインは分泌されます。

そこで次項では、筋トレ初心者の方や「ハードな筋トレはちょっと……」という方でも取り組みやすく、なおかつ筋肉をしっかり刺激できるトレーニングメニューをご紹介します。

辛くないのに筋肉をしっかり動かせる!おうちでできる筋トレメニュー

自宅で筋トレ後に爽快な気持ちになる様子

ではさっそく、おうちでできるトレーニングを3つご紹介します。

(1) 全身の筋肉を動かせる!「ポインター」

おなかや肩・背中・足を総合的に鍛えられるトレーニングです。このトレーニングだけで全身の筋肉に刺激を与えられるため、「複数のトレーニングを行うのが億劫……」という方に特におすすめです。

1.四つ足の姿勢を取ります。両手は肩幅に、両足は腰幅に。

全身の筋肉を動かせる!「ポインター」1.四つ足の姿勢を取ります。両手は肩幅に、両足は腰幅に。

2.左手を前に、右足を後ろに引き上げます。

2.左手を前に、右足を後ろに引き上げます。

3.1の姿勢に戻します。「1.2.3.4」まで数えながら手足を引き上げ、続けて「5.6.7.8」と数えながら戻しましょう。

3.1の姿勢に戻します。「1.2.3.4」まで数えながら手足を引き上げ、続けて「5.6.7.8」と数えながら戻しましょう。

4.今度は、右手を前に、左足を後ろに引き上げます。

4.今度は、右手を前に、左足を後ろに引き上げます。

5.また1の姿勢に戻ります。

5.また1の姿勢に戻ります。

この動きを左右5回ずつ行います。

注意点

手足を引き上げるときは、指先から足先まで体が一直線になるように意識しましょう。上体が持ち上がったり反れたりしてしまわないよう注意してください。

【NG例】

指先から足先まで体が一直線になっていないNG例

(2) 普通の腹筋より楽ちん!おなかと脇腹を鍛える「パタパタ」

普通の腹筋をすると腰が痛くなる方や、負荷が強すぎると感じる方にはぴったりのトレーニングです。無理なくおなかと脇腹の筋肉を鍛えられます。

腹筋を鍛えるパタパタ運動

1.椅子に浅めに腰掛け、背もたれに背中がつかない程度に体を倒しましょう。軽くアゴを引き、おなかに力を入れ、両手を胸の高さに持ち上げます。

1.椅子に浅めに腰掛け、背もたれに背中がつかない程度に体を倒しましょう。軽くアゴを引き、おなかに力を入れ、両手を胸の高さに持ち上げます。

2.両手を下方向へ振り下ろしましょう。振り下ろしたら、両手を元の位置に戻します。

2.両手を下方向へ振り下ろしましょう。振り下ろしたら、両手を元の位置に戻します。

この動きを10回程度繰り返します。手をパタパタするようなイメージで行いましょう。

脇腹を鍛えるパタパタ

1.同じように椅子に腰掛け、おなかに力を入れたら、両手を斜め前に出します。

1.椅子に腰掛け、おなかに力を入れたら、両手を斜め前に出します。

2.両手を下方向に振り下ろします。

2.両手を下方向に振り下ろします。

3.反対側も同じように行います。

3.反対側も同じように行います。 両手を下方向に

この動きを左右10回ずつ繰り返しましょう。慣れてきたら正面・左・右連続で行うとより効果的です。

注意点

・手をパタパタ上げ下げするときは、腕全体を使って上げ下げしましょう。
・画像のように腰を反って座らないように注意しましょう。

【NG例】

腰が反れているNG例

(3) 足の大きな筋肉に刺激を与える「スクワット」

スクワットは定番のトレーニングですが、太ももやおしりなど下半身の大きな筋肉を効率よく刺激することができます。

1.両足を肩幅に開いて立ち、両手は骨盤に。

 1.両足を肩幅に開いて立ち、両手は骨盤に。

2.「1.2.3.4」まで数えながら膝を曲げます。椅子に腰かけるようにおしりを後ろに引くイメージで行いましょう。

2.「1.2.3.4」まで数えながら膝を曲げます。椅子に腰かけるようにおしりを後ろに引くイメージで行いましょう。

3.「5.6.7.8」で1の姿勢に戻ります。

3.「5.6.7.8」で1の姿勢に戻ります。

この動きを10回繰り返しましょう。

注意点

・膝を曲げるとき、背中が曲がらないように気をつけましょう。

【NG例】

膝を曲げるとき背中が曲がっているNG例

・膝を曲げるときに、膝が爪先よりも前に出ないようにしてください。

【NG例】

膝を曲げるときに膝が爪先よりも前に出ているNG例

毎日のルーティンに3つのトレーニングを組み込み、継続的に行えるようにしましょう。なお、「今日はどれかひとつだけにしたい!」というときは、全身の筋肉に刺激を与えられる「ポインター」がおすすめです。

呼吸を止めない!力を入れる動作のときに息を吐いて!

筋トレをするとき、つい呼吸が止まってしまいがちですが、呼吸をしっかり行うように意識しましょう。ポイントは、力を入れる動作のときに息を吐くことです。

筋トレを継続させるためには、「記録」をとろう

筋トレは毎日コツコツ続けるのが大事。しかし、モチベーションが続かずだんだんやらなくなっていってしまう方は多いかと思います。筋トレを継続させる鍵は、記録をとること。体重や体脂肪率のほか、筋肉量が測れる体重計を利用して日々の数値を記録すると、変化が実感でき続けやすくなるでしょう。

筋トレ+タンパク質の摂取を習慣化しよう

筋トレ時にプロテインを飲む様子

トレーニングと合わせて必ず実施しなければならないのがタンパク質の摂取です。筋肉への栄養補給を怠ると、トレーニングを継続してもかえって筋量は減少してしまいます。筋量を増加させ、マイオカインの分泌をさらに促進させるためにも、意識的にタンパク質を摂取しましょう。

筋肉づくりに必要不可欠!タンパク質をしっかり摂って!

タンパク質はいわば筋肉の材料です、以下の基準を目安に摂取してみましょう。

1日の摂取目安量

毎日筋トレや運動などで体をしっかり動かしている方や筋肉をつけたい方の場合、1日に必要なタンパク質の量は、体重1kgあたり1g例えば体重50kgの方なら50gは取りたいところです。 なお、50gのタンパク質というのは、意識しないとなかなか摂取しきれない量です。タンパク質が豊富に含まれる鶏肉や豚肉・大豆製品などを積極的に食べるほか、プロテインやサプリメントを利用するのも良いでしょう。

タンパク質を摂るタイミング

基本的にはいつでもOK。1日の摂取量を満たすために、毎日の食事に意識的にタンパク質が豊富な食材を取り入れましょう。筋トレや運動をする方は、筋トレ後にプロテインを飲んだりタンパク質の多い食事をとったりするのもおすすめ。ダメージを受けた筋肉を回復させるのに役立ちます。

タンパク質とあわせてビタミンもしっかり摂ろう!

このほか、タンパク質の代謝をサポートし、筋肉をつくりやすくするためにはビタミンも必要不可欠。野菜や果物をしっかり食べたりサプリメントを利用したりして積極的に摂取しましょう。

筋トレは、「サルコペニア」の予防にもつながる

筋トレをして肥満や生活習慣病・認知症の予防をする女性

ここまでご紹介したように、筋トレによるマイオカインの分泌は、肥満や生活習慣病・認知症の予防改善につながります。さらに、筋トレで筋肉をしっかり動かすことで、近年問題になっている「サルコペニア」の予防にも効果が期待できます。

サルコペニアとは

2000年代前半、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)の人が増加し、国をあげて対策を進めるほどの社会問題となったのは多くの人が知るところでしょう。現在、新たな問題として浮上しているのが「サルコペニア」です。サルコペニアとは、加齢によって筋肉量が減少し、筋力が大幅に低下した状態のこと。その結果、転倒や骨折などのリスクが大きくなります。また、筋肉が減少することでマイオカインの分泌が減り、生活習慣病、動脈硬化、認知症などのリスクも大きくなる恐れもあります。

将来的なサルコペニア予防にも筋トレが重要

サルコペニアの最も大きな要因は「加齢」ですが、現代の生活スタイルもサルコペニア増加の要因と言えるでしょう。体を動かす機会が少なく、筋肉量が減少したり筋力が衰えたりしている方は少なくないはずです。
日常的に筋トレ+栄養補給を行うことで、筋肉量の減少・筋力の低下を克服、あるいは遅らせることは十分可能です。

まとめ

筋肉を刺激することで分泌されるマイオカインには、ダイエット効果・生活習慣病の予防改善・脳機能の向上や認知症の予防改善など、さまざまな効果があります。

「筋トレ」というと言葉だけで逃げ腰になってしまう方も、今回ご紹介した簡単なトレーニングメニューであればストレスなく継続できるのではないでしょうか。より長く健康でいられるように、日常の中で筋トレに取り組んでみましょう。

関西医科大学 健康科学科教授 健康科学センター長 木村 穣

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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