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会話や雑談が苦手、友だちができない、こだわりが強い…。アスペルガー症候群の特徴・治療法

メンタルヘルスや発達障害への関心が高まっている近年、耳にすることが多くなった「アスペルガー症候群」。
どのような症状なのか気になっている方は多いのではないでしょうか。そこで今回は、アスペルガー症候群の特徴や原因・治療方法などについて、パーソナリティ障害の第一人者で、発達障害や愛着障害に詳しい精神科医の岡田尊司先生に詳しく教えていただきました。

岡田 尊司(おかだ たかし)

岡田クリニック 院長

心療内科クリニック「岡田クリニック」院長。1960年、香川県に生まれ。東京大学文学部哲学科に学ぶも、象牙の塔にこもることに疑問を抱き、医学を志す。ひきこもった時期や多くの迷いを経験する。京都大学医学部で学んだ後、京都大学医学部大学院精神医学教室などで研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。山形大学客員教授として、研究者の社会的スキルの改善やメンタルヘルスの問題にも取り組む。著作家や作家・小笠原慧としても活動している。

岡田クリニック 院長 岡田 尊司(おかだ たかし)

※なお、アスペルガー症候群は、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』より「自閉スペクトラム症」に含まれますが、この記事では、より身近に多い、知能や言語能力の低下のないタイプである「アスペルガー症候群」を取り上げます。

アスペルガー症候群(=自閉スペクトラム症)とは

アスペルガー症候群(=自閉スペクトラム症)とは

アスペルガー症候群は、発達障害の一つです。脳機能や言語能力は正常であるものの、他人と適切なコミュニケーションを取るのが苦手で、対人関係を築くことが難しいという特徴があります。特定の物事への強い執着・没頭、反復的な行動や同一性への強いこだわりがあるため、柔軟な対応をとるのが難しいという面もあります。

アスペルガー症候群は、かつて遺伝要因の強い、脳の障害と考えられていました。しかし、アスペルガー症候群にだけ特徴的な脳の器質的異常(体の組織などに明らかな病理所見が見られること)や特異的な遺伝子レベルの異常は、ほとんど確認できず、機能的なレベルの問題が大きいと考えられています。

アスペルガー症候群の一般的な特徴

アスペルガー症候群の一般的な特徴

アスペルガー症候群の方には、以下のような特徴が見られます。

社会的コミュニケーションや対人関係における特徴

  • 相手の気持ちを読み取るのが苦手
  • 空気を読むのが苦手
  • 曖昧な指示から意図を理解するのが苦手
  • 視線や表情・身振りなど、非言語コミュニケーションの理解が苦手
  • 他人に共感しにくいことが多い
  • 他人への興味が薄く、一人で過ごすことを好む

反復的な行動、同一性への強いこだわり

  • 決まった手順や行動・ルールにこだわる
  • 場面に合わせた臨機応変な対応が苦手
  • 急な予定変更や予定外のことが起きるとパニックになってしまう
  • 特定の物事に強い関心を持ち、没頭する
  • 狭い領域への強い関心・こだわりがある
  • 興味関心の持てないものには取り組みにくい
  • 感覚過敏または感覚鈍感(周りの音に対して過敏など)

アスペルガー症候群の診断基準

こういった言動・思考の傾向は、程度の差はあれ当てはまる方も多いかと思います。では、どういったケースにおいてアスペルガー症候群と診断されるのでしょうか。
まず一つ重要なのは、「誰にでも当てはまるようなものとはレベルが違う」ということです。アスペルガー症候群においては、上記の両方の特徴がみられるだけでなく、社会的コミュニケーションの障害については、以下の3つが揃っていることが診断には必要となります。

1.対人相互性の欠如
  • 親しい人間関係を持とうとせず、近くに人がいても話しかけようとはしない
  • 気持ちを共有できない、例えば、みんな笑っているのに一人だけ笑っていない
  • 相互的な人間関係が構築できない、例えば、長い付き合いの友達がいない


2.非言語的コミュニケーションが苦手
  • 目が合わない
  • 感情を顔に出すのが苦手で表情が乏しい
  • 表情や態度で相手の気持ちを察することができない


3.社会的スキルの乏しさ
  • 場にふさわしい行動や言葉遣い、雑談が苦手
  • 電話のやりとりやメールのやりとりで、常識的な対応や配慮ができない
  • 悪気なく、相手を怒らせてしまうことがある

したがって、アスペルガー症候群と診断される人は数%ですが、障害レベルでなくても、その傾向が認められ、社会生活に支障が出ている人の割合は、それよりずっと高くなります。

アスペルガー症候群の原因

アスペルガー症候群の原因

アスペルガー症候群は、かつては遺伝要因が非常に高いとされていました。しかし、近年の研究では遺伝要因が関与する割合は下がってきて、4割程度とする報告もあります。近代化した生活環境や養育環境の影響など、環境要因が意外に大きいことがわかってきています。

実際には、遺伝要因と環境要因が混じり合っていて、どちらか一方が原因という単純な問題ではないのです。しかし、環境要因がある程度大きいということは、予防したり、治療したりできる可能性が、それだけ大きいわけで、希望が広がっています。

アスペルガー症候群の治療

アスペルガー症候群の治療

子どもであれば早期治療で大幅な改善が可能

かつてはアスペルガー症候群そのものの治療法はないとされていました。しかし近年では、環境や関わりによって治療することが可能になってきています。特に、患者さんが子どもであれば、適切な療育によって改善でき、大幅に改善するケースもあります。早い段階で診断を受け、療育(発達トレーニング)を受けることが非常に重要です。

大人でも心理社会的治療、薬物治療が有効なケースも

大人になってから診断された場合は、根本的な治療は難しくはなります。ですが、改善が不可能というわけではありません。心理社会的な治療や薬物療法が効果を発揮し、適応や生活しやすさがぐんと改善することも多いです。

心理社会的治療

心理社会的治療として行われるのは、カウンセリングやソーシャル・スキルズ・トレーニングです。アスペルガー症候群の人は相手の心を読み取るのが苦手なので、相手の気持ちに関心を向けて読み取るトレーニングをして、「他の人はこういう風に考えて、こういう風に反応しているんだ」と学んでいくのです。こういった治療は「メンタライゼーション・トレーニング」と呼ばれています。

また、アスペルガー症候群の患者さんは、聴覚などの感覚が過敏な傾向があります。「SSP」といって、特殊な加工をした音楽を聞かせることで聴覚過敏を改善する治療もあります。


薬物療法

上述したように、アスペルガー症候群の患者さんは感覚過敏の傾向があります。また、不安感が強い人が多いという傾向も。そのため、非常に疲れやすく、他の人と同じことをしても何倍も疲労困憊してしまうのです。さらに、頭痛や肩こり・過緊張から来る下痢や腹痛・めまいや立ちくらみといった身体症状も出やすくなります。こういった状況を改善するためには、すでにご紹介した「SSP」の他、薬物で過敏な部分を和らげる治療が行われます。過敏さが改善すると、コミュニケーションが取りやすくなったり、日常生活で感じるストレスが大きく低下したりします。

病院を受診するメリット

病院で診断を受けることにより、自分の特性やこれまで自分が悩んできたこと・困ってきたことの原因や改善法を知ることができ、対処しやすくなります。障害のレベルが強い場合は、診断を受けて精神障害者保健福祉手帳を取得することで、特性に配慮した就労の道が開け、福祉サービス利用などの選択肢も拡がりサポートが受けやすくなります。

アスペルガー症候群との付き合い方のポイント

アスペルガー症候群との付き合い方のポイント

アスペルガー症候群の方は、その特性ゆえにさまざまな場面で生きづらさを感じたり、トラブルや困りごとを抱えたりしてしまいがちです。自分の特性にあった環境を選ぶと、これまで感じていた困難やトラブルを軽減することにつながります。

自分の特性をよく理解することが大切

まずは自分の特性をよく理解することが大切です。今までの人生を振り返ってみて、「うまくいった時期・うまくいったこと」、反対に「うまくいかなかった時期・うまくいかなかったこと」を整理すると、自分にはどんな環境が合っているのかが見えやすくなります。また、専門的な発達検査を受けると、能力のどの部分が強く、どの部分が弱いかが客観的にわかるので、自分に合った仕事や環境を選択しやすくなります。

特性にあった仕事・環境を見つけると生きやすさにつながる

「決められた手順にこだわる」「急な予定変更や予定外のことが起きるとパニックになってしまう」といった特性がある人の場合、柔軟な対応が求められる仕事や職場ではトラブルや困りごとが頻繁に発生すると予想されます。

一方、決まったルーティンで仕事をできる職場・マニュアルがある仕事・手順が決められている仕事の場合、特性にマッチしているため仕事に取り組みやすくなる可能性が上がります。一人でコツコツと作業するのが得意な人も多いので、そういった環境であれば自分の強みを発揮しやすくなるでしょう。

また、アスペルガー症候群の患者さんはガヤガヤしたところが苦手な人が多いので、静かで落ち着いた環境の職場を選ぶのも良いでしょう。例えばですが、植物を扱う仕事などは、静かでストレスが少なく取り組める仕事と言えるかもしれません。今まで試したことがない分野・仕事・働き方を試してみるのも一つの方法です。

支援センターを頼るのも選択肢の一つ

アスペルガー症候群の症状で仕事や生活に支障があり困っているのであれば、支援機関を利用するのも一つの選択肢です。地域の発達障害支援センターや障害者就業・生活支援センターなどがあります。

まとめ

かつては有効な治療法がないとされていたアスペルガー症候群ですが、近年ではさまざまなトレーニング法や治療法が確立されつつあり、大幅な改善も夢ではなくなってきています。特に子どもの場合は、早期発見と療育で大きな効果がみられることも。大人の場合でも、カウンセリングやトレーニング・環境調整によって症状そのものが改善したり、対処スキルが身につくことで頻発していたトラブルや困りごとが減ったりします。ご自身やご家族・周りの方にアスペルガー症候群の疑いがあるのであれば、一度病院や支援機関で、相談や検査を受けてみられても良いかもしれません。

岡田クリニック院長 岡田 尊司(おかだ たかし)

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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