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20〜30代女性に増加する「非定型うつ病」とは?症状と治し方を解説

「五月病」という言葉があるように、春は精神的に不安定になりやすい時期。最近では、20〜30代の女性を中心に「非定型うつ病」と呼ばれる疾患も増えています。

非定型うつ病は従来のうつ病とは異なる特徴を持ち、外来で、成人期早期の比較的軽症のうつ病が、診断されにくかった時代を反映して〔非定型〕と呼ばれてきました。そこで今回は、非定型うつ病の症状や原因・治療方法などについて、精神科医の久保田拓志先生に教えていただきました。

久保田拓志

淀川キリスト教病院 精神神経科部長

1989年滋賀医科大学医学部卒業。1991年より当院精神神経科に所属。日本心身医学会心身医療「精神科」専門医。日本精神神経学会精神科専門医・指導医。日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士・公認心理師。

非定型うつ病の症状

非定型うつ病の症状

●非定型うつ病は、一般的なうつ病とどう違う?

多くの人が「うつ病」と聞いたときにイメージするのは、「気分の落ち込みが長期間続く」「憂うつで何もする気になれない」などといった症状ではないでしょうか。こういった状態を専門的には「メランコリー型うつ病」と呼び、
主な症状には、気分の落ち込み・食欲不振・不眠・集中力の低下などが挙げられます。対して非定型うつ病は、一般的なうつ病に当てはまらない症状が多く見られます。最も特徴的なのは、「気分の落ち込みはあるものの、楽しいことや好きなことに対しては気分が良くなる」という点です。

●非定型うつ病の症状

非定型うつ病では、以下のような症状が見られます。

・気分の落ち込みはあるが、好きなことは楽しめる

気分の落ち込みはあるものの、嬉しいことや楽しいことがあると気分が晴れる・好きなことは楽しめる……これが非定型うつ病の最大の特徴です。例えば、仕事で上司に怒られると、ひどく落ち込んで翌日から欠勤してしまうほどの状態になるものの、プライベートの外出や趣味など好きなことに対しては気分が明るくなり、いつも通り楽しめます。

【一般的なうつ病の場合】

何に対しても憂うつで気分が明るくなったり意欲的になったりすることはほとんどありません。感情そのものが抑えられてしまいます。

・過眠

寝過ぎてしまう、十分に睡眠を取っていても昼間に眠気を感じる、熟睡感がない、浅い睡眠がだらだら続く……これらも非定型うつ病の特徴のひとつです。

【一般的なうつ病の場合】

不眠傾向が強く、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒などが見られます。

・過食や体重の増加

非定型うつ病では、過食やそれにともなう体重の増加が見られます。単に食欲が旺盛になるわけではなく、食べることで憂さを晴らす・食べることで精神的な辛さを紛らわすといった傾向があります。

【一般的なうつ病の場合】

食欲不振の傾向が顕著です。

・夕方から夜にかけて気分が不安定になりやすい

非定型うつ病の方は1日が終わる時間(夕方から夜にかけて)に気持ちが不安定になる傾向があります。

【一般的なうつ病の場合】

朝起きたときや午前中に気分の落ち込みが起きやすいと言えます。

・手足が鉛のように重たく感じる

非定型うつ病では、手足が鉛のように重たく感じることがあります。症状がひどい場合は動かすのが困難になることも。

【一般的なうつ病の場合】

全身に倦怠感やだるさが生じる傾向があります。

・イライラや落ち着かなさから集中力がなくなる 

非定型うつ病では、他人の言動などの外的刺激によって感情が不安定になり、そのせいでイライラしたり落ち着かなくなったりして集中力が低下しやすくなります。

【一般的なうつ病の場合】

集中力の低下が見られますが、その理由は感情が不安定になるからではなく、ボーッとしたり頭の回転が鈍ったりするからだと考えられます。

非定型うつ病が発症する原因は?

非定型うつ病が発症する原因は?

非定型うつ病の原因としては以下の3つが挙げられます。

●性格傾向

非定型うつ病には、性格傾向が大きく影響していると考えられています。以下のような性格の方は、非定型うつ病を発症しやすいとされています。

  • 物事を否定的に捉えやすい
  • 不安を感じやすい(特に対人関係において不安感が強い)
  • 人前で極度に緊張しやすい
  • 他人からの拒絶に敏感
  • 他者の評価を過剰に気にする
  • 周囲に対して過度に気を遣う

こういった性格傾向は、非定型うつ病の患者さんによく見られます。
対人関係で問題を抱えることが多く、相手に対して過度に怒る・拒絶するなど不適切な行動を取り、周囲とのコミュニケーションに軋轢が生じやすくなります。すると、さらに不安感・緊張感が強くなる・他者の評価や態度に過敏になる……といった悪循環に陥り、やがて非定型うつ病を患うことも。

●環境

子供の頃に育った環境や現在身を置いている環境も、非定型うつ病の発症と関連があると考えられています。例えば、周囲からのプレッシャーの多い環境や本人にとって苦痛と感じる環境は、精神に大きなストレスを与えます。そこに「不安を感じやすい」「緊張を感じやすい」「他人の評価や拒絶に過敏」などといった性格傾向が重なった場合、非定型うつ病が発症することがあります。

●遺伝

非定型うつ病には遺伝が関係しているという説はあります。しかしはっきりとした科学的根拠はまだ示されていません。

非定型うつ病になりやすい人とは?

●非定型うつ病は20~30代の女性に多い

非定型うつ病は20〜30代の女性に多く見られます。この年代の女性は、仕事や結婚・出産などを機にライフスタイルが変化しやすく、過度なストレスにさらされたり他人からの評価の中で傷ついたりすることも少なくありません。こういった社会的背景に本人の性格傾向が重なって精神の不安定を招き、非定型うつ病につながるのではないかと考えられます。

●非定型うつ病は他の精神疾患と併発することも

非定型うつ病は、過食症や不安症といった他の精神疾患と併発することもあります。摂食障害の患者さんに見られる「精神的な辛さを紛らわすための過食」や、不安症の患者さんに見られる「周囲の評価を過度に気にする」などは、非定型うつ病の特徴的な症状のひとつです。そのため、非定型うつ病の症状が出現した時には、他の精神疾患との併発も考慮する必要があります。

非定型うつ病の治し方は?病院での治療方法

非定型うつ病の治し方は?病院での治療方法

●病院で行われる治療

非定型うつ病に限ったことではありませんが、精神科では、本人の状態や性格などを見極めた上での治療が基本です。主な治療は以下の3つです。

・まずは自身の病状についてきちんと把握してもらう

非定型うつ病の患者さんの中には、「どうにかして今まで通りの“普通の”生活を続けたいと思っているが、それができなくて苦しんでいる」という方が多くいます。そういった方に対しては、現在の状況が病気であること・今まで通りを続けるのは困難だということを理解してもらい、心身ともにしっかり休んでもらうよう指示を出すこともあります。患者さんの状態や性格によっては、休むよりも積極的に動くことを勧めるケースもあります。

・対症療法として投薬をすることも

対症療法として薬物療法を取り入れることもあります。不安やイライラが強い方には気持ちを鎮めるためのお薬を、熟睡感がない方には眠りを深めるお薬を、落ち込みが強い方には抗うつ薬を、というように患者さんの症状に合わせた投薬を行います。

・生活習慣の改善指導

非定型うつ病の治療では、生活習慣の見直しも重要です。生活リズムが乱れている患者さんは多いので、毎日一定の時間に寝て起きる・栄養バランスのとれた食事をとるなど、基本的な生活の見直しと改善を促します。

「非定型うつ病かも」と思ったら。病院に行くべき目安は?

非定型うつ病は、症状の特性上それが病気なのかどうか本人でも分かりづらいものです。周囲からの理解も得づらいため、放っておくと症状が悪化してしまう恐れもあります。仕事や日常生活に支障が出ているようであれば、ためらわずに病院を受診してください。

また、何かしらの“違和感”を覚えるようであれば、専門医に相談することをおすすめします。例えば、原因がわからない悲しみや辛さ・憂うつ感など、コントロールできない感情を長期間抱えている場合は、仕事や生活に支障が出ていなくても医療機関に相談した方が良いでしょう。

非定型うつ病の予防改善方法

非定型うつ病の予防改善方法

●自身の考え方や価値観を見直してみよう

自身の考え方や価値観を見直すのは、非定型うつ病の予防改善に有効です。非定型うつ病の方には完璧主義の傾向が見られます。仕事でも生活でも完璧を求めすぎてしまい、理想との乖離が生まれると過剰に落ちこんでしまうのです。

また、「0か100か」の二択で物事を見てしまう方も多いと言えます。何かに取り組むとき「ちょっとだけやる」という選択肢が存在せず、「全くやらないor完璧にやる」のどちらかになってしまいます。こういった考え方の癖は、自分自身へのプレッシャーになり、過度なストレスや精神不安を招きやすくなります。「0か100か」という考え方をやめ、自分に対する期待値を下げてみましょう。

●生活リズムを整えよう

生活リズムを整えることは非常に大事です。非定型うつ病では過眠の症状もしばしば見られ、だらだらと寝続けて生活リズムが乱れたり、昼夜逆転に陥ったりしやすくなります。乱れた生活リズムをそのままにしていると、精神不安や気分の落ち込み・イライラなどが悪化し、体のだるさや倦怠感を増長する恐れがあります。睡眠・起床時間をなるべく一定に保ちましょう。

●食生活にも注意して

食生活にも気をつけましょう。例えば、糖分を摂り過ぎると血糖値が乱高下し、倦怠感やだるさ・疲れやすさを感じる方もいます。また、ビタミン類の不足も似た症状をひきおこすことがあります。こういった体の不調が精神的不調と重なると、さらに辛い状態に陥る恐れがあります。

まとめ

非定型うつ病は、まだまだ世間的な認知度が低い疾患です。「気分の落ち込みはあるが、好きなことには積極的に取り組める」「楽しいことがあれば気分が晴れる」といった症状の特性ゆえ、「甘えているだけだ」「怠けているだけだ」といった誤解をされやすく、周囲の無理解に苦しむ患者さんも少なくありません。

しかし、従来のうつ病と同様に、非定型うつ病も治療が必要な精神の疾患です。ひとりで抱え込まず、精神科や心療内科などの医療機関に相談しましょう。

淀川キリスト教病院 精神神経科部長 久保田拓志

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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