暮らし あと押し eo

eo健康

急な下痢・腹痛の原因はノロウイルス、ロタウイルス?原因と対処法、予防方法を解説

冬が近づくにつれて多くなる、急な下痢や腹痛。下痢や腹痛と一口に言っても、その原因はさまざまです。

そこで今回は、下痢・腹痛の原因や症状・症状別の対処方法・予防方法などについて、淀川キリスト病院、消化器内科副部長の松井佐織先生に教えていただきました。

松井 佐織

淀川キリスト教病院 消化器内科・副部長

平成13年3月に鳥取大学医学部を卒業。淀川キリスト教病院、大阪市立総合医療センター勤務を経て、平成21年4月から淀川キリスト教病院に勤務。平成30年4月から淀川キリスト教病院 消化器内科副部長を務める。日本消化器病学会消化器病指導医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡指導医。

 淀川キリスト教病院 消化器内科・副部長 松井 佐織

急な下痢・腹痛の原因は?

急な下痢・腹痛の原因は?

急な下痢・腹痛の原因としては、まず感染性胃腸炎が挙げられます。感染性胃腸炎には「ウイルス性胃腸炎」「細菌性胃腸炎」などがあります。いわゆる食あたりも、多くは感染性胃腸炎にあたります。突然強い腹痛や下痢・嘔吐・熱が生じた場合、まず感染性胃腸炎が疑われます。

●ウイルス性胃腸炎

ウイルスが胃腸に侵入して起きる炎症を指します。ノロウイルス感染症やロタウイルス感染症・インフルエンザなどが代表的です。ウイルス性胃腸炎は、空気が乾燥してウイルスが増殖しやすい冬に流行します。感染者が持っているウイルスを介して二次感染することも多く、学校や職場などで集団感染が起きることもあります。

・ノロウイルス感染症

食中毒の原因として最多で、生牡蠣を食べて感染することが多い

・ロタウイルス感染症

生後6ヶ月から2歳前後の子供に多いが、まれに大人も感染することがある

・インフルエンザ

一般的に感冒症状が多いが、インフルエンザウイルスでも下痢や腹痛の症状が出ることがある


●細菌性胃腸炎

細菌が胃腸に侵入して起きる炎症を指します。カンピロバクター腸炎やサルモネラ腸炎・黄色ブドウ球菌腸炎・病原性大腸菌腸炎などが代表的です。十分に加熱していない肉類をはじめとする食材、調理器具や調理する人の手指についた細菌を介して感染します。なお、細菌性胃腸炎は、原因菌が活性化しやすい夏場に多く発生します。

・カンピロバクター腸炎

汚染された食物、特に鶏肉やその加工物を食べて感染することが多い

・サルモネラ胃腸炎

汚染された卵や食肉を食べて感染することが多い

・黄色ブドウ球菌腸炎

健常人の表皮などに常在している菌が手指から食物に付着し、加熱が不十分や常温で放置された食品中で増殖する(菌の産生する毒素によって症状がでる)

・病原性大腸菌腸炎

汚染された十分に火が通っていない牛肉や乳製品からの感染が多いが、ヒトからヒトへの2次感染もある

感染性胃腸炎以外で、急な下痢・腹痛が発生した場合は、以下のような原因が考えられます。

●過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、他に原因がないにも関わらず腸蠕動が亢進し、収縮運動に対する知覚過敏となり、便秘や下痢などでおなかが痛くなったりする病気です。慢性化しやすく、数ヵ月以上にわたって続くケースも少なくありません。消化管運動は腸と脳の情報交換により制御されており、ストレスがかかると症状が出やすくなるため、試験前や電車に乗ったとき・人前に出るときなどの緊張する場面や入学やクラス替え・転職・引っ越しといった環境の変化によって発症することもあります。

●暴飲暴食

お酒の飲み過ぎも、腹痛をともなう下痢を引き起こすことがあります。お酒を飲んだ翌日に下痢をしやすくなるのは、アルコールの作用によって腸内の水分や電解質の吸収が悪くなること・糖や脂肪の分解が悪くることが原因だと考えられます。また、食べ過ぎによって胃腸に過度な負担がかかると、下痢や腹痛の原因に。このほか、体質によっては乳製品や脂肪分の多い食品・香辛料などを食べると下痢をしやすくなる人もいます。

●高齢者の場合は、虚血性腸炎の恐れも

高齢者の急な下痢や腹痛は、虚血性腸炎(大腸の血流が一時的に悪くなる病気)が原因のことも。虚血性腸炎では、下腹部に突発的な強い痛みが生じます。また、下痢の前に便秘症状があることが多く、下痢と同時に血便が出ることもあります。

腹痛をともなう下痢の背後に、重大な病気が隠れている恐れもあります。例えば、大腸がん・直腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)などです。ただし、こういった重大疾患の症状としての腹痛や下痢は、突発的に生じるものは多くありません。

大腸がんや直腸がんではまず便秘が出現し、その後下痢・腹痛といった症状になることが多いです。炎症性腸疾患では下痢症状から発症することが多くなります。

原因別、急な下痢・腹痛とあわせて起こりえる症状

原因別、急な下痢・腹痛とあわせて起こりえる症状

感染性胃腸炎の場合、下痢や腹痛のほか、吐き気や嘔吐・熱をともなうことも少なくありません。急な下痢・腹痛と合わせて、以下のような症状がある方は、ウイルス性胃腸炎・細菌性胃腸炎を疑ってみてください。

・ウイルス性胃腸炎

ノロウイルス:強い吐き気や嘔吐をともなうことが多く、高熱は出にくい
ロタウイルス:吐き気や嘔吐・熱が出ることが多く症状が強いことが多い
インフルエンザ:全身の倦怠感や関節痛、頭痛・高熱をともなうことが多い

・細菌性胃腸炎

カンピロバクター:下痢の前に発熱や頭痛がでたり、血便が出ることも。吐き気や嘔吐は比較的少ない
サルモネラ:血吐き気や嘔吐をともなうことが多く、便が出ることもある
ブドウ球菌:吐き気や嘔吐をともなうことが多く、症状が強いことが多い

急な下痢や腹痛の対処方法は?

急な下痢や腹痛の対処方法は?

●感染性胃腸炎の場合、下痢止めは使用しないで

ウイルス性胃腸炎や細菌性胃腸炎を治すためには、ウイルスや細菌を体外に排出する必要があります。下痢(嘔吐も)は、ウイルスや細菌を体外に排出しようという働きなので、下痢止めで止めようとするのは良くありません。病原菌にもよりますが、数日から1週間程度症状が持続する場合もあります。

●熱が高いときは必要に応じて解熱剤を

ウイルスや細菌が体から出ていけば、自然と熱も下がりますが、熱が高くてつらい場合は必要に応じて解熱剤を使っても良いでしょう。ただし、高熱が出る場合や下痢がおさまっても発熱が続く場合は、ほかに原因があることも考えられますので、医療機関を受診してください。

●過敏性腸症候群の場合、必要に応じて下痢止めを使う

通勤途中や外出時・仕事中など、すぐにトイレにいけない状況下で急な下痢・腹痛が起きる場合は、必要に応じて下痢止めを使用しても良いでしょう。市販の下痢止めでも、たまに使う程度であれば問題はありません。しかし、検査などを受けておらず頻繁に使用を必要とする状態にあるなら、一度医療機関に相談した方が良いでしょう。

●胃腸に負担をかけにくい食事を

下痢や腹痛が続いているときは、胃腸に負担をかけにくい食事を心がけてください。食事をするのに不安がある場合、最初はゼリー系飲料などを試し、食べられるようであれば消化の良いうどんやおかゆ・具のない味噌汁・あっさりした和食などを食べるようにしましょう。なお、食物繊維を多く含む食材は、胃腸への刺激になり症状が悪化する恐れがあるので注意が必要です。また、油分の多いクリーム系のスープなどもはじめは避けた方が無難です。

●脱水症状防止のために水分補給をしっかり行う

下痢が続くと脱水症状を引き起こす恐れがあるので、水分補給はしっかり行いましょう。常温の水または電解質を含むスポーツドリンクがおすすめです。胃腸への刺激が強い柑橘系のジュースや炭酸類は避けてください。また、一度に大量の水を飲むとおなかへの刺激が強いので、少量ずつこまめに飲むことが大事です。

なお、下痢とともに嘔吐があり水分を飲むと吐いてしまう場合は、脱水症状が悪化する恐れがあるので医療機関を受診してください。

急な腹痛や下痢を予防するための対策は?

急な腹痛や下痢を予防するための対策は?

●感染性胃腸炎を防ぐには

ウイルス・細菌による感染性胃腸炎は、食べ物や調理器具・調理する人の手指を介して感染することがほとんどです。予防のために以下の点に留意してください。

  • 調理者も飲食者も手洗い・うがいをしっかり行う
  • 原因となりうる食材(生牡蠣などの二枚貝・肉類など)の生食を避ける
  • 調理器具は清潔にしておく
  • 生の肉類や魚介類が触れたまな板や包丁・菜箸などは十分に洗う

このほか、ウイルス性胃腸炎については二次感染の心配があります。看病する側の方は、感染者の吐瀉物や便に触れないように気をつけてください。

●日頃から腸内環境を整えることも大切

「おなかが弱くてすぐに下痢をしてしまう」「少し食べ過ぎただけでおなかの調子が悪くなる」というような方は、腸内環境が乱れている恐れも。整腸剤や乳酸菌・プロバイオティクスを含むヨーグルトなどで、腸内環境を整えましょう。

病院にかかるべき目安・判断基準は?

病院にかかるべき目安・判断基準は?

●感染性胃腸炎の受診目安

感染性胃腸炎は、下痢や嘔吐によってウイルスが体外に排出されるにつれて快方に向かっていきます。しばらくしても症状がおさまらない・症状が悪化していく・高熱が続くような場合は、病院を受診してください。また、水分補給ができない・吐いて食べられない場合も、脱水症状を起こす恐れがあるので、病院へ。このほか、血便が出ている場合も、原因となる病気がほかにある恐れがあるので、医療機関で検査を受けた方が良いでしょう。

●慢性的に下痢や腹痛を起こす方も一度病院へ

軽い腹痛や下痢は、誰しもが経験したことのある体調不良かと思います。しかし、慢性的に腹痛や下痢が起きる方や頻繁に市販の下剤を使用している方は、一度医療機関で診てもらった方が良いでしょう。

まとめ

急な下痢や腹痛の原因は、ウイルスや細菌による感染性胃腸炎から暴飲暴食・過敏性腸症候群などさまざまです。今回ご紹介した症状は、下痢や腹痛の原因を判断する目安にはなりますが、確実なものではありません。

症状がなかなかおさまらない場合や熱や嘔吐をともなうような場合は、病院で検査を受け、正しい治療を受けるようにしましょう。

淀川キリスト教病院 消化器内科・副部長 松井 佐織

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

おすすめ記事一覧