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妊娠中は危険? サイトメガロウイルス感染症の影響とは【産婦人科医監修】

「サイトメガロウイルス」は風疹(ふうしん)と同じように、妊娠中の方・妊娠を希望している方が気をつけるべき感染症です。しかし、サイトメガロウイルスについてはインターネット上にあまり情報がなく、風疹と比べると注意喚起や啓発もあまりされていません。

サイトメガロウイルスは、過度に怖がる必要はありませんが気にかけておくべきウイルス。妊娠中の方や妊娠を希望している方は、ぜひ正しい知識を身につけておきましょう。

今回は、サイトメガロウイルスとはどのようなものなのか・妊娠中に感染するとどのようなリスクがあるのかなどについて、産婦人科医の奥正孝先生に教えてもらいました。

奥 正孝

市立東大阪医療センター 産婦人科部長

奈良県立医科大学・同大学院を卒業。現在は市立東大阪医療センター産婦人科にて部長を務める。

日本産科婦人科学会 専門医・指導医、新生児蘇生法「専門」コースインストラクター。専門分野は婦人科全般・産科・内分泌疾患。

胎児感染に注意が必要なサイトメガロウイルスとは

●サイトメガロウイルスは、無症状のまま生涯その人の体に潜伏感染

サイトメガロウイルスはヘルペスウイルスの一種で、正式名称を“ヒトヘルペスウイルス5”と言います。多くの人が幼少期に感染しますが、通常の免疫機能があれば健康に支障をきたすような症状は何も出ません。

サイトメガロウイルスは生存能力に長けた賢いウイルスです。気づかないうちに人間の体に入り込み、他のヘルペスウイルスと同様に長期間にわたり潜伏する性質を持っています。また、感染した子供は数年間にわたって尿や唾液からウイルスを排せつするため、この間にまわりの子供や過去に感染したことのない大人に感染を拡大させます。さらに、排せつ期間が終わっても人の体に一生潜伏感染し続けます。

●胎児感染には注意が必要

サイトメガロウイルスは人の体に一生涯潜伏感染するものの、基本的に無害です。ただし、免疫が低下している状態などでは体のいろいろな臓器に障害をもたらす危険なウイルスに変貌する場合があります。

それは、過去に感染したことのない女性が妊娠中にサイトメガロウイルスにかかり、胎盤をとおしておなかの赤ちゃんに感染するケース。次項で詳しく解説しますが、おなかの赤ちゃんが胎内でサイトメガロウイルスに感染すると、重篤な病気や障害のリスクが生じたり命の危険につながったりすることもあります。

また、かなりまれですが過去に感染していても、妊娠中の抵抗力が弱まったときに体内で潜伏していたウイルスが再活性化することや再感染することがあります。風疹やトキソプラズマと異なり、サイトメガロウイルスに対する抗体(IgG)を持っている場合においても胎内感染する可能性は決してゼロではありません。

妊娠中、おなかの赤ちゃんにもたらす影響

●妊娠中の感染は、必ずしも赤ちゃんに影響が出るわけではない

妊婦さんがサイトメガロウイルスに感染したからといって必ずしもおなかの赤ちゃんにうつるわけではありません。また、もしおなかの赤ちゃんにうつっても必ず何らかの症状や障害が現れるわけでもありません。

まず、過去に感染したことのない妊婦さんのうち、妊娠中にサイトメガロウイルスに感染する人は0.3~1.2%と言われています。そのうち、ウイルスがおなかの赤ちゃんにうつる確率は40%程度。さらに胎児感染した赤ちゃんのうち、生まれたときに何らかの症状がでる可能性は約20%です。

●サイトメガロウイルスがおなかの赤ちゃんにもたらすリスク

おなかの赤ちゃんがサイトメガロウイルスに胎内感染すると、出生時に次のようなリスクが懸念されます。

・低体重出生・小頭症・血小板減少・肝脾腫・黄疸・難聴・網膜炎 などの症状
低体重出生は様々な原因で起こりますので、他のいくつかの症状がある場合はサイトメガロウイルス感染も原因の一つとして検査を行います。

・脳内石灰化・脳室拡大などの脳障害
おなかの赤ちゃんの脳は、サイトメガロウイルスの標的となりやすいと言われています。特に、妊娠初期(〜13週)の赤ちゃんの脳の形成が盛んな時期に感染すると、脳障害が出やすいことが知られています。

・胎児死亡
重篤な場合は死産に至る恐れも。「死産の約15%が先天性サイトメガロウイルス感染による」というオーストラリアの調査結果もあります。

・遅発性の症状として、難聴や発達障害
一部の赤ちゃんは出生時に無症状であっても、数カ月・数年経ってから難聴や精神発達障害が発症することがあります。感音性難聴の約30%程度はサイトメガロウイルス感染が原因ではないかとも言われています。進行性の難聴であるため出生時の検査では異常が見つからず、幼時期から学童期に発見される場合もあります。

 

●赤ちゃんの胎内感染を調べることも可能

生まれた赤ちゃんの胎内感染の有無は、出生後の尿検査で調べることができるようになりました。生後3週間以内の尿検査でウイルスが確認された場合、胎内感染したと判断されます。難聴の進行を抗ウイルス薬で遅らせることができるという報告もあるので、新生児聴力スクリーニングで正常が確認できない場合には尿検査をおすすめします。

胎内感染が心配な妊婦さんにできること

●不安な方は、ウイルス抗体の有無を調べる検査を

ほとんどの人が幼少期にサイトメガロウイルスに感染していて、すでに抗体を持っていると言われています。しかし、無症状で自覚がないため不安を感じる妊婦さんは多いのではないでしょうか。そういった方は、妊娠初期に血液検査でウイルス抗体の有無を確認することができます(サイトメガロウイルスIgG)。 もしもこの検査で陰性(抗体がない)と判明したら、次項に留意することでおなかの赤ちゃんへの感染率を10分の1程度にまで減らせます。

●妊婦さんの感染のほとんどは上の子や周囲の子から。感染を防ぐポイント

妊娠中にサイトメガロウイルスにかかる人の多くは、上の子供や周りの子供から感染すると言われています。ほとんどの子供は幼少期にサイトメガロウイルスに感染し、その後数年間にわたって唾液や尿を介してウイルスを排せつするからです。感染した子供の多くが、6歳前後までは排菌していると考えられています。
上の子や周囲の子からの感染を防ぐには、以下のポイントに注意してください。

1. せっけんと水道水での手洗いを徹底する
おむつ交換の後やお子さんの食事・鼻水や唾液を処理した後・オモチャを触った後は、せっけんと水道水でしっかり手を洗いましょう。

2. 子供の唾液や尿がついたオモチャや家具は、きれいに拭き取る
サイトメガロウイルスは、石鹸やアルコールで除菌できます。お子さんが口に入れたオモチャやなめた家具などはきれいに拭き取るようにしましょう。

3. 子供と同じフォークやスプーンを使わない
食べものや飲みものは子供と別にして、同じフォークやスプーンなども使わないようにしましょう。子供の食べ残しや飲み残しを口にしないことも大事です。

4. おねしょ後の寝具はよく乾燥させる
子供がおねしょをしてしまったら、洗濯をしたうえで寝具を十分に乾かしましょう。サイトメガロウイルスは乾燥に弱い性質があるので、しっかり乾かすことで感染予防になります。

5. 口や頬にキスしない
お子さんにキスするときは口や頬は避けて、唾液のつきづらい額に。抱きしめるのはもちろんOKです。

 

妊娠時以外にもある感染リスク

ここまでは妊娠中の感染リスクについて説明してきましたが、妊娠中以外にも感染すると危険なケースがあります。

  • 手術などの際に大量輸血により初感染した場合
  • 臓器移植時や骨髄移植時などで免疫を抑制している状態で発症した場合
  • 難治性の潰瘍性大腸炎などでステロイド投与を受けている場合

このように免疫力が通常時よりも低下しているときにサイトメガロウイルスにかかると、重症化する恐れがあります。このほか、HIV患者がサイトメガロウイルスに感染すると網膜炎や腸炎・脳炎を発症することが多いとされています。

まとめ

最近の新生児尿検査の結果で、日本における先天感染の発生頻度は0.3%程度(生まれたときに何らかの症状を呈するものは0.1%)と報告されています。サイトメガロウイルスは妊娠中に感染するとおなかの赤ちゃんに重大な疾患や障害をもたらす可能性があります。不安がある方は主治医に相談の上、妊娠初期にIgG抗体の有無を調べてみてはいかがでしょうか。また、上のお子さんがいる方は、上の子からの感染を防ぐためのポイントに留意してみてください。

市立東大阪医療センター 産婦人科部長 奥 正孝

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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