食事が飲み込みにくい・むせる原因は? 知っておきたい嚥下障害の基礎知識【医師監修】
病気・症状と予防
2019年06月06日掲載
ものを食べるとき飲み込みにくい――
頻繁にむせる――
これらの症状は嚥下障害(えんげしょうがい)と呼ばれます。嚥下障害は老化現象のひとつですが、若い人にも起こりうる症状です。
そこで今回は、飲み込みにくさやむせやすさの原因・考えられる病気・治療方法・予防改善方法などを耳鼻咽喉科医の中野友明先生に教えてもらいました。
中野友明
淀川キリスト教病院 耳鼻科・小児耳鼻科部長
平成3年3月に大阪市立大学医学部を卒業後、大阪市立総合医療センター小児耳鼻科部長を経て平成30年4月から淀川キリスト教病院 耳鼻科・小児耳鼻科部長を務める。小児の耳鼻科系奇形疾患手術から鼻・副鼻腔手術、咽喉頭手術、耳科手術、頭頸部良性腫瘍・悪性腫瘍手術まで幅広く対応しています。
嚥下障害とは?その原因は?
●嚥下障害とは
医学用語では飲み込む動作を「嚥下(えんげ)」と呼び、嚥下に関するトラブルを「嚥下障害」と呼びます。「飲み込みにくい・頻繁にむせる状態」も嚥下障害にあたり、その原因は様々です。
●最大の原因は「加齢」
飲み込みにくい・むせるといった症状の最大の原因は「加齢」です。年を重ねるに連れて、のど周辺の筋力が低下すると、飲み込む機能が衰えやすくなるからです。機能の衰えにより食べもの・飲みものがうまく飲み込めず食道ではなく気管に入ると、気管が飲食物を排出しようとしてむせてしまうことがあります。
また認知機能や神経伝達が低下して、「ものを口に入れる→飲み込む」といった作業がスムーズにできなくなることもあります。脳が「飲み込む動作」を正しく認知できなくなると、舌や上あごの奥の筋肉などが動かなくなり、飲食物がスムーズに飲み込めなくなるのです。
加齢にともなう嚥下障害は、一般的には60代前後から多くなります。若くして嚥下障害が出ている場合は、何らかの病気や障害が疑われます。
●加齢以外の原因
加齢以外の原因としては、口やのど・食道などの疾患や障害が考えられます。身近な例であれば、口内炎や歯槽膿漏(しそうのうろう)・虫歯・扁桃炎(へんとうえん)・咽頭炎(いんとうえん)など。また、口腔がん・舌がん・咽頭がん・喉頭がん・甲状腺がん・食道がんや、食道炎・食道腫瘍 ・食道の変形などもありえます。
このほか、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、神経障害や筋疾患などが原因であるケースも。さらに、ストレスなどの心理的な要因が関連している可能性もあります。
どの程度から「嚥下障害」?
飲食時、飲み込みにくさを感じたりむせたりした経験のある方は多いかと思います。たまになるくらいであれば「嚥下障害」ではない可能性が高いので、特に気にすることはありません。では、どの程度から「嚥下障害」と呼ぶのでしょうか。
●嚥下障害かどうかを見極めるセルフチェック
30秒間で唾液を飲み込める回数を数えてみましょう。3回以上できなかった方は、何らかの嚥下障害が疑われます。
「30mlの水を5秒以内にむせずに飲めるかどうか」も嚥下障害を見極めるひとつの指標です。
●嚥下障害が疑われる徴候
このほか以下の症状がみられる方は、嚥下障害の徴候があるといえます。
- 声質が変わってきた
- 常にのどがゴロゴロしている
- 痰(たん)が多く出る
病院に行くべき目安は?どんな治療が受けられる?
●飲み込みにくい・むせやすいとき、病院に行くべき?
ご紹介したセルフチェックで懸念がある方や嚥下障害の徴候が見られる方は、一度病院で診てもらうと良いでしょう。耳鼻咽喉科または消化器内科を受診してください。
●病院ではどんな治療が受けられる?
嚥下障害の治療方法は、その原因によって異なります。そのため、まずは検査をして原因を探ってから治療の方針を決めます。病気が原因と分かればその病気の治療を、加齢によるものであれば生活面や食事面・リハビリの指導などを行います。
肺炎を引き起こす恐れも。嚥下障害のリスクって?
嚥下障害は、肺炎につながるリスクをはらんでいます。
飲食時にむせると、飲み込んだ飲食物や唾液が食道ではなく気管に入りやすくなります。その際、食べ物や唾液といっしょに入ってきた口内細菌が肺に達すると、肺炎の原因になる恐れがあるのです。このように食べ物や唾液などが気管に入ることを誤嚥(ごえん)と呼び、誤嚥がもとで起きる肺炎を誤嚥性肺炎と呼びます。
誤嚥性肺炎を防ぐための対策のひとつが口腔ケアです。歯みがきをきちんとして口内細菌の増殖を防ぎましょう。
嚥下障害を予防改善するセルフケア
●食事の工夫
むせやすい水状のものの飲食は、できるだけ避けましょう。飲み物やスープなどにはとろみをつけ、口からのど・食道へとスムーズに流れるようにします。このほか、食材は小さく切って飲み込みやすいようにしてください。
●のど周辺の筋トレ
加齢による嚥下障害が多くなるのは60代以降ですが、のど周辺の筋力は40代から衰え始めます。そこでのど周辺の筋トレをして、飲み込む力を衰えさせないようにしましょう。
【のどの筋トレ4種】
- おへそをのぞき込むようにあごを引き、おでこに手を当てます。そのまま手とおでこを5秒間押し合いましょう。のど仏にグッと力を入れるよう意識して。5~10回行ってください。
- 1と同様にあごを引き、あごの下に両手の親指を当てます。あごは下に・親指は上に力を入れ5秒間押し合いましょう。このときも、のど仏に力を入れて。5~10回行ってください。
- 「イー」と5秒間発声しながら口を思いっきり横方向に広げます。5~10回行ってください。
- つばをゆっくり飲み込みます。のど仏を意識して、ゴクンとしっかり飲み込むようにしましょう。2~3回行ってください。
これらを毎日1セット、できれば食事の前に行いましょう。
まとめ
飲食時に飲み込みにくさを感じたりむせたりするのは誰にでもあることなので、神経質になりすぎる必要はありません。しかし、飲食に支障をきたしていたり症状がひどかったりする場合はほかの病気が隠れている可能性や誤嚥性肺炎につながる恐れも。気になる方は、病院で医師に診てもらうと良いでしょう。
淀川キリスト教病院 耳鼻科・小児耳鼻科部長 中野友明
URL : http://www.ych.or.jp/
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