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耳が聞こえない原因はストレス?突発性難聴の症状と治療について【医師監修】

突然耳が聞こえなくなる・聞こえにくくなる、突発性難聴。突発性難聴は、誰でも発症する可能性があります。また治療が遅れると治らないリスクが高くなる、一刻を争う病気でもあります。

そこで今回は、あまり知られていない突発性難聴の症状・原因・治療方法などについて、耳鼻科医の坂倉淳先生に教えてもらいました。

坂倉 淳

大阪府済生会茨木病院 院長補佐 兼 耳鼻咽喉科部長

2000年より大阪府済生会茨木病院に勤務。大阪医科大学大学院医学研究科を卒業し、日本気管食道科学会専門医、日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医として活躍。専門は音声言語医学。丁寧な診療と分かりやすい説明を心掛けている。

突発性難聴とは?

突発性難聴の症状と特徴

突発性難聴とは、左右どちらかの耳が突然聞こえなくなる・聞こえにくくなる原因不明の難聴のことです。「○月○日の○時ころから急に聞こえなくなった」とはっきり言う患者さんも多く存在します。

上記イラストの耳の奥にある蝸牛(かぎゅう)という器官に障害が生じることが原因で、音が聞こえなくなります症状の程度は人それぞれで、「いつもより聞こえにくい」というような軽度の方もいれば、ほとんど聞こえない状態になる方もいます。めまいや耳鳴り・ふらつきを合併することも。

一般的には片側の耳のみに発症しますが、まれに両耳が聞こえなくなるケースもあります。片側の耳が突発性難聴になった後、反対側の耳も突発性難聴になることは基本的にありません。また、治療後に再発することも通常ありません

突発性難聴の患者数は年間で約2万5000人と、決して少なくない数字です。30歳から60歳前後の方がなりやすく、特に50代の方に多いと言われていますが、子供でも発症することがあります。なお、罹患率に男女差はありません。

突発性難聴は治る?治らない?

突発性難聴が治るか治らないかは、症状の程度・発症から治療開始までの時間・治療方法や経過などによって異なります。発症者のうち治癒する方が4割・一部治癒する方が4割・不変が2割程度と言われています。

完治が難しいのは、発症時にほとんど聞こえないようなケースや治療開始が遅れたケース・難聴症状とともにめまいやふらつきが併発しているケースおよび高齢者、糖尿病・高血圧患者などです。発症から治療までの速度が非常に重要で、治療開始が遅れれば遅れるほど聴力が回復する可能性は低くなっていきます

突発性難聴を治すためには?

突発性難聴の治癒は、とにかく早期に治療を開始することがポイントになります。 症状を自覚してから48時間以内に治療を開始すれば治る見込みが高くなりますが、2週間以上放置すると治らない可能性が高くなります。また、基本的に自然治癒はしない病気です。

めまいなどは併発しますが、突発性難聴の目立つ症状は聴力の異変のみで、全身に大きな変化はあまり起こりません。そのため、聴力異常を自覚しても「病院に行く時間もないし、とりあえず様子を見よう」と放置してしまう方がいます。しかし症状の発現から時間が経てば経つほど、治る可能性は低くなっていきます。だからこそ聴力の異変に気づいたら、すぐに耳鼻科に行くようにしてください

突発性難聴の原因は?

実は突発性難聴のはっきりとした原因は、いまだに解明されていません。現状、以下の2つの説が有力だとされています。

【仮説1】ウィルス説

「なんらかのウィルスが内耳に入ることで炎症を起こし、機能障害を生じさせている」というのが、ウィルス説です。

突発性難聴には再発がないこと、また突発性難聴を発症する方は発症前に風邪をひいている・体が弱っている・ストレスを抱えているというような、ウィルス感染しやすい状態にある方が多いことがウィルス説が有力視される一因です。

【仮説2】循環障害説

「内耳動脈の血流が悪化したり詰まったりして、機能障害を生じさせている」というのが、循環障害説です。

突発性難聴が発症しやすい30歳から60歳にありがちなストレスや疲労・食生活・生活習慣の乱れが血流不全を招き、突発性難聴が発症するのではないかと考えられています。

突発性難聴と間違えやすい病気は?

突発性難聴と似た症状の病気も存在します。7つの似た病気を紹介するので、突発性難聴かどうかを見極める際の参考にしてください。ただし安易に自己診断はせず、不安を感じたらすぐに病院へ行くようにしてください。

1. メニエール病

メニエール病は、難聴や耳鳴り・めまいを繰り返す病気です。メニエール病の初回発作と突発性難聴はよく似ているため、最初は区別がつかないケースもあります。経過観察時に診断が確定することも少なくありません。

2. ムンプス難聴

ムンプス(おたふく風邪)ウィルスが内耳に入って高度難聴を発症するのが、ムンプス難聴です。ムンプス難聴の診断は発熱や耳下腺の腫れといった、おたふく風邪特有の症状の有無によって決まります。ムンプス難聴は治癒が難しい病気で、基本的には治らないと言われています。

3. 心因性難聴

精神的な葛藤が基盤にあり、何らかの誘因ときっかけが原因で生じる難聴を心因性難聴と呼びます。思春期の子供に多いとされています。心因性難聴は、機能的には聞こえているはずなのに“聞こえなく感じる”のが特徴です。心因性難聴の診断には、「他覚的聴力検査」が用いられます。例えば、脳波で聴力を判定するABR(聴性脳幹反応)などがあります。

4. 低音障害型感音難聴

低音だけが聞こえにくくなる・聞こえなくなる状態を、低音障害型感音難聴と言います。突発性難聴と比べて程度が軽く、治る率も高いのが特徴です。突発性難聴と同じく突然発症しますが、低音障害型感音難聴は、症状のある時期と無い時期を繰り返したり、何度も再発したりします

5. 外リンパ漏

強く鼻をかんだ後や重いものを持ち上げた後に、急に耳が聞こえなくなったり平衡感覚がおかしくなったりする症状を、外リンパ漏と呼びます。原因は、内耳に急激な気圧変化がもたらされたことだと考えられます。

6. 聴神経腫瘍

聴神経腫瘍は、耳の奥にある内耳道や小脳橋角部(しょうのうきょうかくぶ)という部分にできる良性腫瘍です。徐々に聴力が下がっていくのですが、1割程度の患者さんが急に難聴になります。聴神経腫瘍の診断は、CTやMRIなどの画像を用いて行われます。

7. 脳血管障害

脳梗塞などの脳血管障害にともない、突発的に難聴やめまいがあらわれることがあります。難聴やめまい以外の脳神経症状の確認、CTやMRIなどの画像を確認して診断をします。

突発性難聴の治療方法

突発性難聴の治療内容

突発性難聴の治療には、主にステロイドの点滴を用います。ステロイドの点滴治療が効かない場合は、血管拡張剤のプロスタグランジンを用いることもあります。
ステロイドの点滴治療やプロスタグランジンの投与で効果が見られないときには、ステロイドの鼓室内投与(※1)や高圧酸素療法(※2)といった選択肢も検討されます。

※1 ステロイドの鼓室内投与とは
   注射針を用いて、鼓膜の内側にある鼓室に直接ステロイドを注入する方法

※2 高圧酸素療法とは
   2気圧の高気圧空間で患者に酸素を吸引させて、血液に酸素を多量に取り込む療法

 

即時!遅くとも翌日までの入院を

突発性難聴の患者さんには、原則として即時~翌日までの入院をおすすめします。安静と投薬治療による副作用管理が必要だからです。

また、突発性難聴になる方は過労やストレスを抱えていたり生活習慣・食習慣が乱れていたりする方が多いので、入院中にストレスや過労から隔離して、生活リズムや食生活を整えるという目的もあります。入院期間は症状の経過にもよりますが、だいたい1週間から2週間です。

突発性難聴を予防することは可能?

疲労・ストレス・体調不良は突発性難聴の誘因!生活習慣・食生活の見直しを

前述したように、突発性難聴の原因や詳しいメカニズムは、いまだ解明されていません。そのため「〇〇をしなければ突発性難聴にならない」「〇〇をすれば突発性難聴を予防できる」と明言はできませんその一方で、有力視されているウィルス説・循環障害説に基づいて考えると、疲労やストレス・体調不良は突発性難聴の一因だと言うことができます。このことから睡眠をしっかりとる・ストレスを溜めこまない・栄養バランスのとれた食事をするなどといった心がけは重要だと言えるでしょう。

子供の突発性難聴は、親御さんの“気づき”が治癒の分かれ目に

突発性難聴は大人に多い病気ですが、子供も発症する可能性があります。しかし小さな子供は、耳の異変を上手に言葉で表現したり伝えたりすることができません

突発性難聴は早期治療がカギなので「なんだか耳が変……」といった子供の訴えは見逃さないようにしてくださいこのほか、子供が耳を頻繁に触ったり気にしたりしている・子供を呼んでも反応しないというような状況にも注意を。不安を感じる場合は例えばスマホを子供の耳に当てて、左右の聞こえ方を比べてみると良いでしょう。

まとめ

突発性難聴は、騒音環境で働いている方や耳を酷使する職業の方が発症すると考え、「自分には関係ない」と思っている方が多いかもしれません。

しかし、突発性難聴は誰でも発症する可能性がある病気です。生活が不規則な方やきちんとした食事をとれていない方、ストレスや疲れが溜まっている方などは、総じて突発性難聴の予備軍だと言えます。

できるだけ規則正しい健康的な生活を心がけるとともに、耳に異変を感じたときはすみやかに耳鼻科を受診しましょう

大阪府済生会茨木病院 院長補佐 兼 耳鼻咽喉科部長 坂倉 淳

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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