ノロウイルスの潜伏期間を知っていますか?医師に聞く症状・検査・消毒方法
病気・症状と予防
2018年04月12日掲載
毎年、子供から大人までたくさんの方が感染するノロウイルス。ノロウイルスは感染力が非常に強いため、予防法を知らないとうつされてしまう可能性があります。逆に自分自身が感染したときには、他の人にうつしてしまう恐れも。
そこで今回は、ノロウイルスの特徴や症状・感染した場合の対処方法や日頃からできる感染の予防方法について、医学博士の岸清彦先生に教えていただきました。
岸清彦
監修 医療法人 明和病院 院長補佐(内科主任部長・臨床検査科部長)
医療法人 明和病院の院長補佐・内科主任部長・臨床検査科部長を務める。日本人間ドック学会人間ドック健診指導医・専門医・認定医でもあるため、人間ドックについても精通している。患者にとって分かりやすい説明を大切としている。
INDEX
ノロウイルスとは?
●ノロウイルスの症状
ノロウイルスは、急性胃腸炎を引き起こすウイルスの一種です。ノロウイルスが体内に侵入して腸管内で増殖することで、次のような症状が生じます。
・おう吐
・吐き気
・上腹部の痛み
・37~38℃前後の発熱
ノロウイルスの特徴は、これらの症状が「突然始まる」ということです。ノロウイルスに感染すると、12~48時間の潜伏期間を経て、突然胃をひっくり返すかのような強烈な上腹部の痛み・吐き気に襲われます。また、それに伴って激しいおう吐と下痢が繰り返されます。
熱も出ますが、ほとんどの場合はそれほど高熱にはならず37~38℃程度に留まるのもノロウイルスの特徴です。そして、これらの症状が1~2日続きます。
●ノロウイルスはなぜ怖い?
ノロウイルスの怖いところは、おう吐物や便と一緒に体外に排出されてからも、しばらくは自然環境下で生存し続けることが可能だという点です。過去には感染者がカーペットにおう吐し、そこに付着したノロウイルスがおう吐物の乾燥とともに空気中に飛散して、12日以上経ってから他の人に感染したという事例もあります。
また、アルコール消毒や熱・乾燥などへの抵抗力も高く、掃除や除菌をしてもなかなか死滅しません。このような性質ゆえに、ノロウイルスは感染力が非常に高く、二次感染や集団感染を生みやすいのです。
ノロウイルスに感染する原因は?ノロウイルスの感染経路
ノロウイルスは、外部から体内にウイルスが侵入することによって感染します。感染経路としては、次のようなケースが考えられます。
① 二枚貝(カキやホタテなど)や井戸水を介して感染
カキを始めとする二枚貝を生で食べると、ノロウイルスに感染することがあります。体内にノロウイルスを蓄積しやすい二枚貝は、生食する際は注意が必要です。この他、消毒が不十分な井戸水や簡易水道水を飲んで感染するケースもあります。
② 調理器具を介して感染
生ものを調理した際に、まな板や包丁・菜箸などにノロウイルスが付着することがあります。それらを使って調理した別の食材を口にすると、感染することがあります。
③ 感染者の吐しゃ物・排せつ物から感染
感染者の吐しゃ物を適切な方法で処理していないと、処理を担当した方の手にノロウイルスが付着することがあります。その状態で、パンなどをつかんで食べると、ノロウイルスが口に入って感染する恐れがあります。
また、ウイルスが飛散したトイレの便座やドアノブなどに手で触れてしまい、それが口に入って感染することも
④ 空気を介して感染
ノロウイルス感染者のおう吐物や便がきちんと処理されていなかった場合、空気感染の恐れがあります。ノロウイルスは乾燥にもアルコール消毒にも抵抗力があるため、きちんと処理したつもりでも死滅せずに空気中に飛散することがあるのです。
なお、ノロウイルスは咳やくしゃみなどで感染することはほとんどありません。ウイルスが含まれているのは、あくまでおう吐物や便。唾液や汗・尿には含まれていません。
ノロウイルスに感染した…と思ったらどうすべき?病院は行くべき?
突然の激しい吐き気やおう吐・下痢といった症状が現れたら、まずは直近の自分の行動や状況などを思い返してみましょう。
・ カキなどノロウイルスの原因となりやすいものを食べた
・ 学校や職場・家庭で最近ノロウイルスにかかった人がいる
・感染者の吐しゃ物の掃除をした
これらに当てはまるのであれば、ノロウイルスに感染している可能性があります。
●ノロウイルスに特効薬はない!
ノロウイルスが疑われる場合は、医療機関の受診をおすすめします。
しかし、残念ながら、ノロウイルスに対する特効薬というものはありません。例えばインフルエンザに対するタミフルのように、投薬で症状を軽減したり治したりすることはできないのです。
ノロウイルスの治癒にとって必要なのは、ウイルスを体外に排出すること。おう吐や下痢はそのためのプロセスでもあります。ではなぜ病院に行く必要があるのでしょうか?
●それでも病院に行くべき理由
医療機関を受診すべき理由のひとつは、ノロウイルスかどうかの診断を受けるためです。
風邪や細菌性胃腸炎でも、ノロウイルス感染症とよく似た症状が出ることがあります。
しかし、一般的な風邪などと違ってノロウイルスは二次感染力が高い病気です。感染者も周囲の人も慎重な対処が求められます。まずは体調不良がノロウイルスに起因するものなのかどうかを病院で確かめることが、集団感染を防ぐことにつながります。
なお、病院ではノロウイルスの陽性・陰性を判断するための検査も受けられます。ただし、この検査は簡易的なものであるため、正確な結果が出ないこともあります。
また、健康保険適用外であるため(※1)病院によって費用が異なります。そのため、多くの一般医療機関では、患者さんの症状と問診の結果で、ノロウイルス感染症かどうかの判断をしています。
(※1)3歳未満、65歳以上の方は健康保険が適用されます
●病院で防げる脱水症状・誤飲性肺炎など
もうひとつ病院に行くべき理由は、おう吐や下痢によって脱水症が起きる可能性があるためです。
おう吐や下痢が続くと、体内の水分や電解質が失われます。これが深刻化すると、生命の危機にひんすることも。そこで、症状が長引いている方や体力のない子供やお年寄りには、点滴をして脱水症を防ぐための処置が行われます。
さらに、おう吐や下痢が続くことによる血圧低下や、吐いたものが誤って気管に入ることによって起きる誤えん性肺炎、吐いたものが喉につまるなどといったことも考えられます。
ノロウイルス感染症そのものが重症化することはほとんどありませんが、こういった事態も十分考えられますので、医療機関への受診をおすすめします。
ノロウイルスの対処方法は?感染後はどう過ごすべき?
●水分補給で脱水症を防ごう
ノロウイルスに感染したら注意したいのが、脱水症です。
ノロウイルスにかかったら、脱水症を防ぐために少しずつでも水分を摂るようにしてください。水、もしくは電解質と糖質が配合された経口補水液が適しています。また、おう吐や下痢を繰り返すことで体力が落ちやすくなっていますので、安静にして十分に体を休めるようにしましょう。
●学校や仕事は休んで!復帰は下痢が治まってから。
ノロウイルスは感染力が強いため、人にうつしてしまう恐れがあります。ノロウイルスが発症したら、学校や仕事は休むようにしてください。学校や職場への復帰は、下痢が完全に治まってからにしましょう。
ノロウイルスに感染しないために。日頃からできる予防対策
ノロウイルスがはやるのは主に冬場の12月から3月にかけてですが、感染の危険性は年間通じていつでもあります。感染を防ぐために、次の項目を習慣にするよう心がけましょう。
●カキなどの二枚貝を生で食べない
抵抗力の弱い小さな子供やお年寄り、体調が優れない方は、カキやホタテなどの二枚貝の生食をしないようにしましょう。仮に二枚貝を食べるときは、火を通すように。実はノロウイルスは熱にも強いウイルスなのですが、中心部を85~90℃以上で90秒以上加熱すればウイルスの活性が失われます。
●調理器具の使用方法を見直す
調理器具を介した感染を防ぐために、生ものを扱った調理器具は、その都度必ず熱湯消毒することを習慣づけましょう。また、生ものと生もの以外で調理器具を分けるのも、感染予防に効果的です。
●手洗いを徹底する
トイレ後や調理前・食事前は、せっけんで入念に手洗いを。すすぎもしっかりとしましょう。共用のタオルはウイルスが繁殖している可能性があるので、使用は控えた方が安全です。使い捨てのペーパータオルが良いでしょう。
二次感染を防ぐために。感染者の吐しゃ物の正しい処理方法
感染者のおう吐物や便には、多量のノロウイルスが含まれています。
そのため、感染が疑われる人の吐しゃ物を処理するときは、慎重な作業が求められます。処理方法が適切でないとウイルスが拡散し、自分自身や周囲の人が二次感染するリスクもあります。ご家庭や職場で感染者が出たときに適切な対応ができるように、吐しゃ物の正しい処理方法を覚えておきましょう。
●作業を行う前の注意点
おう吐物や便の飛まつは、想像以上の広範囲に飛び散ります。処理する人以外は吐しゃ物周辺には近づかず、別室に避難しましょう。特に子供やお年寄りが近くにいる際は、すぐに別室に移動してもらうようにしてください。
●用意するもの
処理をするときは必ずマスクとビニール手袋・水分の染み込まないビニール製ガウンやエプロンを身に付けてください。また、消毒液として、ノロウイルスの殺菌に効果のある塩素系漂白剤を用意しましょう。この他、ペーパータオルや新聞紙・ビニール袋も必要です。
●処理の仕方
窓がある部屋なら、まずは窓を開けて換気をしてください。
次に吐しゃ物を新聞紙でそっと覆い、上から希釈した塩素系漂白剤を静かにかけます。そして、吐しゃ物をすくい取るように新聞紙ごとビニール袋へ入れます。この作業を繰り返しましょう。回収がすべて終わったら、ビニール袋に塩素系漂白剤を注いで除菌してください。
広範囲にわたってウイルスが飛散している可能性がありますので、周囲の床や壁も塩素系漂白剤を使って洗浄します。作業がすべて終わったら、身に付けていたマスクや手袋・エプロンを外して捨てましょう。最後に、せっけんで入念に手を洗い、うがいをしてください。
まとめ
一度感染したことのある人が「もう一生かかりたくない」と口を揃えるほど、ノロウイルスの症状はツライと言われています。
ノロウイルスに感染しない・人に感染させないために、正しい対処法を知って、日頃から予防対策を心がけましょう。
監修
明和病院 院長補佐 / 内科主任部長 / 臨床検査科部長 岸 清彦
医療法人 明和病院 URL: https://www.meiwa-hospital.com/
※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。