歯茎の腫れの放置は危険！痛みや口臭を防ぐ専門知識

テレビコマーシャルなどで目にすることが多い「歯周病」という言葉は、歯肉炎と歯周炎の総称です。歯茎が腫れる・たまに出血するといった症状は、歯肉炎や歯周炎かと思われます。
歯肉炎→軽度歯周炎→中等度歯周炎→重度歯周炎と進行し、中等度歯周炎の段階から歯がグラグラしてきます。
歯肉炎の段階では強い痛みを感じなくとも、放っておくとどんどん症状は進行してしまいます。だからこそ腫れが気になる場合は、歯周病の初期症状としてきちんとケアをすることが大切です。

また、歯周病は糖尿病などの全身疾患とも深い関わりがあります。これに関してはまだまだ認知度が低く、甘く見ていると命を脅かすような深刻な症状につながる可能性があります。歯周病には、その他の疾患のリスクが潜んでいるという点も理解しておきましょう。

歯茎が腫れる原因はいろいろありますが、一般的に考えられるものとしては細菌による炎症があげられます。 歯の根元や歯周ポケット（※1）などに歯垢（※2）がたまると、歯茎に腫れや痛みが出やすくなります。
歯垢は放置していると、唾液の成分と反応して歯石になります。この歯石は固く歯に付着するので歯ブラシでは取れません。歯石は細菌の温床となることがあるため、歯石が多い方は歯茎が腫れやすい口内環境にあると言えます。また、歯周病が進行して細菌が歯周ポケットの深いところで繁殖するようになると、口臭やひどい痛みの原因になることもあります。

歯科医院では歯周ポケットの深さや歯の動揺度などを検査し、歯周病の進行度に合わせて治療が行われます。歯垢などがついて歯茎が腫れている歯肉炎程度であれば歯磨き指導で終わることもありますが、歯石がついていると歯石除去が必要となります。さらに歯周病が進行して、ポケットの深いところに歯石がついている重度状態になると外科治療に及ぶことも。大掛かりな治療になる前に、早めの治療を大切にしましょう。

また、「歯並びがガタガタ」「被せ物や詰め物の下に段差がある」といった状態は、細菌が溜まりやすい環境であるため、歯周病が進行しやすくなります。その他、歯周病が進行しやすい状態として、「噛み合わせが悪い」ことがあげられます。噛み合わせが悪いと特定の歯だけに過剰な力がかかるため、歯周病が一気に進行することがあります。特に歯がない状態を放置すると残った歯に負担がかかるので、治療が必要です。これらに当てはまる場合は、矯正治療で歯並びを治したり、段差があるような被せ物や詰め物をやり直したりすることにより、歯磨きがしやすく、細菌（歯垢や歯石）が溜まりにくい環境にするのがおすすめです。

※1 歯周ポケットとは歯と歯茎のすき間のことをさします。
※2 歯垢とは細菌や代謝物の塊です。プラークとも呼びます。

歯茎の痛みが続く場合は、なるべく丁寧に歯磨きをして抗菌作用や抗炎症作用のあるうがい薬の使用をすると良いでしょう。痛みが続く場合は、歯科医師の指示のもとロキソニンなどの抗炎症薬を服用すると痛みが緩和される場合もあります。
なお、口内炎(※3)と同じように歯茎の腫れも炎症の一種なので、血液循環を良くすると痛みが増強することがあります。長時間の入浴やアルコール飲酒・激しい運動は控えるようにしてください。

また、根本的な原因が解決されていない場合は、痛みが再発することがありますので、まずは原因を特定する必要があります。特に、噛み合わせの悪さが原因で歯周病を発症し痛みが出ている場合は、できるだけ早く歯科医院で応急処置をする必要があります。

(※3)関連:「知っておきたい！歯科医師に学ぶ「口内炎の治し方」

歯茎の痛みを防ぐには、歯に歯垢・歯石がたまらないようにすることが大切です。そのためには自分の歯に合った歯ブラシを使い、正しい方法で歯磨きをしましょう。歯ブラシは人それぞれに合う・合わないがあり、例えば歯周病になりやすい人と虫歯になりやすい人では、おすすめしたいブラシの硬さや形状が異なります。ほかにも歯の生え方や形も関係するので、専門家の意見を聞きながらご自身に合った歯ブラシを探してみてください。
磨き方として守っていただきたいことは「歯ブラシを細かく優しく動かすこと」です。大きく動かすと表面だけが磨かれてしまって、歯の根元や歯周ポケットの細菌が取れなくなってしまいます。歯と歯の間の汚れを歯ブラシだけで除去するのは難しいので、できればデンタルフロスや歯間ブラシを併用しながら、丁寧に歯の汚れを取っていただきたいです。

また、痛みの防止にもっともよいのは、歯科医院を定期的に受診することです。ご自身で取れる歯垢には限界がありますし、歯石になると、歯ブラシでは取れません。歯科医院で定期的にポケットの洗浄を行うことにより、これらの汚れが除去できるため、細菌の繁殖や他の細菌への感染を予防することができます。余裕があれば歯並び矯正や段差ができているような被せ物や詰め物は治しておくとよいでしょう。

疲れてからだの調子がすぐれないときに歯茎がムズムズする・腫れるという方の歯茎は、細菌が悪さをしていることが多いと言えます。疲れたり寝不足になったりすると免疫が落ちて、ふだん押さえ込まれている細菌が暴れ出して痛みを増強させます。また、疲れやストレスが溜まっていると、無意識に寝ている間の食いしばりや歯軋りを起こすといわれています。食いしばりや歯軋りの時に歯にかかる力は凄まじく、歯周病になっている歯がさらに腫れたり痛みが出たりする原因になることもあります。

体調が戻ったりストレスが解消されたりして、免疫力が復活すると歯茎の痛みが治まることはありますが、細菌がなくなったわけではありません。もしも疲れたときに歯茎が痛んだ経験がある方は、きちんとケアをしてあげましょう。ただし、セルフケアだけでは歯茎の痛みは治らないうえに、すべての汚れや歯石は除去できません。痛みが気になる場合は放置をせずに、歯科医院での受診を心がけてください。

歯周病と関連のある全身疾患としてもっともリスクが高いのが糖尿病です。歯周病が悪化すると糖尿病も悪化し、逆に糖尿病が悪化すると歯周病が悪化します。このような歯周病と糖尿病の関係は少しずつ認知されてきていますが、まだまだ知らない患者さま、医師、歯科医師もいらっしゃいます。そのため、糖尿病と診断された方は合わせて歯科医院への受診が必須といえるでしょう。また、歯周病の方も糖尿病が発症、進行している可能性があるので医療機関の受診をおすすめします。歯周病＝糖尿病ではありませんが、念のため検査されることをおすすめします。

その他、歯茎が腫れやすい方としては、妊娠中の方があげられます。妊娠中はホルモンバランスが変わり、特定の細菌が繁殖しやすくなるといわれています。そのため、歯周病の発症を予防・改善する観点からも、歯茎の腫れが気になる妊婦の方は歯科医院の受診を検討してください。
また、稀なケースではあるものの、ベーチェット病などの自己免疫疾患では口内炎が多発することがあります。歯科医院で治療を受けても治らない口内炎や歯肉の炎症があれば、内科への受診をおすすめする場合があります。